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2021/07/10
旭川医大取材中の女性記者逮捕に関する抗議声明
 2021年6月22日、旭川医大の学長解任を議論する学長選考会議を取材していた北海道新聞の女性記者が、大学職員により私人逮捕され、北海道警旭川東署に48時間身柄を拘束されました。(なお、6月27日「今週の視点」を参照してください)
 北海道新聞は、この件について、2週間後の7月7日、「調査結果」とする見解を表明したが、取材活動を続けてきた社としての姿勢を明らかにすることよりも、取材先と警察の行動を容認するかのようなものでした。取材記者本人の説明も、事実関係も明らかにされておらず、真相は必ずしも明らかではありません。
 しかし、仮に新人の当該記者の取材に、問題があったにしても、大学当局と、警察による常人逮捕、身柄拘束、という乱暴な行為に、ジャーナリズムの当事者が、何の抗議もしないということはむしろ不思議と言うべきでしょう。これは記者が新人であったから、女性だったからという問題でもありません。
 日本ジャーナリスト会議は、2021年7月9日、「建造物侵入罪の濫用は取材行為への脅しに直結 ―北海道新聞記者の逮捕に抗議する」と言う声明を発表、「メディアで働く女性ネットワーク(WiMN )」は、6月28日、続いて、メディア総合研究所は8月5日、それぞれ以下のような声明を発表しました。



旭川医大・北海道警の行き過ぎた法執行に抗議し、道新に経緯の再調査と記者を守る施策の提示を求める見解

2021年 8 月 5 日

メディア総合研究所 所長 砂川 浩慶

 国立大学法人・旭川医科大学への取材をめぐり、北海道新聞(以下、道新)記者が逮捕され、48時間拘束される事案が発生した。メディア総合研究所は、今回の事案は行き過ぎた法執行であり、大学・警察に抗議するとともに捜査を集結させることを求める。また、北海道新聞社に対しては第三者機関による調査を実施し、その経緯を明らかにするとともに、取材活動に従事する記者が安心して働ける環境整備を求める。

 一連の経緯は以下のとおりである。
 国立大学法人・旭川医科大学の吉田晃敏学長による不適切発言をめぐり、学長解任を審議することになった学長選考会議(非公開)を取材していた北海道新聞記者が6月22日に建造物侵入容疑で現行犯逮捕された。選考会議の開かれている看護学科棟4階廊下の会議室前で取材していたところ、会議室から出てきた大学職員が身柄を押さえ、北海道警旭川東署に引き渡したというものだ(常人逮捕)。各社の報道によれば、旭川医科大学は「記者は返答せず立ち去ろうとした。学外者が無許可で建物内に侵入していると判断、その場で取り押さえ警察に通報した」(毎日新聞7月3日朝刊)と説明している。
 吉田学長の不適切発言は、『週刊文春』2020年12月24日号が「コロナを完全になくすためには(クラスターが発生した)あの病院が完全になくなるしかない、ということ」などといった内容を報道したことで発覚した。
 ところが旭川医科大学の広報対応は、酷いものであった。具体的には▽地元記者クラブなどは同大に対し、以前から報道責任者による直接の対応を求めていた。だが、大学側は応じず、総務課とのメールでのやり取りが中心となっていた。メールでは「回答は差し控える」などと実質的な無回答も多く(毎日新聞7月3日朝刊▽学長選考会議の日程や会議の内容を電話で問い合わせても「分からない」「お答えできない」を繰り返すだけ。たとえば、「〇日に会議がありますね」と確認を求めると渋々認めるが、会議後に囲み取材に応じたとしても「お答えできない」の一点張り(『週刊金曜日』7月16日号)――という状態が続いた。

 記者が逮捕される4日前の6月18日の選考会議は前日(17日)に吉田学長側が文部科学相に辞任を申し出たと公表し、注目を集めた。このとき旭川医科大学側と、道新を含む複数の報道記者との間で会議の取材をめぐって押し問答になった経緯があるという。旭川医科大学は22日の選考会議の際、新型コロナウイルス感染防止を理由に構内への立ち入り禁止と会議後の囲み取材に応じることを報道各社にファクスで通知した。同日、選考会議は文部科学相に吉田学長の解任を申し出ることを決めた。
 記者を取り押さえた大学職員は、これまでのこうした広報対応を踏まえれば、会議室付近にいた人物は記者であり、会議の内容を取材していたと容易に認識できた。また、記者は旭川東署員には名刺と腕章を示していた。新型コロナウイルス禍とはいえ、国立大学法人という本来、社会に開かれた施設の公共性や、公共の利害に関係する事実を明らかにするためであったことを考慮すれば、記者の立ち入りは、録音を含めて報道を目的とした正当な取材活動・業務行為であると考えられる。

以上のことから、

 旭川東署が大学職員による常人逮捕の手続きを進めたうえ、身柄を48時間も拘束し、いまなお捜査を継続していることは、行き過ぎた法執行であると考える。北海道警は、捜査をただちに終結すべきだ。
 また、北海道新聞社は7月7日に社内調査結果を公表しているが、公表方法、内容からみて報道機関としての説明責任を果たしておらず、社員である記者を守る姿勢も感じられない。改めて、外部のジャーナリストも入れた調査を行い、その報告書を開示すること、取材活動に従事する記者が安心して働ける環境整備のため具体的施策を講じること、これらを記者会見によって自ら明らかにすることを求める。

以上




建造物侵入罪の濫用は取材行為への脅しに直結  北海道新聞記者の逮捕に抗議する

日本ジャーナリスト会議

2021年7月9日

 国立大学法人旭川医科大学の校舎内で、取材中の北海道新聞記者が建造物侵入の現行犯により逮捕された。大学側は「その場で身分や目的を問うたが、明確な返答がなく立ち去ろうとしたため、学外者が無許可で建物内に侵入していると判断し警察へ連絡した」と説明し、警察は「常人逮捕」(大学職員による逮捕)として身柄の引き渡しを受けたと発表。警察は記者を48時間留置した。記者の取材行動をめぐり、学問の府と警察権力が報道機関を「懲らしめる」という構図になった。
これは行き過ぎた大学の取材規制、不必要な警察の身柄拘束であり、看過できない。取材者に対する一種の脅迫である。公益目的の取材活動を萎縮させ、ひいては市民社会の自由の束縛につながることを私たちは危惧し、大学と警察に抗議する。
今回の逮捕は建造物侵入罪の濫用の疑いが濃厚だ。今後、建物内の取材規制に同罪が悪用されれば、報道の自由は大きく揺らぐ。現に、取材のためにカルト教団の公開施設に入ったフリーランスの記者が建造物侵入罪で有罪判決を受けるという問題が起きている。新型コロナウイルスの感染防止を理由にすれば、どこでも取材記者を立入禁止にできるという悪しき例にもなる。

 大学職員に現認された記者は当初、身分を明かさなかったのは事実のようだ。では大学はいつの時点で道新の記者であることを認識したのか。JCJ北海道支部の質問に、大学は「捜査中」を理由に回答を拒否した。しかし、道新関係者によると、記者は警察官に身柄を引き渡される前に姓名と身分を明かしていたという。それが事実なら、大学は新聞記者と認識した上で警察に引き渡したことになる。その細部の説明をなぜしないのか。したくない何らかの理由があると疑わざるを得ない。

その後の警察の対応も明らかに異様である。48時間の留置後、任意捜査に切り替え、記者を釈放したが、捜査は継続中とのことである。記者の行動への指示命令系統を解明するための捜査らしい。いったい何が目的なのか、深い疑問を禁じ得ない。報道機関への過剰な「一罰百戒」の意図が透けて見える。

 道新記者は立入禁止区域に無断で立ち入り、非公開の会議をドアの隙間から無断録音していたという。大学側がこの人物を取材中の記者だと認識したとすれば、記者に抗議して退去を求める、北海道新聞に抗議する、取材手法の是非を社会に問う、など警察権力に頼らない対応ができる状況ではなかったのか。現行犯で逮捕する必要があるほどの実害も、大学側の説明からは見当たらない。

旭川医大が道新記者を記者と認識した上で警察に引き渡したとすれば、報道機関の取材活動の是非をめぐって警察権力の介入を許す軽率な対応であったと言わざるを得ない。旭川医大は記者を警察に引き渡すまでの詳細な経緯と判断の根拠を検証し、結果を公表すべきだ。

一方の当事者である北海道新聞は記者逮捕から2週間後の7月7日、社内調査結果をようやく公表した。「記者教育に問題があった」など低姿勢の釈明に終始し、事実上の謝罪となっている。記者が逮捕されたことについて「遺憾」と言うだけで、大学や警察の対応の問題点には一言も触れておらず、報道機関としての矜持に欠ける内容になっているのは残念としか言いようがない。事の本質に正対することを望みたい。
報道規制をかいくぐってでも事実に肉薄し、何が起きているかを取材し、伝えるのが記者の本来の役割であり、仕事である。規制に唯々諾々と従っていては、かつての大本営発表のような記事ばかりになる。事実を知る権利のある市民の期待に応えることはできない。今回逮捕された記者も取材目的で建物に入ったのであり、正当な行為であった。その点から実名報道は不適切であり、道新はすぐに大学と警察に抗議すべきだったと考える。

 道新記者の行動の背景には旭川医大の報道対応、情報開示の在り方の問題点も指摘されている。旭川医大は、学長の学内学外へのハラスメントで別の病院を巻き込み、コロナ禍で苦しむ旭川医療圏の医療を大混乱に陥れた。感染者や死者が多く出たのは、こうした混乱も一因との指摘もある。病院長も解任された。事実を知りたいとの声が極限に達している。一方で、患者や市民への説明はほとんどなされていない。取材は必要な状態だった。
しかし毎日新聞の記事によれば、大学側は記者たちの直接取材の求めにほぼ応じず、メールのやりとりでも「回答は差し控える」と無回答が多かったという。取材のため構内に入った複数の記者と、制止する大学側との間にトラブルも起きていた。

 一般市民の批判が情報開示に後ろ向きな大学に対してではなく、そこを突破しようとする報道機関に向けられがちな社会風潮にも私たちは危機感を覚える。国民の知る権利に奉仕するジャーナリズムが、今回の問題で揺らぐことがあってはならない。



旭川医大で取材中の女性記者逮捕・身柄拘束に関する抗議声明

メディアで働く女性ネットワーク(WiMN)

2021年6月28日

 6月22日、旭川医大の学長解任を議論する学長選考会議を取材していた北海道新聞の女性記者が、大学職員により私人逮捕され、北海道警旭川東署に48時間身柄を拘束されました。事案の細部は現時点では不明な点が多いですが、この逮捕・身柄拘束が報道機関による取材・報道の自由に抵触し、取材活動に委縮効果をもたらしかねない重大な問題をはらんでいると私たちは考えます。

 取材活動は、取材対象の組織が自ら情報を公にするまで待つものではありません。組織内で何が起きているかを同時進行で取材し、関係者の動きや考えを探ろうとします。なぜなら、組織が公にするのはその組織にとって都合のいいことだけである可能性が高いこと、都合の悪いことは極力外部の目から隠そうとするのが通例であることを、記者たちは知っているからです。歴史上も、そのような事例は枚挙にいとまがありません。そういった情報を社会に伝えることが、民主主義社会の維持発展にとって欠くことができない意味を持つことも理解しています。だから、記者は取材先に止められても必死で内部に接近しようとします。取材活動は常に、そのギリギリのせめぎあいのところで行われています。

 毎日新聞の報道によると、旭川医大は22日午後3時50分ごろ報道各社にファクスを送り、新型コロナウイルスの感染防止措置として、記者団の取材に応じる午後6時ごろまでの間、記者を含めた学外者の立ち入りを原則禁止すると伝えていました。女性記者は、立ち入り禁止通告の40分後の午後4時半、学内で大学職員によって建造物侵入疑いで現行犯逮捕されました。

 今回の事案で、大学側は庁舎管理権の侵害を理由に私人逮捕したとのことです。大学は、個人宅のようなプライベート空間とは異なります。国立大学法人である旭川医大は国民の税金で維持されており、その庁舎は国民の財産です。研究・教育活動の妨害や器物損壊の恐れがあるといった特段の理由がないかぎり、国民に対して開かれた存在であり、取材記者の通行も当然認められるべきものです。当該の女性記者は、警察に対して記者であることと取材目的を明らかにしており、逃亡や身元不明の恐れがないのは明らかです。逮捕・身柄拘束は明らかに行き過ぎた措置であったと考えます。

 旭川医大では昨年12月以降、報道各社の取材により、吉田晃敏学長による数々の不祥事が発覚しました。大学は、病院長を「学長発言を録音し、報道機関に情報漏洩した」との理由で解任しており(病院長は否定しています)、内部告発に神経をとがらせていました。そうした中、学長を解任するかどうかを話し合う会議の取材で、女性記者は逮捕されました。4日前にも同じ会議室付近で道新を含む複数社の記者が取材制限を受けてもめており、この私人逮捕の目的が取材妨害であることは明らかです。大学はこれまで、会議を開く日程さえ明かさないなどの取材拒否をしてきたといいます。国民の共有財産であり、研究の発展や教育に大きな役割を果たす存在でありながら、重要事項に関して取材拒否や情報の非公開を続けた大学側の姿勢こそが問われるべきではないでしょうか。

 今回の事案に限らず、公的な施設や庁舎で、記者の立ち入りを拒む事例が近年相次いでいます。以前は、重要な会合が開かれている会議室のドアの前で、記者たちが情報を求めて待ち続ける姿は当たり前でしたが、それすら難しい状況が各地で起きています。パリに本拠をおく「国境なき記者団」が発表する「報道の自由度ランキング」では、日本は2021年に67位と低迷しており、日本に対して「記者が権力監視機関としての役割を十分に果たせていない」との懸念が示されています。今回、まさに懸念されているような事態が起きてしまったと私たちは危惧しています。

 メディアで働く女性ネットワークは、ジャーナリズムで働き、その機能に現に関与し、あるいはしてきた女性たちの職能集団として、報道の自由と民主主義社会の強化に貢献することを目的として2018年に設立されました。私たちは、新聞社に入社してまもない22歳の女性記者が、市民の知る権利に応えるため事実に迫ろうとした取材の中で、逮捕・身柄拘束という行き過ぎた権力行使を受けた今回の事態を見過ごすことはできません。ここに、今回の逮捕・身柄拘束に抗議するとともに、関係各機関が取材と報道の自由の意義を理解し、尊重するよう一層の努力をすることを求めます。
以上

メディアで働く女性ネットワーク Women in Media Network Japan(WiMN)
Webサイト: https://wimnjapan.net/
mail : wimnjapan@gmail.com
オリジナル記事 : https://wimnjapan.net/2021/06/28/protest-statement/
2021/06/17
「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」の 可決成立に強く抗議する法律家団体の声明
 改正改憲手続き法は6月11日成立しました。
 しかし、以前からの課題、広告規制などについては棚上げ、などについては棚上げ、3年をメドに検討するという妙な法律です。法律家団体が一致して出した声明です。

「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」の可決成立に強く抗議する法律家団体の声明

2021年6月16日
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター   共同代表理事 宮里 邦雄
自由法曹団            団長 吉田 健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野  格
日本国際法律家協会        会長 大熊 政一
日本反核法律家協会        会長 大久保賢一
日本民主法律家協会       理事長 新倉  修

1 拙速な可決成立に対して、強く抗議する
 本年6月11日、参議院本会議で、「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改正改憲手続法」または単に「改正法」という。)が、自民、公明、維新、国民、立民などの賛成多数で可決成立した。改正改憲手続法は、2016年に累次にわたり改正された公職選挙法(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰延投票、投票所への同伴)の7項目にそろえて改憲手続法を改正するものである。衆議院憲法審査会で立民の修正提案で、「施行後3年を目途に」、有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの「検討と必要な法制上の措置その他の措置を講するものとする」附則第4条が加えられた。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、2018年6月の法案提出以来一貫して法案の重大な欠陥を指摘し続けてきた。昨年11月から始まった衆・参憲法審査会の審議において、その欠陥は動かしがたく明らかとなったにもかかわらず、何らの見直しもないまま法案を成立させたことに強く抗議する。附則4条は、立法者自ら改正改憲手続法の重大な欠陥を認めて、この法律のままでは公平公正な国民投票が実施できないことを明らかにしているが、だとするならば、重大な欠陥の解決を先送りにしてまでこの改正法を成立させる理由は全くなく、徹底審議の上で一旦廃案にする選択以外にはなかったはずだ。

2 改正法は、憲法改正国民投票の公平公正が確保されない欠陥法であること
 そもそも憲法96条の憲法改正国民投票は、国民の憲法改正権の具体的行使であり、最高法規としての憲法の国民意思による正当性を確保する手段であることから、できる限り多くの国民に平等に投票の機会を保障し、公平公正を確保する手続きであることが憲法上強く要求されている(国民主権;前文、憲法1条、法の下の平等;憲法14条、硬性憲法と憲法の改正手続き;憲法96条、最高法規;憲法97条、98条1項)。

(1) 投票できない国民がいることを放置したままであること
 遠洋航行などで長期にわたり洋上にいる船員等の中には、改正法のままでは憲法改正国民投票ができない人が出てくる。また、郵便投票の対象者が要介護5に限定されているため現在でも投票できない国民が相当数いることが指摘されている。新型コロナ感染症の拡大により、指定病院等に入院中の方や、宿泊施設や自宅で療養を余儀なくされている場合も投票ができない可能性がある。このように、正当な理由なく憲法改正国民投票の機会を奪われている国民がいるとすれば、2005年9月14日の最高裁判例に照らしても、改正改憲手続法が違憲状態にあることは明らかである。
 さらに、繰延投票の告示期日の短縮はそれ自体投票環境の後退であり、憲法改正国民投票に繰延投票が適切なのかという根本問題も提起されている。期日前投票の弾力的運用は、開始時刻の繰り下げと閉鎖時刻の繰り上げという投票時間の短縮となっていたり、共通投票所の設置が、投票所の集約合理化(=投票所の削減)をもたらしているという実態が明らかとなった。また、在外投票については在外投票名簿の登録率も投票率もともに減少しており、在外邦人の投票の機会が十分に保障されない制度上の問題点が指摘されている。
 憲法改正国民投票は、前記の性質上、できる限り多くの国民に対し平等に投票の機会が保障されなければならないが、改正法は、投票できない国民が放置されているなど、違憲の疑いが極めて強いといえる。

(2)憲法改正国民投票の公平公正が担保されていないこと
 改憲手続法については、2007年5月の成立時において参議院で18項目にわたる附帯決議がなされ、2014年6月の一部改正の際にも衆議院憲法審査会で7項目、参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されているにもかかわらず、こられの本質的な問題点が、改正法ではまたもや放置され先送りとされた。
 とりわけ、①ラジオ・テレビ、インターネットの有料広告規制の問題やインターネット、ビッグデータ利用の適正化を図る問題、②公務員・教育者に対する不当な運動規制がある一方で、外国企業を含む企業や団体、外国政府などは、費用の規制もなく完全に自由に国民投票運動に参加できるとされている問題、③最低投票率が設けられていない問題等の見直しは、国民投票の公平公正を確保し、憲法改正の正当性を担保するうえで不可欠の根本問題である。今回成立した改正法は、以上のような国民投票の公平公正を担保し、投票結果に正しく国民の意思が反映されるための措置について全く考慮されていない欠陥法であり、このままでは違憲の疑いが極めて強いといえる。

3 改正改憲手続法のもとで、改憲発議を行うことは憲法上許されないこと
 菅首相や自民党など改憲派は、「施行後3年を目途に」、有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの「検討と必要な法制上の措置その他の措置を講するものとする」附則4条の措置がとられなくても、改憲発議は妨げられないとして、自民党改憲4項目改憲原案の議論を一気に加速させることを狙っている。
 しかし、前述のとおり、改正法は、憲法改正国民投票の公平公正が確保されない違憲状態の欠陥法である。そして改憲手続法の違憲状態を解消することは、国会に課された義務であり、その義務の履行を怠ったまま、国会が、改憲の発議権を行使することが許されないことは、前述の憲法改正国民投票の性質上当然である。
 附則4条は、施行後3年を目途という期限をきって、このことを確認したものであり、法的な拘束力を持つことは明らかである。
 以上より、改正法の違憲状態を解消するために必要な措置が講じられるまでは、国会議員による憲法改正原案の発議(国会法68条の2)、憲法審査会による憲法改正原案の提出(同法102条の7)、国会による憲法改正の発議(憲法96条)は、いずれも、憲法上許されないというべきである。

4 市民と野党の共闘で、自民党改憲4項目(安倍・菅改憲)発議を阻止しよう。
 2017年5月、当時の安倍首相は2020年までに新しい憲法の施行を宣言し、2018年3月に自民党は、9条に自衛隊を明記するなどの4項目の改憲案(素案)を取りまとめて、同年6月に、改憲手続法改正案を国会に上程した。その狙いが安倍改憲を憲法審査会で議論するための呼び水であったことは、今年5月3日菅首相が、改正改憲手続法案について「憲法改正議論の最初の一歩として成立を目指さなければならない」と発言したことからも明らかである。しかし、改憲派の議席が3分の2以上を占める中で、市民と野党は共闘し、安倍9条改憲NO!3000万署名運動を広め、安倍改憲を一歩も前に進めさせることなく、安倍首相を辞任へと追い込んだ。このことは特筆されるべき成果であり、憲法が市民の中に定着している何よりの証左である。
 安倍首相の後継である菅首相もまた、今年6月10日、改正改憲手続法の成立を機に、憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設などを盛り込んだ自民党改憲4項目の改憲論議を進める決意を公言した。本来、「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)を負う首相や国会議員が国民の意思を無視して改憲を先導主導することは憲法に違反する。憲法改正は、国民の中から憲法改正を求める意見が大きく発せられ、世論が成熟した場合に限り行われるべきものである。今、国民は、政府や国会に対し、コロナ対策、命と生活を守る政治を求めているのであって、改憲世論は全く熟していない。憲法によって公権力を制約し、国民の権利・自由を保障するのが立憲主義である。憲法に拘束される権力の側が、国民を差し置いて憲法改正を声高に叫び、改憲発議のために憲法審査会の開催を要求することは、立憲主義の危機であり、十分な警戒が必要である。この点、改正改憲手続法の審議の中で、附則4条の解釈も含め、自民党などが進める改憲論議と改憲発議に対して憲法上の楔を打ち込んだことは、今後に大きな意味を持つであろう。  
 コロナ禍に乗じた改憲発議を許さず、立憲主義を守るため、改憲問題対策法律家6団体連絡会は、今後も、市民と立憲野党と共闘して奮闘することを宣言する。

以上

2021/05/24
「施策チェック」への非難に抗議
新聞労連は21日、新型コロナウイルス禍のワクチン接種トラブルについて報道機関各社が取材した方法について、岸信夫防衛相がした非難に抗議する声明を発表しました。

公権力によるメディアの取材手法への非難に抗議する

                                     日本新聞労働組合連合


 新型コロナウイルス禍を巡り、全国各地でワクチン接種の状況、予約に関するトラブルなどについて報道機関各社が取材を行っています。感染が終息しない状況の中、国民の命を守る上で重要なものです。

 その一環として、毎日新聞や朝日新聞出版の「AERA dot. (アエラドット)」など複数のメディアが、政府が東京、大阪に設置し、自衛隊が運営する大規模接種センターの予約システムの運用について、重大な欠陥があることを報じました。防衛省のサイトから架空の市町村コードや接種券番号でも予約できるというシステムの脆弱性を実際に試した上で、防衛省やシステムを委託された会社に取材し「実際の接種券に記載されていない架空の番号でも予約が可能になっている」と指摘しました。岸信夫防衛相は予約システムを早急に改修する考えを示した上で、取材手法を非難し、防衛省から当該メディアに抗議の申し入れがなされました。メディア側は「情報に基づいて真偽を確かめるために不可欠な行為」「公益性の高さから報道する必要があると判断」などと説明しています。

 メディア、ジャーナリズムの重要な社会的役割は、行政の監視や施策のチェックです。今回の件を報じたメディアは、システムの脆弱性の検証後、すぐにキャンセルした過程を報道し、架空予約をしないよう防衛省のコメントも掲載しています。重大な不正行為が行われる可能性や重大な欠陥を見つけた時、独自に事実を確認し、速やかに報道するのは、メディアに求められるものです。ジャーナリズムの倫理に基づいた行動と言えます。

 日々メディアは、権力側の発表報道をうのみにせず、情報の真偽を確かめ、権力の意向に左右されない取材と報道を重ねることに努めています。国民にとって不利益になりうる施策の欠陥を指摘された行政機関や行政機関の長が、メディアが取り得る取材手法を一方的に非難することは、自由な言論活動や公権力に対する監視を威圧し、否定することにつながりかねません。取材手法の是非を巡っては、メディアが絶えず自発的に検証し、議論すべきもので、公権力から制されるものではありません。また、今回のように行政機関が、施策の欠陥を指摘したメディアの取材手法を非難することは、当該メディアのみならず、取材や報道の萎縮を招きかねず、容認できません。

 公権力は、取材や報道の否定・圧力が、メディアや市民の言論活動の阻害につながりかねないことを自覚し、厳に慎むべきです。今回、公権力である防衛省からのワクチン予約の脆弱性を指摘するためにメディアが実施した取材手法への非難について、強く抗議するとともに、防衛省のみならず政府や行政機関など公権力は、同様の行為を繰り返さないよう、強く求めます。
2025/5/16
改憲手続法採決に反対
 コロナ禍、日米会談、オリンピック、デジタル法など、ニュースに追われる陰で、憲法審査会で改憲手続法を強行してしまおうという策動が動いている。この問題に取り組んできた法律家6団体が緊急に声明をまとめ発表しました。「手続法なら仕方がない」などという問題ではありません。憲法の基本原理に関わる問題です。

この法律家の声明などを尻目に、改憲手続き法は、5月11日、衆院を通過、参議院に送られた。いい加減な議論で押し切られた衆院と違って、参議院ではきちんとした論議がされるのか? 法律家6団体は衆院塚後に、あらためて声明を発表した。

「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」の
       衆議院憲法審査会における採決に強く抗議し廃案を求める法律家団体の声明

2021年5月10日

改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター   共同代表理事 宮里 邦雄
自由法曹団            団長 吉田 健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野  格
日本国際法律家協会        会長 大熊 政一
日本反核法律家協会        会長 大久保賢一
日本民主法律家協会       理事長 新倉  修

1 衆議院憲法審査会での採決に強く抗議する

 本年5月6日、衆議院憲法審査会において、日本国憲法の改正手続きに関する法律の一部を改正する法律案」(以下「7項目改正案」という。)が、立憲民主党が提出した改正法施行後3年後を目途に、広告規制、資金規制、インターネット規制などの検討と措置を講ずるという附則をつける修正案(以下「修正案」という。)とともに、賛成多数で可決された(なお、共産党は、原案修正案のいずれも反対、日本維新の会は修正案に反対)。これにより、修正を施された7項目改正案(以下「7項目修正改正案」という。)は、衆議院本会 議に送られることとなった。
改憲問題対策法律家6団体連絡会は、これまで7項目改正案に対して重大な問題点があると指摘して採決に反対してきたが、7項目修正改正案についても、問題は何ら解決されていない欠陥法案のままである。私たちは、明文改憲への途を開くだけの7項目修正改正案の衆議院憲法審査会での採決に強く抗議し、7項目修正改正案の廃案を求めるものである。

2 7項目修正改正案は根本的な問題が何一つ解決されていない欠陥法案である

7項目改正案とは、2016年に累次にわたり改正された公職選挙法(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰延投票、投票所への同伴)の7項目にそろえて改憲手続法を改正するという法案である。
7項目修正改正案の問題点を要約するならば、第1に、憲法改正国民投票(憲法96条)は、国民の憲法改正権の具体的行使であり、最高法規としての憲法の正当性を確保する重要な手段であることから、公選法「並び」でよいとする乱暴な議論は憲法上許されないこと。第2に、7項目の中には、国民投票環境の後退を招く項目があり、さらに、このままでは国民投票ができない国民が出るなど、違憲の疑いのある欠陥法であること。第3に、そもそも改憲手続法は、2007年5月、第1次安倍政権において強行採決により成立した時から数多くの問題が未解決のまま10数年にわたり先送りとされてきた。とりわけ運動資金の規制がなく、CM規制が不十分で、最低投票率の定めがないなど、国民投票の結果の公正を担保しないという根本的致命的な問題点がある。7項目修正改正案は、これらの「国民投票を金で買う」などの根本的問題が何ひとつ解決されていない欠陥法案である
(本年4月20日付改憲問題対策法律家6団体連絡会緊急声明参照)。
国民の投票機会が十分に保障されず、結果の公正が担保されていない欠陥修正改正法案を急ぎ成立させる必要性も正当性も存在しないことは明らかである。

3 7項目改正案は、自民党の4項目改憲案提示のための道具に過ぎないこと

2017年5月に、当時の安倍首相が2020年までに改憲を成し遂げると宣言し、2018年3月に自民党は4項目の改憲案(素案)を取りまとめ、同年6月に、公選法並びの7項目改正案が提出された。もともと7項目改正案は、安倍自民党改憲を進める便法として提出されたものである。そのことは、本年5月3日、菅首相が、憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設などを盛り込んだ自民党の改憲4項目をたたき台にして、「それを基に議論を進めてもらう」と述べるとともに、7項目改正案について「憲法改正議論の最初の一歩として成立を目指さなければならない」としていることからも明らかである。
国民は、今、憲法改正議論など望んでいない。政府と国会が、何をおいても全力で取り組むべきことは、新型コロナ対策であり、市民の命と生活を守る施策である。コロナ禍に乗じて自民党の改憲4項目を提示することなど論外である。憲法審査会を仮に開くとしても、そこで議論されるべきは、安倍・菅政権によって蹂躙されてきた憲法状況の調査と審査であり、改憲手続法の抜本的改正の議論のはずだ。立憲主義も民主主義も理解せず、新型コロナ感染症対策もままならない現政府・与党に、コロナを口実にした改憲を言う資格はない。

4 参議院は、「良識の府」として徹底的に審議を尽くせ

 7項目修正改正案は、ただちに廃案とされるべきものであるが、5月11日の衆議院本会議で採決が強行されれば、審議の場は参議院に移ることになる。
 日本国憲法で二院制が採用された意義は、「数の政治」に対する「理の政治」を実現し、審議や立法権限の行使を慎重かつ適切なものにすることにある。前述のとおり、7項目修正改正案には、憲法改正国民投票の機会を十分に保障していない問題や、CM規制、最低投票率、ネット規制、運動資金の規制の問題など、主権者意思の適切かつ公平な表明を阻害しかねない根本的欠陥があるにも関わらず、衆議院での審議は極めて不十分であった。参議院は、いまこそ、「良識の府」としての役割を自覚し、これらの問題点につき、徹底的な審議を尽くすべきである。
 14年前の2007年5月11日、第一次安倍政権のもとで強行された改憲手続法に対して、有料広告の規制、最低投票率、公務員と教育者の地位利用による国民投票運動などについて検討や措置を求める18項目の附帯決議を突きつけたのは、ほかならぬ参議院の憲法調査特別委員会であった。改正案の送付を受けた参議院は、自らが附帯決議で突きつけた問題を含む改憲手続法と本改正案をめぐるすべての問題について、慎重かつ全面的な審議を行わなければならない。
 また、制定の際には参考人陳述や公聴会で80名を超える専門家や市民の意見を聴取し、2014年の改正の際にも参考人陳述で16名の専門家の意見を聴取しているにもかかわらず、衆議院は本改正案の審議に際して意見聴取をまったく行っていない。専門家や市民の意見を幅広く聴取し、審議に反映させることは参議院の責務と言わねばならない。
 良識の府である参議院には、徹底した審議によって問題の解明と解決にあたることが求められているのであり、「通常国会で成立させる」などという国民無視・国会無視の確認に縛られたアリバイ的な「審議」に堕することは、憲法と国民に対する冒とくであるばかりか、参議院の存在意味を失わせる自殺行為である。
 参議院はかかる愚挙を断じて行ってはならない。
                                    以上


「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」の採決に反対し、
                           改憲手続法抜本改正の慎重審議を求める声明

2021年4月20日

                  改憲問題対策法律家6団体連絡会
                    社会文化法律センター共同代表理事   宮里邦雄
                    自由法曹団団長            吉田健一
                    青年法律家協会弁護士学者合同部会議長 上野格
                    日本国際法律家協会会長        大熊政一
                    日本反核法律家協会会長        大久保賢一
                    日本民主法律家協会理事長       新倉修

はじめに

 4月15日、衆議院憲法審査会において、「日本国憲法の改正手続きに関する法律の一部を改正する法律案」(いわゆる公選法並びの7項目改正案)(以下「7項目改正案」という。)の審議が行われた。7項目改正案は、2016年に累次にわたり改正された公職選挙法(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰延投票、投票所への同伴)の7項目にそろえて改憲手続法を改正するという法案である。
 与党議員らは、審議は尽くされたなどとして、速やかな採決を求めている。これに対し、立憲民主党、共産党の委員からは、7項目改正案は、期日前投票時間の短縮や、繰延投票期日の告示期限が5日前から2日前までに短縮されているなど投票環境を後退させるものが含まれていること、憲法改正国民投票は、国民が国の根本規範を決める憲法制定権力の行使であり、本当に公選法並びでいいのかという基本的な問題があること、7項目改正案は、たとえば、洋上投票、在外投票、共通投票所、郵便投票の問題など、国民に投票の機会を十分に保障するという点で問題があり、また、CM規制、資金の上限規制、最低投票率の問題など、憲法改正国民投票の公正を保障する議論がなされていないのであるから、審議は不十分であり、採決には程遠いという意見が相次いだ。

 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、以下の理由により、7項目改正案の採決には強く反対する。

1 憲法改正国民投票(憲法96条)は、国民の憲法改正権の具体的行使であり、最高法規として の憲法の正当性を確保する重要な手段である。参政権(憲法15条1項)の行使である選挙の投票 と同列に扱えば済む、公選法「並び」でよいとするような乱暴な議論は憲法上許されない。

 2016年の公職選挙法の改正は、選挙を専門とする委員会で審議され、「憲法改正国民投票の投票環境はどうあるべきか」との観点での議論は全くなされていない。
 そもそも、憲法96条の憲法改正国民投票は、国民の憲法改正権の具体的行使であり、最高法規としての憲法の正当性を確保する重要な手段である。狭義の参政権である選挙の投票(憲法15条1項)とすべて同列に扱えば足りるとする議論は性質上許されない。ことは国の根本規範である憲法改正にかかわる問題であり、「公選法並び」などという本質を見誤った議論で法案採決を急ぐことは、国民から付託された憲法審査会の任務を懈怠し、その権威を自ら汚すものというべきである。

2 7項目改正案は、国民投票環境の後退を招き、また、そのままでは国民投票ができない国民が出 るなどの欠陥があること

 法案提出者によれば、7項目改正案の目的は、2016年の公選法の改正法と並べることで「投票環境向上のための法整備」を行うこととされる。しかし、7項目改正案の審議は、始まったばかりであり、7項目の内容には以下に例をあげるとおり、投票環境の後退を招き、あるいは国民投票の機会が保障されない国民がでてくるなどの重大な問題がある。憲法改正国民投票は、上記の性質上、できる限り多くの国民に投票の機会が保障されなければならないし、投票環境の後退を招くことは許されない。
 (1)法案自体が、投票環境を後退させるもの
 繰延投票の告示期日の短縮や、期日前投票の弾力的運用は、それ自体、投票環境を後退させるものである。「投票環境向上のための法整備」という立法目的にも明確に違反する。
 (2)投票できない国民が出てくるもの
 洋上投票制度や在外投票制度は、並びの改正によって投票機会の一部については向上が図られるものの、結局、このままでは国民投票ができない国民が出てくるため、国民投票は実施できない。一定の国民について国民投票の機会を保障しないままの法案は、憲法違反の疑いすらある。この不備を修正しないままで7項目改正案を急ぎ成立させる必要性も合理性もないことは明らかである。
 (3)公選法の改正時には、予期できなかった事情や、公選法改選時の附則や附帯決議で必要な措置の検討などが課されている事項で投票環境の後退のおそれがあるもの
 例えば「共通投票所」の設置は、「投票所の集約合理化」=削減をもたらしているという実体がある。「共通投票所」を設けたことによって本当に「投票環境が向上」したのか、「利便性が向上」したのか、総括が必要である。また、在外投票についても、在外投票人名簿の登録率は減少している(2009年は9.54%に対して2019年は7.14%)ことを踏まえれば、その原因を解明した上で、その対策を施した改正が必要である。

 また、2016年改正後、「投票環境研究会」は郵便投票の対象者を現行の要介護5から要介護3の者に拡大することを提起している。「利便性の向上」というのであれば、主権者である国民の意思が広く適切に国民投票に反映されることが必要であり、とりわけ新型コロナの感染が拡大する中「郵便投票制度」の拡充は投票機会を保障するうえで喫緊の課題の一つである。
 以上の事項については、事情変更により新たな改正や見直しの検討が必要であり、2016年の公選法改正並びの改正を行うだけでは、「投票環境の向上」にはならないか、むしろ後退させる危険性がある。これらの問題を無視して7項目改正案を成立させることは、国会議員としての怠慢以外の何ものでもない。

3 憲法改正国民投票の結果の公正を担保する議論がなされていないこと

 日本弁護士連合会は、2009年11月18日付け「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」において、①投票方式及び発議方式、②公務員・教育者に対する運動規制、③組織的多数人買収・利害誘導罪の設置、④国民に対する情報提供(広報協議会・公費によるテレビ、ラジオ、新聞の利用・有料意見広告放送のあり方)、⑤発議後国民投票までの期間、⑥最低投票率と「過半数」、⑦国民投票無効訴訟、⑧国会法の改正部分という8項目の見直しを求めている。とりわけ、(ⅰ)ラジオ・テレビと並びインターネットの有料広告の問題は、国民投票の公正を担保するうえで議論を避けては通れない本質的な問題である。また、(ⅱ)運動の主体についても、企業(外国企業を含む)や外国政府などが、費用の規制もなく完全に自由に国民投票運動ができるとする法制に問題がないか、金で改憲を買う問題がないかについての議論が必須である。
 7項目改正案は、以上のような国民投票の公正を担保し、投票結果に正しく国民の意思が反映されるための措置については全く考慮されていない欠陥改正法案である。結果の公正が保障されない国民投票法のもとで、国民投票は実施できない以上、7項目改正案を急いで成立させる必要性も合理性も全くないことは明らかである。

4 憲法審査会における審査の在り方

 憲法審査会(前身の調査会も含めて)の審議は、政局を離れ、与野党の立場を越えて合意(コンセンサス)に基づき進めるというのがこれまでの慣例である。憲法審査会では、多数派による強行採決は許されない。また、国民の意思とかけ離れて議論することももとより許されないはずである。
 2017年5月に、当時の安倍首相が2020年までに改憲を成し遂げると宣言し、2018年3月に、自民党4項目の改憲案(素案)を取りまとめ、その後2018年6月に、公選法並びの7項目改正案与党らが提出している。同法案が、安倍改憲のために急ぎ間に合わせで作られたものであることは、経過から明らかである。7項目改正案を成立させることは、自民党改憲案が憲法審査会に提示される道を開く環境を整えるだけである。
 今、国民は憲法改正議論を必要と考えていない。7項目改正案を急ぎ成立させることは、国民の意思ではない。
                                       以上
2021/04/22
今夏の東京オリンピック・パラリンピックは開催すべきでない
世界平和アピール七人委員会は、4月20日、「今夏の東京オリンピック・パラリンピックは開催すべきでない」とするアピールを発表しました。同委員会の一四六番目のアピールです。以下全文です。

今夏の東京オリンピック・パラリンピックは開催すべきでない

世界平和アピール七人委員会                
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進
2021年4月20日
 開会式まで100日以内になり、オリンピック・パラリンピックの日本代表選手全員の最終的な決定をすべき時期となり、聖火リレーも始まった。ところが代表選考ができていない種目では、代表を過去の成績で決めるという異例のことが起きている。聖火リレーでは公道でない場所で関係者だけで形ばかりを行ったことにする府県が出始めている。
 これは、新型コロナウイルス感染症COVID-19とその変異種の感染まん延が急速に広がっているためである。政府は、「まん延防止等重点措置」を次々に指定しているが、感染拡大に歯止めがかかっていない。政府が委嘱した専門家が科学的データに基づいて第4波到来とみているのに、政府は科学の軽視・無視を繰り返している。ワクチン接種は遅れていて、変異種に対する効果も解明中で結論に達していない。検査体制も広げられないままである。
 国内の医療体制は、すでに限界を超えた地域がではじめており、必要不可欠な病床・医療関係者の確保もできていない。世界の感染状況を見ても、ワクチン接種は進んでいるものの、依然として各地で感染拡大が続いていて収束に向かっていない。
 1万5000人という選手、その他審判、役員、スポンサーが世界の感染まん延地からまん延状態が急速に拡大している日本に集まり、非常に多くの大会ボランティアを動員する渦中において、市民と接触させないでオリンピック・パラリンピックを安全に行える実効案は何ら示されていない。
 オリンピックを開催するとすれば多くの医療関係の人員や資源をさかなくてはならないが、それが国内の医療従事者のいっそうの過重負担を招くことは明らかである。そうなれば人命を犠牲にした開催となる可能性が十分にあるが、それは言うまでもなく平和の祭典であるはずのオリンピック・パラリンピック開催の趣旨に合致しない。
 リスクが否定できない以上、安全の側にたって、今夏の東京オリンピック・パラリンピックを行わないという決定を速やかに下すのが当然である。
                

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