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2020/12/10
ある財界人は言った 「馬鹿な大将 敵より怖い」

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仲築間卓蔵
仲築間卓蔵
 79回目の「12月8日」を迎えた。
 「戦前と戦後を生きて いま戦前」・・・いつだったか、毎日新聞の川柳の一句である。「戦争って湾岸戦争のこと? それともベトナム戦争?」という人が多くなっている。
ぼくらの世代の戦争は、日中戦争(支那事変と呼ばされていた)と太平洋戦争の15年である。総務省の2019年人口推計によれば「戦後(アジア太平洋戦争が終結した1945年以降)生まれは総人口の84.5%」だという。戦争体験者がゼロになる時代はすぐそこまできている。
 
 ぼくの生まれは昭和7年(1932年)である。
 この写真は父親が日中戦争に招集された時(昭和13年5月)のもの。前列右端がぼくだ。
 次の写真はマスコミ九条の会結成(2005年、文京シビックホール)の時に紹介した「日の丸」。父親の無事帰還を祈って親戚が寄せ書きしたものだ。おかげ?で中国からは無事帰ってきた。

 昭和16年(1941年)12月8日のラジオ放送はいまだに耳に残っている。「臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部発表。本12月8日未明、帝国陸海軍は西太平洋において米英軍と戦闘状態に入れり」。そして「軍艦マーチ」が鳴り響いた。
父親に二度目の招集。赴任先の長崎・五島列島で終戦。幸い生き延びて帰れたが、帰路で見た長崎の惨状の報告はショックだった。

●最近Facebookで知ったこと。1941年12月8日の知識人
 「いつにない清々しい気持ちで上京。文藝春秋社で宣戦の御詔勅奉読の放送を拝聴した」(文芸評論家・小林秀雄)
 「戦はついに始まった。そして大勝した。先祖を神だと信じた民族が勝ったのだ」(作家・横光利一)
 「昨日、日曜日ヨリ帝国ハ米英二国二タイシテ戦闘ヲ開始シタ。老生ノ紅血躍動!」(歌人・斎藤茂吉)
 「この捷報(しょうほう)を聴かれたもうた時の陛下のみこころを恐察し奉った刹那、胸がこみ上げて来て我にもあらず涙が流れた」(詩人・高村光太郎)
 「維新以来我ら祖先の抱いた無念の思いを、一挙にして晴らすべきときが来たのである」(評論家・亀井勝一郎)
 「開戦を知った時、とんでもないことなったと思うのと同時に・・・やっと便通あったという感じでした」(社会学者・清水幾太郎)

 民放関東シニアの会・12月号に書いたものの転載
  健康第一で よいお年を

●ある日の「日刊ゲンダイ」が野村克也監督の言葉を紹介していた。「“野球とは”と問いかけたら果たして何人が答えられるか。誰も答えられないんじゃないの?。野球とは? 勝負とは?。“とは論”はつまり問題意識だよ」と。
スガ首相に問いかけたい「政治とは?」

●12月3日の東京新聞社説、「“桜を見る会”前日の夕食会への費用補填に加え、安倍前内閣元農相(吉本衆院議員)への現金提供問題が浮上した。しかし、国会は5日に閉会するという。会期を延長して当事者に説明させ、真相を究明すべきだ」・・・・・そのとおり!
 2日のしんぶん「赤旗」一面トップは、抜本的なコロナ対策と、日本学術会議会員の任命拒否の撤回、「桜を見る会」疑惑の糾明などを求める衆院議員会館前集会を報じたが、その記事の大見出しは「国会閉じる場合か」・・・・・・・・・・・・・・ そのとおり!

●加藤勝信官房長官の記者会見。「捜査活動に関する事柄についてのコメントは差し控える」「一般論としては、政治家は自らの行動について説明責任を果たすことが求められている」と。これは安倍内閣から続く政権の常套句だ。
説明責任が果たされたことはない!
政権側が責任を果たすよう促したこともない!

●10月26日、NHK『ニュースウオッチ9』。生出演した菅首相に有馬キャスターが(学術会議任命拒否問題について)「国民への説明が必要では?」と問いかけた。翌日、官邸からNHKに一本の電話。「総理が怒っていますよ。事前の打ち合わせと違う」と。
それを報じた週刊現代は「国谷降板事件の再来か?」と書いた。

●あらためて「国谷事件」とは。
2014年7月の『クローズアップ現代』、集団的自衛権問題で菅官房長官(当時)に国谷裕子キャスターが「政府は国民の懸念をどう払しょくするのか」と再三問いただし、納得が得られないまま菅の発言中に番組が終了した.菅激怒。「責任は取らせる」と発言したという。国谷さんは間もなく退任した。
菅首相はNHKを、いやテレビ全体を意のままにできると思っているのか。

●作家の辺見庸さんは、菅の顔を「特高顔」(昔の特別高等警察)と評していたが、ぼくは、菅のあの「目」は「ファシストの目」だと思う。安倍よりも怖い。

 今年もあとわずか。ぼくの住む鎌倉は4月に市議会議員選挙。10月には市長選挙。その間に必ず総選挙です。市政も国政も変えることができる正念場中の正念場の年。一に健康二に健康で新年にのぞみます。
みなさん、よい年をお迎えください。
2020/10/18
〝日本学術会議への人事介入は「レッドパージ」の再来〟
〝日本学術会議への人事介入は「レッドパージ」の再来〟
       ―ファシズムの視点から衝く保阪正康さんの指摘を考える
            
                                福島 清
                  (「北大生・宮澤弘幸『スパイ冤罪事件』の真相を広める会」事務局)

1、保阪正康さんの問題提起

 「サンデー毎日」10月25日号は、「異端狩りを始めた菅政権 日本学術会議への人事介入は『レッドパージ』の再来である」と題した保阪正康さんの特別寄稿を掲載している。菅首相が就任初仕事とばかりに行ったこの事件について、憲法23条が保障する「学問の自由」侵害、日本学術会議に関する過去の国会答弁と矛盾する等々の厳しい批判が高まっている。しかし保阪さんが「レッド・パージの再来」という視点から、ファシズムの危険性に警鐘を鳴らしていることに注目したい。
 保阪さん特別寄稿について、私が注目したポイントは以下の個所である。

 今回の6人は思想がどうこうといった問題ではなく、「反政府的言動」を共産党と見立ててのレッドパージと考えると、まさに「アカデミック・パージ」の第1波ということになるであろう。
 このように政府の気にいらない人物を追放する時には必ず一定の法則がある、どういう法則か。
 <まず必ずターゲットを決めて、その人物を追放するように扇動する学者、研究者がいる。彼らは悪口雑言を浴びせるのが役目だ。やがて呼応する右翼勢力がそれに加わる。そして議会の国家主義的議員がそれを口汚く罵り出す。かつての時代はこれに軍部が支援の姿勢を露わにして、暴力的な威圧をかける。その揚げ句に行政がその人物を教壇から、あるいは学校や研究機関から追い出す具体的処分を行う>
 この法則を簡単にいえば、「扇動者―攻撃者―威圧者―権力者」という流れで見ることができる。
 確かに権力者は見えてきた。しかし「扇動者」「攻撃者」「威圧者」はまだ見えてこない。これまでの順序とは異なるのかもしれない。あるいは逆に、権力者から扇動者に向けて流れがつくられつつあるのかも知れない。
 日本学術会議が問題を抱えているなら、それはそれとして論じるべきだが、一見もっともらしい論が、「アカデミック・パージ」の実態を覆い隠すとすれば、どのような形でも「権力者」の強圧的な態度が常に肯定されることになり、ファシズムが日常化してしまう。そして、政治は国民の信頼をすべて裏切るものになるであろう。今、この国の政治状況はそういう段階だとの自覚が必要なのである。

2、  レッド・パージを問い直す

 今、「北大生・宮澤弘幸『スパイ冤罪事件』の真相を広める会(真相を広める会)・事務局」の一員として、「レッド・パージ70年―検証・新聞の罪と居直り―毎日新聞を中心として」(仮題)の編集・制作に携わっている。2013年に結成した「真相を広める会」は、「宮澤・レーン・スパイ冤罪事件」について、北海道大学の責任を糺すとともに、その前年に発足した第二次安倍政権が策動していた「秘密保全法」(当時の呼称)制定を阻止することを目的に掲げた。
 以来今日まで、その活動を継続しているが、この運動を通じて痛感させられたのは、国家権力犯罪の残酷さである。そこで対象を広げて、他の国家権力犯罪についても調査を始めた。その過程で最初に思いついたのが、戦後最大の人権侵害事件とされている「レッド・パージ」である。新聞OBの一員でもあるので、まずは新聞のレッド・パージを調べてみたところ、驚くべきことに、新聞労連も私も一員であった毎日新聞労組も、パージを容認したうえで「一件落着」としていたのである。
 一方、2002年に結成された「レッド・パージ反対全国連絡センター」は、「レッド・パージ被害者の名誉回復と国家賠償」を求めて活動を継続し、2010年には60周年の集い、2015年には65周年の集いを開催している。その集いをまとめた冊子をいただいたが、そこにも新聞・放送関係のレッド・パージについては何も掲載されていないことが分かった。
 保阪さん提起を受けて、菅首相の日本学術会議新会員6人の「総合的・俯瞰的な活動を確保する観点から」称する任命拒否を考えてみると、レッド・パージ時点で日本政府と新聞経営者たちがとった態度と共通することに気づいた。かつて新聞経営者たちは「マッカーサー元帥の書簡(命令)」を理由とした。菅首相が任命拒否の理由を一切説明せずに言う「総合的・俯瞰的……」を「マッカーサー元帥の書簡」と言い換えてみれば、保阪さんが「レッド・パージの再来」と指摘するのも理解できる。
 当時の新聞経営者たちがレッド・パージ対象者にどのような態度をとったかを示す資料がある。毎日新聞政治部でレッド・パージされた嶌信正さんの証言である。『自処超然』と題した回顧録には、「レッド・パージで毎日を退社」と題した経過と、その後法廷へ提出された陳述書全文が掲載されている。ここでは、前項の経過報告全文を紹介する。
 
3、  嶌信正回顧録

 【レッド・パージで毎日を退社】
 東久邇内閣から吉田茂内閣に代わった時、私は外務省から厚生省へ移り、芦田均厚生大臣との知遇を得、榊原麗一秘書官とは他界するまで深い友情で結ばれた。この榊原氏の長男が、現在の大蔵省金融局長の英資氏である。しかし厚生省が分裂して労働省が発足することになり、今度は労働省を担当することになった。初代労働大臣は米窪満亮氏で、次官は吉武恵市氏。米窪氏は初代の海員組合長であり海のボスだったが、社会党右派なので安心して任命したのだろう。吉武氏は北京で親しくなった新谷要二君の叔父にあたるというので深い関係ができた。
 人の縁とは妙なものである。米窪労相は皇室を尊敬する念に篤く、陛下のカモ猟に招待された時は、貰ってきたカモを肴に我々労働記者を招待してくれたものだ。物のない時代だったので有り難かったが、元来私は酒に弱く、腹一杯呑み食いすると、無性に眠たくなり、後は朝日の後藤君と共同の和田君に頼んで寝てしまった。爾来、何かある度に二人に目配せしてグーグー寝てしまったものである.
 労働省はGHQの指示で新設された省で、労組法や労働基準法の制定で忙しかった。それに労働省の外郭である中労委は、対立した労使が訴えると和解を密議するところでもあり、結構忙しかった。そして仕事の範囲は、次第に労働省や中労委だけでなく社会党や共産党にも及んで行った。
 共産党は当時、徳田球一、野坂参三、伊藤律が勢力を誇っていた頃で、「明日、党が非合法になり徳球らが逮捕される」と噂されると素早く彼らは地下に潜り、かと思うといつの間にか首脳陣は北京に渡っていたものだ。
私はいつの間にか最左派の共産党を担当することになり、担当は左へ左へと押し流されて行った。もちろん私自身の考え方は、共産党とは一線を画していた。進歩的な社会主義を認めてはいたが、むしろ自由主義で民主主義者であったと思っている。社の組合大会などでは田村君と私が政治部から代議員に選ばれて、大いに議論をしたものである。今泉君は支部書記長をやっていたと思う。
 時を経て、そのうちに私は民主党の担当になった。当時、保守は自由党と民主党とに分かれており、後に二つが合併して自由民主党が誕生するのだが、その頃は未だ、民主党は中道政治を謳い、社会党や自由党との間に一線を画していた時代だった。
 それまでは、編集局内で冗談に「嶌はアカだ、共産党だ」などと云われていたが、中道派の民主党を受け持つことになって、今度は「嶌も共産党から中道左派に鞍替えした」と見なされ、徐々に周囲に見方も変わるだろうと思っていた矢先だった。物凄い雨の夜に目黒の八芳園で開かれた民主党役員会の取材をようやく終え、車で帰宅した夜のその翌朝、昭和二十五年七月二十八日、突然、私は社に呼び出された。
 「共産主義者もしくはそれに同調する者として、即刻出ていけ」と、渡瀬亮輔編集主幹(東京)から申し渡されたのである。私は、ただ呆然とするしかなかった。

 【ただ今から社を出て行け】
 昭和二十五年七月二十八日、私は田村五郎君、今泉正浩君らと共に編集局に呼び出され「GHQの命により、君たちを共産主義者並びにその同調者とみなす。即刻社から出て行け」と申し渡された。牧野純夫氏他、総勢二十八名である。当然、我々はそんな不当な申し渡しには承知出来ぬとして、佐伯群治氏、森長英三郎氏ら弁護士を代理人に「地位保全仮処分」を申請すると共に、毎日新聞不正馘首反対同盟を結成し、さらには朝日、読売、共同、NHKその他の被解雇者とも横の連絡組織を作り、言論弾圧反対同盟を結成して闘った。
 我々をクビにした元凶は、民同系に鞍替えした組合幹部とGHQであることがハッキリした。牧野純夫氏を会長とする産別系の全新連を脱退し、会社と一体となる民同系の組合に毎日労組を仕上げた森口忠造・全新聞委員長、磯江仁三郎・毎日労組委員長らが支局長を代議員に押さえ、会社側の山本光春・総務局長と組んで、思うがままに社を動かす反体制派で目の上のコブでもあった産別系の牧野会長や今泉君、そしてこれを支持する田村君や私を「レッドパージ」の名の下にバッサリやったのが実情のようである。
 また、余談だが、この闘争で有楽町でビラ配りをしている時、これまで親しかった友人は皆そっぽを向いて逃げるのではと思っていたのだが、逆に近寄って来て「酷い目に会ったな、元気か」と慰めてくれる友人が多数居てくれた。非常の時にこそ人間、友人というものが良く分かるとつくづく感じた。
            *
 菅首相の「問答無用」の先には、さらなる弾圧が想定される。陰湿かつ巧妙に。すでに、特定秘密保護法、共謀罪法等の弾圧法制が成立している。今回の日本学術会議に対する公然たる弾圧は、何としても阻止しなければならないと考える。
                                   (了)
2020/09/20
「市民連合」が立憲野党各党に要望書を提示
いのちと人間の尊厳を守り、憲法に基づく政治と主権者に奉仕する政府を
問題解決へのシステムと世界の中で生きる平和国家の道を              
       
丸山重威

 「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(通称「市民連合」)9月19日開いた拡大運営委員会で、「いのちと人間の尊厳を守る『選択肢』の提示を」と題する立憲野党の政策に対する要望書を決定、ホームページで発表した。「市民連合」はこれから、立憲民主、共産、国民民主、れいわ、社民、沖縄の風など、野党各党にこの要望書を示し、正式にこれを支持し、来たるべき総選挙を、統一して闘い、自民党・菅政権に代わる政権をつくれるよう求めていく。(「市民連合」https://shiminrengo.com/

「市民連合」は、2015年12月、「戦争法」反対運動などの中で、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」「安全保障関連法に反対する学者の会」「安保関連法に反対するママの会」「立憲デモクラシーの会」「SEALDs(当時)」が呼びかけ団体となって誕生した組織で、「安保法制の廃止と立憲主義の回復、そして個人の尊厳を擁護する政治の実現を目指す」市民の連合組織。
 2016年7月の第24回参議院議員選挙では、全国各地での野党共闘の下支えになり、32の一人選挙区全てで野党統一・市民連合推薦候補の擁立を実現。11の一人選挙区で勝利することに大きな力を果たした。2019年の参院選でも、野党との間で13項目の「共通政策」で合意、各地で統一候補を擁立した。

 「戦争法」が強行採決で成立してから5年の19日、野党共闘の取り組みを後押しするとともに、個人の尊厳を擁護する政治をいっそう具体化していくため、調整、すり合わせをしてきた合意事項を、今回、正式に決めたもので、13項目をさらに進めて、①憲法に基づく政治と主権者に奉仕する政府の確立②生命、生活を尊重する社会経済システムの構築③地球的課題を解決する新たな社会経済システムの創造④世界の中で生きる平和国家日本の道を再確認する―の大項目に分け、15項目の要望を掲げている。

 今回の要望書は、これまで統一が難しかった「原発」「沖縄」「消費税」についても、議論を重ねた末、幅広い結集がされやすいよう練られた文章になっており、ただ要求を集めただけではなく、将来の日本のあり方についても方向を打ち出していることが特徴だ。、

菅内閣の登場で、コロナも忘れ、なぜか内閣支持率が急上昇しているが、コロナ危機を拡大させたのは、国の役割である「公助」の体制を放置、縮小し、国民に「自己責任」「格差拡大容認」「自助」を強いてきた「新自由主義」の誤りだ。この要望書は、「安倍内閣の継承」をうたいあげる新政権に、市民が突きつけた「新しい日本の青写真」。この要望を軸に、全国で、「市民的統一の風」を起こしていきたいものだ。


▼仕組まれていた「菅後継」

 7年8カ月の長期政権を担った安倍首相は、病気を口実に退陣したが、会食でステーキを平らげたり、「持病の潰瘍性大腸炎が再発し、国民の負託に、自信を持って応えられる状態でなくなった」と言っていたはずなのに「治療によってなんとか体調を万全とし、次なる政権にも、影響力(を発揮して)一議員として支えてまいりたい」と述べた。また、フリージャーナリスト・山岡俊介氏主宰の「アクセスジャーナル」は「当初、官邸側は慶応大学病院に診断書を出してもらうつもりだったが、大学病院側が“虚偽診断”はできないと拒否した」との情報を伝えている。

 9月11日には、退陣した総理が「新方針」への談話を発表するなど異例のことだが、「ミサイル防衛に関する新たな安全保障政策」の談話を発表。まさに影響力を残すことに意欲を示した。こうなると、安倍首相の「病気退陣」は、まさに、「実際に病気になっていても政治的必要性からそれを過度に重く見せるなど、病気を政治的に利用する」「政治的仮病」(水島朝穂早大教授)で、退陣の真相は、コロナ禍の対策を始め、思うようにならない政治局面に、行き詰まって嫌気がさし、政権を放り出したということになろう。

 安倍首相としては、政権を批判してきた石破を後任にするわけにはいかない、との思いから、「菅後継」を考え、二階幹事長、麻生副総理などと会食を重ねながら、退陣表明→全党投票を避けた両院議員総会による簡易総裁選による選出の段取りを進め、8月20日には菅後継で固まり(週刊ポスト9月26日号。森功レポート)、29日には菅、二階、森山裕国対委員長の会食で「あんたしかいない」と菅氏を口説いて確認、「一気に流れ」(4日朝日)をつくった、という。
 そして、二階派、石原派に続いて、2日には細田、竹下、麻生の3派が同時に擁立記者会見をするなどの演出をしながら、 「菅氏支持 議員の8割」(9日朝日)の状況を作り、9月14日菅総裁を実現、16日には国会を召集し、首班指名で菅義偉氏を第99代内閣総理大臣に指名、菅内閣が発足した。

 菅新首相は、自民党総裁を争った石破、岸田両氏が「リセット」や「格差是正」などを主張したのに反して「安倍政治の継続」を公言した。


▼格差是認、自己責任の「新自由主義」か、国民生活優先の「立憲主義」か

 特に注目されるのは、菅新首相が、総裁選の中でも就任後も、「自助・共助・公助で信頼される国づくり」を主張。就任会見でも「私が目指す社会像、それは、自助・共助・公助、そして絆。まずは自分でやってみる。そして家族、地域でお互いに助け合う。その上で政府がセーフティーネットでお守りをする」と、「自己責任」と「小さな政府」論の「新自由主義」路線を明言したことだ。

今回、コロナ禍の中で、検査・医療体制をはじめ、文化・芸術・教育や、中小企業への対策があまりにも薄いことが明らかになり、それが、経済・利益優先、受益者負担論の「新自由主義」から生まれ、この経済体制とものの考え方が誤りではないか、と問題になっているが、そこに目を向けないまま、その「継続」をしようというのは、あまりにも無神経で状況を見ない硬直した姿勢だ。

 この結果、自殺した財務局元職員の妻が求め続けている再調査についても「既に財務省で調査を行って、処分もしている。検察の捜査も行われ、結論も出ている」と拒否、「桜を見る会」については、「来年以降、今後は中止したい」と、究明から逃げる姿勢を露骨に示した。

 自民党総裁選とほぼ同時に、立憲民主党と国民民主党の合流がまとまり、10日、新しい立憲民主党の代表に枝野幸男氏が選ばれ、野党第一党の座を占めることになった。
 15日には結党大会が行われたが、そこで枝野氏は、「自助や過度な自己責任を押し付ける新自由主義的な社会を変え、ベーシック・サービスを質量ともに充実させる、再分配機能を取り戻す、命と暮らしを守る支えあう社会をつくっていこう」と呼びかけ、菅政権の「新自由主義」との対立点を明解にした。

 「市民連合」の野党への要望は、この新・立憲民主党の考え方にも合致したもので、総選挙を念頭に、「どういう日本を作るか」の論争の基礎になると期待される。


「市民連合」の要望書の要旨は次の通り。

  全文は、このサイトの【資料室】参照。


 【いのちと人間の尊厳を守る「選択肢」の提示を】
      〈立憲野党の政策に対する市民連合の要望書 (要旨)〉


はじめに

 私たち市民連合は、2015年の安保法制反対運動以来、憲法に基づく政治を求めてきた。しかし、法と道理をわきまえない安倍晋三政権とその継続を公称する菅義偉政権の下で、新型コロナウイルスの蔓延を迎える状況となった。人間の尊厳を顧みず、為政者の自己正当化のために、情報を隠蔽してきた安倍・菅政権の対策が的外れなのは必然の帰結だ。我々は今までの運動の延長線上で、法と道理に基づいて人間の生命と尊厳を守る政治を確立するために運動を深化させなければならない。そして自民党政権に代わり、新しい社会構想を携えた野党による政権交代を求めていきたい。
 政治の最大の使命は、いのちと暮らしの選別を許さないことにある。新型コロナウイルスの危機のさなか、医療、介護、福祉など「この人たちがいないと社会は回らない」エッセンシャルワーカーが、この30年間の「小さな政府」や「柔軟化」を旗印とする雇用破壊で、過酷な労働を強いられてきたことも明らかになった。彼ら・彼女らの過酷な状況は、一部の企業に富を集中する一方で働く人々に貧困と格差を押し付けてきたこれまでの経済システムの象徴。個々の人間の尊厳、互いの平等という基本的価値観の上に立ち、このシステムを転換し、社会を支える人々の尊厳を守ること、すべての働く人々が人間らしい生活を保障されることを、新しい社会像の根幹に据えなければならない。
 次期総選挙は、自民党政権の失政を追及する機会であると同時に、いのちと暮らしを軸に据えた新しい社会像についての国民的な合意、いわば新たな社会契約を結ぶ機会となる。野党各党には、この歴史的な転換を進めるべく、以下の政策について我々と合意し、国民に対して選択肢を提示し、その実現のために尽力するよう要望する。

Ⅰ 憲法に基づく政治と主権者に奉仕する政府の確立

1.立憲主義の再構築
 公正で多様性にもとづく新しい社会の建設にむけ、立憲主義を再構築。安倍政権が進めた安保法制、特定秘密保護法、共謀罪などの、違憲の疑いの濃い法律を廃止。憲法「改定」とりわけ第9条「改定」に反対し、改憲発議をさせないために全力を尽くす。日本国憲法の理念を社会のすみずみにいきわたらせ、公正で多様な社会を求める市民、企業、団体との連携をすすめ、安倍政権で失われた民主主義の回復に取り組む。

2.民主主義の再生
 主権者が、公共の場をどう作り出すか自由闊達に議論し、決めていくという民主主義を取り戻す。そのため、国会の行政監視機能の強化、選挙制度の見直し、市民参加の制度の拡充、学校教育における自由な主権者教育を実現する。また、地方自治体の自由、自立を確保、中央省庁による無用な制度いじり、統制、操作、誘導を排し、一般財源を拡充する。

3.透明性のある公正な政府の確立
 安倍政権下の官邸主導体制で、権力の濫用、行政の歪みが深刻化している。政府与党による税金の濫用や虚偽、隠蔽で生じた市民の政府への不信の高まりが、効果的な新型コロナウイルス対策を妨げている。透明性のある公平な行政の理念のもと、科学的知見と事実に基づく合理的な政策決定を確立し、政策への信頼を取り戻すことが求められている。
 内閣人事局の改廃を含め、官僚人事のあり方を徹底的に再検討、一般公務員の労働環境を改善し、意欲と誇りをもって市民に奉仕できる体制を確立する。国民の知る権利と報道の自由を保障するために、メディア法制のあり方も見直し、政府への監視機能を強化する。

Ⅱ 生命、生活を尊重する社会経済システムの構築

4.利益追求・効率至上主義(新自由主義)の経済からの転換
 新型コロナウイルスの危機は、医療、教育などの公共サービスを金もうけの道具にしてきた従来の改革の失敗を明らかにした。医療・公衆衛生体制、労働法制、教育政策等への市場原理の導入により、社会的な危機が市民の生活の危機に直結する事態が生じている。利益・効率至上主義を脱却し、国民の暮らしと安全を守る新しい政治を目指す。

5.自己責任社会から責任ある政府のもとで支えあう社会への転換
 小さな政府路線と裏腹の自己責任の呪縛を解き、責任ある政府のもとで支えあう社会をめざす。新しい社会をつくりあげるために、財政と社会保障制度の再分配機能を強化。消費税負担の軽減を含めた、所得、資産、法人、消費の各分野における総合的な税制の公平化を実現。社会保険料負担と合わせた低所得層への負担軽減、富裕層と大企業に対する負担の強化を図る。貧困対策では、現金・現物の給付の強化と負担の軽減を組み合わせた実効的対策を展開し、格差のない社会をめざす。

6.いのちを最優先する政策の実現
 新型コロナウイルスとそれに伴う経済危機による格差の拡大を阻止する政策が求められている。医療・公衆衛生体制に国がしっかり責任をもち、だれでも平等に検査・診療が受けられる体制づくりをめざす。感染対策に伴う社会経済活動の規制が必要な場合には、労働者、企業への補償に最優先の予算措置を講じ、公平性、透明性、迅速性を徹底する。

7.週40時間働けば人間らしい生活ができる社会の実現
 先進国中、日本だけが実質賃金が低下している現状を是正、中小企業対策を充実させながら、最低賃金「1500円」をめざす。世帯単位ではなく個人を前提に税制、社会保障制度、雇用法制の全面的に見直し、働きたい人が自由に働ける社会を実現する。そのため、配偶者控除、第3号被保険者などを見直す。これからの家族を形成しようとする若い人々が安心して生活できるように公営住宅を拡充する。

8.子ども・教育予算の大胆な充実
 出産・子育て費用の公費負担を抜本的に拡充。保育の充実を図り、待機児童をなくし、安心して働ける社会を実現する。教育予算を拡充し、ゆとりある小中高等学校の学級定員を実現。教員や保育士が安心して働けるよう、待遇改善をすすめる。教育を受ける機会の平等を保障するために、大学、高専、専門学校に対する給付型奨学金を創設。大学、研究機関における常勤の雇用を増やす。学問の自由の理念の下、研究の自立性を尊重、政策形成に学問的成果を的確に反映させる。

Ⅲ 地球的課題を解決する新たな社会経済システムの創造

9.ジェンダー平等に基づく誰もが尊重される社会の実現
 雇用、賃金、就学の性差別を撤廃、選択的夫婦別姓を実現、すべての人が社会、経済活動に生き生きと参加する当然の権利を保障。民主主義を徹底するため、議員間男女同数化(パリテ)を実現、人種的、民族的差別撤廃措置を推進。LGBTsに対する差別解消施策を推進する。これらの政策を通して、政治、経済の男性優位の画一主義を打破する。

10.分散ネットワーク型の産業構造と多様な地域社会の創造
 エネルギー政策の転換を高等教育への投資と結合、多様な産業の創造を支援。地域の保育、教育、医療サービスの拡充で地域社会の持続可能性を発展させ、災害対策、感染対策、避難施設の整備に国が責任をもつ体制を確立。中小企業やソーシャルビジネスの振興、公共交通の確保、人口減少でも安心して暮らせる地域づくりを後押しする政策を展開する。

11.原発のない社会と自然エネルギーによるグリーンリカバリー
 地球環境の危機を直視、温暖化対策の先頭に立ち、脱炭素化を推進。2050年までに再生可能エネルギー100%を実現する。福島第一原発事故の検証、実効性のある避難計画の策定をすすめ、地元合意なき原発再稼働は認めない。再生可能エネルギー中心の新エネルギー政策の確立と地域社会再生で、原発のない分散型経済システムをつくりあげる。

12. 持続可能な農林水産業の支援
 農林水産業については、単純な市場原理に任せず、社会共通資本を守るという観点で、農家戸別補償の復活、林業に対する環境税による支援、水産資源の公的管理と保護を進め、地域における雇用を守り、食を中核とした新たな産業の育成を図る。また、カロリーベースの食料自給率について50%をめどに引き上げる。

Ⅳ 世界の中で生きる平和国家日本の道を再確認する

13. 平和国家として国際協調体制を積極的に推進、実効性ある国際秩序の構築をめざす。
 平和憲法の理念に照らし、「国民のいのちと暮らしを守る」、「人間の安全保障」の観点にもとづく平和国家を創造し、WHOをはじめとする国際機関との連携を重視、医療・公衆衛生、地球環境、平和構築にかかる国際的なルールづくりに貢献する。「核兵器禁止条約」を直ちに批准する。国際社会の現実に基づき、「敵基地攻撃能力」等の単なる軍備増強に依存しない、包括的で多角的な外交・安全保障政策を構築。自衛隊の災害対策活動への国民的な期待の高まりをうけ、防衛予算、防衛装備のあり方に大胆な転換を図る。

14. 沖縄県民の尊厳の尊重
 沖縄県名護市辺野古における新基地建設を直ちに中止し、環境の回復を行う。普天間基地の早期返還を実現し、撤去を進める。日米地位協定を改定し、沖縄県民の尊厳と人権を守る。さらに従来の振興体制を見直して沖縄県の自治の強化をめざす。

15. 東アジアの共生、平和、非核化
 東アジアでの予防外交や信頼醸成措置を含む協調的安全保障政策を進め、非核化に向け尽力する。日韓関係を修復し、医療、環境、エネルギーなどの課題に共同対処。日中平和友好条約の精神に基づき、東アジアの平和維持のため地道な対話を続ける。日朝平壌宣言に基づき北朝鮮との国交正常化、拉致問題解決、核・ミサイル開発阻止に向けた多国間対話を再開する。
(了)
2020/08/31
「安倍政治の終焉」とメディアの「覚悟」
仲築間卓蔵
仲築間卓蔵

 8月28日。安倍首相が辞意表明した。持病の潰瘍性大腸炎が悪化したのが理由だ。気の毒だし、治療に専念してほしいが、だからといって安倍首相のやってきたことを見過ごすわけにはいかない。ざっと振り返ってみる。
 2012年末に発足した第二次政権の目玉は「アベノミクス」。成功すればトリクルダウン(大企業の儲けが滴り落ちる)があるといわれたが、滴り落ちたか!。
翌年早々、メディア各社の代表との会食作戦がはじまった。情けない話だが、メディアは簡単にとりこまれていくことになる。2013年7月の参院選で自民圧勝、衆参ねじれ現象解消でやりたい放題がはじまる。12月、秘密保護法が強行採決された。
 2014年、消費税率8%に。7月、集団的自衛権行使容認を閣議決定。2015年、自民総裁選で無投票再選。ここからあくどい政治の私物化がはじまったといっていい。2017年2月、トランプと初会談。5月、「2020年に改憲目指す」と表明。6月、衆院選で自民圧勝。政治の私物化ますますひどくなる。2018年9月、自民総裁選で石破を破って連続3選。
 2019年5月、新天皇即位。7月参院選、改憲勢力3分の2割れ、消費税率10%に引き上げられた。2020年3月、東京五輪・パラリンピックの1年延期が決定した。来年実施できるのか・・中止を決定して国民のいのちと生活を守ることに徹すればいい。4月、新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言。5月,賭け麻雀問題で黒川東京高検検事長が辞職。8月終戦記念日、弔辞の中に「積極的平和主義」という言葉が入ってきた。「積極的平和主義」とは「軍事力強化」と同義語だ。
 この他に、モリカケ問題は残ったままである。カジノ収賄事件、1億5千万円もの選挙資金問題の河井夫妻事件などがある。いったいアベ政治の7年8ヵ月は何だったのか。隠ぺい、改ざん、汚職、買収の7年8ヵ月ではなかったか。安倍政治の一丁目一番地は沢山あるが、「アベノミクス」は失敗した。北方領土、拉致問題は1ミリも動いていない。「口先だけの政権だった」という評価を残しての退陣だったということになる。
 この稿が出るころ、自民党の総裁選はどうなっているのだろうか。誰がなったとしても1年の任期。来年11月までには必ず「総選挙」となる。いま国民が求めているのは「安倍の辞任」ではなく、「安倍政治の終焉」なのだ。望まれるのは「歴史的な政権交代」。総選挙に向けて今、野党共闘の政策づくりが進んでいると聞く。メディアの覚悟も、正念場中の正念場中の正念場です。
 
2020/08/27
「積極的平和」「敵基地攻撃能力」
 天皇は「過去を顧み、深い反省」、
 首相は「歴史」抜き「積極的平和」
    「戦争」で「平和」を造れるのか!                丸山 重威   


  ▼「8.15」の天皇と首相

 戦後75年の8月15日、「日本敗戦の日」、コロナ禍で参加者は、例年の1割弱と減らされたが、日本武道館では、全国戦没者追悼式が行われた。徳仁天皇、雅子皇后夫妻は、2度目の「お言葉」で「私たちはいま、新型コロナ感染症の感染拡大により新たな苦難に直面」していると指摘し、「私たち皆が手を携えて、この困難な状況を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います」と述べ、コロナ禍の国民を激励した。そして、「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」と、過去の戦争の「反省」を口にした。

 ところが、「式辞」を述べた安倍首相は、これまで述べていた「歴史と謙虚に向き合い」(2016~2019年)や「歴史の教訓を深く胸に刻み」(2019年)といった言葉は消え、「戦争の惨禍を、二度と繰り返さない。この決然たる誓いをこれからも貫いてまいります」としながら、「我が国は、積極的平和主義の旗の下、国際社会と手を携えながら、世界が直面しているさまざまな課題の解決に、これまで以上に役割を果たす決意です」と述べたあと、安倍流の「平和主義」を公然と主張した。

 イージス・アショアの配備断念を機会に、かつての鳩山一郎首相の見解をもとに、「敵基地攻撃論」を打ち出したのに続く「積極的平和主義」の主張。結びついた2つの主張はまさに、憲法に基づき、築きあげられてきた「平和構築」の議論を根本から覆すものだ。

▼積極的平和主義のウソ            

 安倍首相は2013年9月25日、米ハドソン研究所で「ハーマン・カーン賞」受賞記念の演説で「日本という国は、米国が主たる役割を務める地域的、そしてグローバルな安全保障の枠組みにおいて、鎖の強さを決定づけてしまう弱い環であってはならない」「日本は、地域の、そして世界の平和と安定に、いままでにも増してより積極的に、貢献していく国になります」「私は、私の愛する国を積極的平和主義の国にしようと、決意しています」と発言、続いて国連総会でも、「国際平和維持活動(PKO)をはじめ国連の集団安全保障措置によりいっそう積極的な参加ができるよう図っていく」と述べ、さすがに大きな問題になった。

 「積極的平和主義」とは「Proactive Contribution to Peace」。つまり「平和への積極的貢献」という米国流の平和論で、「平和を造るためには軍事力行使も辞さない」という主張だ。「Proactive」という言葉は、辞書によれば、「人、ポリシー、またはアクションの発生後に対応するのではなく、発生させることによって状況を作成または制御すること」。つまり、平和のために「先制的に」行動することを意味している。
 米国はイラクでも、アフガニスタンでも「自衛のための戦争」だ、と主張していることはご存じの通り。まさに Proactive に、「平和のための戦争をしている…」というのだ。

 これは「平和学」で言われる「積極的平和」(Positive Peace)とは明確に違っており、平和学のヨハン・ガルトゥング博士は、「積極的平和」とは、貧困、抑圧、差別などの「構造的暴力」がない状態のことをいい、決して「テロとの戦い」に勝利して、脅威を取り除くようなことではない、と述べている。
 「戦争法」が問題になっていた2015年、来日した博士は、「参院で審議中の安全保障関連法案は、平和の逆をいくものです。成立すれば、日本は米国と一致協力して世界中で武力を行使していくことになるでしょう。そうなれば、必ず報復を招きます。日本の安全を高めるどころか、安全が脅かされるようになります」と述べていた。

▼指摘できない「敵ってどこだ?」

 「敵基地攻撃論」もこの先制攻撃につながる概念だ。
 安倍首相は、イージス・アショアの断念の見返りに、自民党・国防族に「提言」を作らせ、「新しい方向性を打ち出す」と安保政策の大転換を計画中だ。
 この議論も、古くて新しい。もとは、1956年の鳩山一郎首相の見解がベースになっている。「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられない」「他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います」(1956年2月29日、衆院内閣委員会)。

 これを主張する人たちは、「攻撃されたら反撃する」から「例えばミサイルに燃料が注入されボタンを押すだけになったら」になり、「『東京を灰じんに帰す』と宣言し、ミサイルを屹立(きつりつ)させた時点で敵基地攻撃が可能」(2003年石破茂防衛庁長官)ということらしい。

 「他国からの攻撃が切迫し、それを防ぐ他の有効な手段がない場合、敵地を攻撃する行為は国際法上、違法な先制攻撃でなく正当な自衛権の行使」というこれまた米国流の自衛権論は、「攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使する」という憲法に基づく「専守防衛」の安全保障政策とは真っ向から対立するが、早い話、米国のイラク攻撃や、アフガニスタン攻撃も米国では「自衛権行使」だから恐れ入る。米国はこの手の攻撃を「人道的介入」などという言葉でごまかしてきた。

 さらに、政府や自民党が、今回「相手領域内への攻撃」と言い「敵基地」と言わなかったのは、日本の周辺、どこにも「敵」はいないはずだし、「敵」だと認定すれば、少なくとも外交は、それでおしまいだからだ。
 もう一つ指摘しよう。現代の戦争は、「先制攻撃」と言っても、「防御戦争」といっても、どちらが先に、誰が始めたかわからないのが常で、謀略は戦争につきものだ、と言うことだ。
 15年戦争のスタートになった、1931年の柳条湖事件は日本・関東軍の自作自演だったし、1964年8月、米軍の舟艇が攻撃されたというトンキン湾事件はペンタゴン・ペーパーで、米軍が仕組んだものだったことがわかった。2003年のイラク戦争の理由とされたイラクの大量破壊兵器製造も、にせ情報だった。つまり、常に強国が弱小国を攻撃する口実に使われるのが、この「自衛論」なのだ。

 ▼新聞に反省はないのか

 このように、問題がある新防衛論だが、例によって、新聞論調は分かれている。
 朝日、毎日、東京が「専守防衛の原則から逸脱する」などと反対しているのに対し、産経は「国を守るための有効な手段」として、政府に保有の決断を迫り、読売も「日本に被害が及びそうな場合、ミサイル拠点を攻撃する選択肢を持つことは妥当だ」とこれを支持する。ともに、言うのは、相も変わらず、北朝鮮と中国の「脅威」。
 産経は「国民の生命と日本の平和を守る防衛力について、最大与党が真剣かつ冷静に検討した結果である」と評価、「北朝鮮や中国は、日米のミサイル防衛網を突破しようと自国のミサイルの能力向上や増強に余念がない。ミサイルには核弾頭が搭載される恐れもある」とし、読売は「武力攻撃に着手した国に対する自衛の措置は、国際的にも認められている」「北朝鮮は、変則的な軌道の弾道ミサイルを繰り返し発射した。中国は、音速の5倍以上で飛行する高性能兵器を開発している。現在の防衛体制で、こうした最新兵器に対処するのは難しい」という。相も変わらず、武力には武力で、と言う旧態依然たる発想から抜け出せない論調だ。

 でも、産経も、読売も、これでよかったのか?
 かつて戦争の惨禍を押しとどめることができなかった日本の新聞は、その痛恨の反省に基づいて日本国憲法を支持し、戦争のない世界を目指したはずだった。「8.15」はその反省の日だったはずだ。そんなに2つの国が問題なら、なぜそれらの国と話し合って、「不可侵」でも「不戦」でも、「相互安全保障」でも、約束ができないのか? 産経も、読売もそんな提案ができないのはなぜだろうか? 

 河野太郎防衛相は記者会見で「周辺国の理解を得るには何が重要か」と聞かれて、「なんで了解が必要なんですか」と聞き返した。東京新聞8月27日社説は「周辺国の理解欠かせぬ」と問題提起している。「了解があればいいのか?」と聞きたいところだが、それ以上に危険で、問題があるテーマなのだ。

                                (了)             

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