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2020/11/20
唐十郎さん作の芝居「唐版 犬狼都市」下北沢の空き地で新宿梁山泊が上演
11月22日まで
「テント幕が切って下ろされた時、いきなり佇立(ちょりつ)する高層ビル群が視界に飛び込んできた。テントの客席で仰ぎ見るそれは、民衆と権力の関係を一瞬のうちに可視化した。資本主義の象徴たるビル群が、テントのフレームにすっぽりと収められたのだ。その光景は、さながら地べたにはいつくばった人々が果敢に挑みがかる冒険に見え、実に愉快だった」と、演劇評論家の西堂行人さんは初演当時を振り返る(新宿梁山泊のチラシより)。
同劇団代表の金守珍(キム・スジン)さん(65)は、「飛躍と省略が多い唐さんの作品の中でも難解な芝居」と話す。
テントや小劇場で行われるアンダーグランドの演劇は、権力への抵抗、抑圧からの解放など、自由を希求する役者、観客、双方の気持ちが混ざり合う。
新型コロナウイルス禍で演劇を取り巻く状況は厳しいが、唐さんたちが築いたアングラの精神は、脈々と続いている。
11月22日まで。午後7時開演。当日5,000円。ウイルス対策など詳細は同劇団(03-3385-7971)。
2020/06/07
憲法とメディア インタビュー(1)
劇作家、演出家 詩森ろばさんインタビュアー 明珍美紀
文化は「命の産業」
--「文化芸術復興基金」の目的は。
詩森さん まずは、外出自粛や緊急事態宣言による経済的な損失の補てんです。文化関連の興業はどこよりも早く自粛したため、3カ月近く動きを止めざるを得ませんでした。また、緊急事態宣言の解除後も慎重な姿勢で再開させなければいけません。だからこそ、コロナ禍を生き延びるための具体的な方法、経済支援を急ぎ構築する必要があります。そうしないと文化が根絶やしになってしまう。文化の蓄積は、失ってはじめて分かる。つまりなくならないと分からない。一朝一夕ではつくることができない貴重なものです。
--省庁要請の後、衆院議員会館で行った記者会見で発言なさったとき、憲法25条について触れていました。
詩森さん 自分が知らない世界に触れる。他者を理解する。文化はその大切な手段。現代人が宿命的に抱えている生きづらさを助ける大きな役割を果たしています。憲法25条では、健康で文化的な生活を営む権利がある、と定められています。健康だけではなく文化があって初めて人間らしい生活になる。それゆえ文化は「命の産業」とも言われているのです。
--演劇、ミニシアター、ライブハウス・クラブという三者合同アクションは初めてだそうですね。
詩森さん この三者は、日ごろから密接な交流をしているわけではありません。今回、ミニシアターやライブハウス・クラブの方々と話し合うなかで、そもそもそれらが文化団体のくくりに入っていないことを知りました。けれども、この二つは、観客への優良なコンテンツの配信、地域では享受しづらい多様な文化の拠点、人材育成の場として日本の文化を根底から支えています。ミニシアターやライブハウス・クラブはハコの中身まで責任を持つ複合的な文化芸術団体であり、いわゆる「ハコモノ行政」と対極にあると私は思っています。演劇は、文化助成の対象ではありますが、助成を受ける際、限りなく非営利に近い団体であることが求められます。憲法が言う「文化的生活」に寄与しているのに、それが助成金なしには成り立たないことが助成の条件です。企業体としてはとても小さい。そういう集団や個人が、この国の文化を支えている現状があります。そんな日本ですが、実は世界から「文化的に豊かな国」という印象を持たれています。
私たち自身、文化というものが、こんなにもたくさんの人の力で成り立っているのだと、この危機のなかで痛感しました。技術、制作のスタッフ、俳優、ミュージシャン。なのにこれらの人々を守る十分な経済的体力がないのが実情です。結果として、新型コロナウイルスの深刻な影響が、文化団体やその周辺の人々の経済的な困窮となって襲いかかってきたのです。
--この間、民間からファンドを募る基金が開設されましたが。
詩森さん それだと、時間的に遅くなるうえに官が先導すべきことを民間に押し付けていることになってしまいます。世界的パンデミックを、既存の制度設計で切り抜けるのは文化政策にとどまらないことですが、不可能です。これを機に、地震、台風などの自然災害を含めた非常時の支援と、文化を育てる中長期の包括的な支援体制を整えてほしい。この未曽有の事態が去った後、どう日本の社会をデザインしていくかということにも密接に関わると言えます。
--ところでご自身はなぜ演劇の道に。
詩森さん 私は東北の出身ですが、小学生のとき、母に連れられて新劇女優、山本安英さんの舞台「夕鶴」を盛岡で見たことが、いまの自分につながっています。高校時代は、夏休みなど長期の休みのたびに東京の親類の家に泊まり、劇団四季や自由劇場など、さまざまな舞台を見ました。とりわけアングラが好きで、第七病棟、転形劇場、あと唐十郎さんの芝居も。盛岡では黒テントの公演がありました。
高校卒業後、有志と演劇活動を始め、風琴工房という劇団を設立し、旗揚げ公演は、拒食症という題材に、メーテルリンクの「青い鳥」を重ねたような物語。当初から社会的な問題を取り上げていましたね。
--歴史的、社会的なテーマを掘り下げて綿密に描くことに定評があります。映画「新聞記者」(2019年公開、藤井道人監督)の脚本執筆にも参加なさいました。
詩森さん 実際の出来事を想起させる、官僚と新聞記者のせめぎ合いを通して「権力とメディア」、「組織と個人」の問題を描く作品でした。--日本アカデミー賞では、最優秀脚本賞を受賞。このときは、韓国人女優、シム・ウンギョンさんの最優秀主演女優賞をはじめ計6部門の受賞でした。
詩森さん プロデューサーが、この時期にこの映画を撮ろうと思った志が評価されたと思っています。 --コロナ禍の影響は。
詩森さん私は常にマイノリティーの視点から社会を見るよう心がけています。
演劇は、おろかさも愛おしいと思わないと、できない仕事。「人はどう生きていくか」。それを書くために、いろいろなところからボールを投げていく。
いまは劇場で少しでも早くみなさんにお会いしたい。稽古場で役者やスタッフにも。「稽古場って、劇場って、ものすごく大事なものだった」と改めて知った自分に何ができるかを考えています。
しもり・ろば 1963年仙台市生まれ。小学生のときから盛岡市で過ごし、高校卒業後に上京。93年劇団「風琴工房」設立(2017年解散)。扱う題材は、マイノリティー、水俣病、沖縄、金融、歴史物など多彩。現在は演劇ユニット「シリアルナンバー」主宰。