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2021/02/01
コロナ対策の罰則に反対  法律家団体と医学者、憲法研究者
 国会で急遽問題になった「コロナ特捜法」の改正に、法律家団体と、医学者、憲法研究者が反対を声明している。
全文を紹介する。

 ▼改正新型インフルエンザ等特別措置法案、改正感染症法案・改正検疫法案に対する
                          憲法研究者有志一同による反対声明

 はじめに
 
 2021年1月22日、菅政権は表題の改正法案を閣議決定し、同日、国会に提出した(以下、改正案という)。生命に対する権利、健康で安全な生活を送る権利は憲法で認められており(13条、25条)、その保障こそが政府に課せられた最も重要な役割である。ところが安倍政権や菅政権は人びとの生命や暮らし、雇用を守る政策を適切に果たしてこなかった。これまで政府が行ってきたのは感染防止のための呼びかけや休業要請だけであり、感染防止のために必須の検査体制を整備せず、医療機関への支援も乏しく、感染者の入院や療養施設も極めて不十分なままである。改正法案は不適切なコロナ政策の結果として生じた状況に行政罰、公表などの威嚇で強権的に対応することを可能にする、本末転倒な法案であり、政府の失策を個人責任に転嫁するものである。
 感染防止のためには、「検査による感染者の発見」、「感染者と非感染者の分離」、そして「感染者に対する治療」を適切に施すことが求められる。特措法や感染症法、検疫法を改正するならば、検査体制の確立、医療の確保、無症状者の療養施設の確保などの感染防止治療体制、休業補償や生活保障施策などの施策が最初に明記されるべきである。 
ところが改正案ではこうした施策はほとんど明記されていない。改正案の中心的な内容となっている行政罰、刑事罰、公表などの措置は感染防止に寄与するどころか、かえって感染拡大を招き、医療崩壊、事業破壊、生活破壊を招くだけのものである。さらに、らい予防法と同様、重大な憲法問題を惹起する。
以下、改正法案の憲法問題に言及する。

 1 時短命令や休業命令に対する命令違反
 
 政府がまず行うべきことは、生命や健康で安全な生活を保障する支援や補償であるにもかかわらず、改正案はきめ細やかな支援や補償を明記する代わりに、罰則を伴う「命令」の脅しで時短や休業を強行させる内容となっている。改正案は、「営業の自由」(憲法22条、29条)や「財産権」(憲法29条)を不当に侵害し、生命や生活の権利を奪いかねない内容となっている。
 改正案の罰則は、社会的害悪が明確で悪質な行為だけを「犯罪」として法律で定めることができるという「適正手続主義」(憲法31条)からも問題である。憲法31条は刑事手続の規定であるが、刑事手続の規定も行政手続に準用されることは最高裁判所でも認められること、行政目的達成のために必要最小限の権利・自由の制約しか認められないという「比例原則」に照らせば、改正案に行政罰を設ける憲法上の妥当性には疑問がある。

 2 入院を拒否した感染者への罰則の導入
 
 今回の感染症法の改正案は、新たに都道府県知事による「宿泊療養」「自宅療養」の協力要請を定め、その協力要請に応じない場合に「入院勧告」ができ、入院措置に応じない場合又は入院先から逃げた場合には、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」を規定している。「懲役」という刑罰は明らかに過重な刑罰で均衡を欠き、「適正手続主義」(憲法31条)とは相容れない。
 「懲役刑」などの「刑事罰」については1月28日に自民党と立憲民主党との間で合意がなされ、刑事罰を行政罰の過料に修正し、「100万円以下の罰金」が「50万円以下の過料」に修正されると報じられている。ただ、こうした修正がなされても、「罰則」を設ける妥当性の問題は解決されない。いま深刻に問題になっているのは、医療崩壊によって、入院ができずに自宅療養を強いられ、医療がまったく受けられず自宅で放置されたまま死亡する事例の多発である。入院措置に応じない人や入院先から逃げた人がどのくらいいるのかも明らかでない。にもかかわらず、こうした罰則を導入することには全く正当性がない。

3  保健所による調査の拒否や虚偽回答への罰則の導入
 
感染症法の改正案では、入院措置の対象となる患者に対する積極的疫学調査に際し、虚偽答弁や調査拒否をした者に対して「50万円以下の罰金」を規定し、感染を疑う正当な理由のある者に対し、都道府県知事による健康状態の報告の求めに応じる義務を規定していた。「50万円以下の罰金」に関しても1月28日に自民党と立憲民主党との合意により、「30万円以下の過料」に修正されたと報じられている。
 このような規定は、罰則を恐れるあまり、感染していること自体や、検査結果を隠す人を増大させる可能性がある。その結果、現在進行している市中感染を抑える効果は期待できない。個人情報やプライバシー権の保障に十分配慮された疫学調査かどうかも不明であり、実際に疫学調査拒否を行なった者がどれくらいいるのかも示されない中で、行政罰を伴う規定の新設には反対する。安易な行政罰の導入は、感染者等に対する差別や偏見を一層助長させる恐れがある。

 4 公表という制裁の前に、医療機関に対する適切な支援などを実施すべき
 
 政府に求められるのは、医療機関に対する財政的な支援、患者を受け入れることができる医療体制の構築である。しかし改正案には財政的な支援などは明記されず、厚生労働大臣・都道府県知事等は、緊急の必要があると認めるときは、医療関係者・民間等の検査機関等に必要な協力を求めることができるとし、当該協力要請に正当な理由がなく応じなかったときは勧告ができ、正当な理由がなく勧告に従わない場合は「公表」できるとしている。
 「公表」という制裁を明記する前に、まずは医療機関に感染症患者の受け入れを可能にする支援体制、受入れ態勢を整備することが求められる。
 そもそも医療機関や保健所が切迫した状況に置かれた根本的な原因は、長年、自公政権が進めてきた、「医療費削減」「医療機関の削減」「保健所削減」などの「新自由主義的政策」にある。今後、政府は憲法25条2項の理念を適切に踏まえて「新自由主義的政策」を転換し、今回のような感染症の拡大にも対応できる医療制度や保健所体制を確保する必要がある。

 5「まん延防止等重点措置」も憲法上、問題が多い
 
 特措法の改正案は「まん延防止等重点措置」を新設し、都道府県知事が一定の事業者に対し、営業時間の変更等の措置を要請・命令することができ、正当な理由なく命令に応じない場合は「30万円以下の過料」を科し、要請・命令したことを公表できるとしている。また、命令の施行に必要な限度で立入検査、報告徴収ができるとし、それを拒否した場合には「20万円以下の過料」を科すことも規定している。1月28日に自民党と立憲民主党との合意では、「30万円以下の過料」が「20万円以下の過料」に修正されたと報じられている。

 そもそも緊急事態を前倒しして「まん延防止等重点措置」を新設する合理性はあるのか不明である。さらに「まん延防止等重点措置」を実施する要件は「政令で定める」としており、その発動は内閣総理大臣の判断に全面的に委ねられている。私権制限や罰則発動の要件となる「まん延防止等重点措置」の要件を政令に白紙委任することは、憲法73条6号からも正当化できない。さらに民主主義国家である以上、私権制限の要件となる「まん延防止等重点措置」について国会の事前承認が改正法案に明記されていない点は極めて問題であり、行政の民主的統制(憲法66条3項、65条等)とも相容れない。国会の事前報告を付帯決議に盛り込む修正で与野党間の合意がなされたとも報じられているが、「国会承認」でない以上、行政の民主的統制が確保されたと言えるわけではない。
 新型コロナウィルスの感染の拡大対処として、この間、飲食店業界イジメの様相を呈してきた営業の自粛・短縮要請が繰り返し行われてきた。このようなときに、要請・命令・公表・行政罰でもっていっそう権力的に事業者の営業の自由に介入しようとする改正案は、事業者に対する支援に必要な財政上の措置その他の措置を効果的に講ずることの義務化を見送った点との兼ね合いからしても、「営業の自由」「財産権」に対する過度の制約であって、違憲の疑いが強い。
 なすべき改正の基本方向は憲法が要求する「正当な補償」(29条3項)を可能にする財政措置の発動であり、生存が侵害されている事業者や人々への救済措置の徹底である。

 6 改正案の見直しの基本線

さらに「立憲主義」「法治国家」という視点からは、特措法の改正に当っては以下の項目も真剣に検討されるべきである。第一に、緊急事態宣言の発出と解除の要件を明確にすること。第二に、緊急事態宣言の発出と解除は国会の事前承認を要件とすること。第三に、現行法では「二年を超えてはならない」(特措法32条2項)とされている緊急事態宣言の期間を短縮すること。第四に、緊急事態宣言の発動と運用に関して第三者的な監視機関を設置し、緊急事態宣言の発動と運用について慎重を期すこと。第五に、両院における新型コロナ対策特別委員会の新設などを含めて、緊急事態宣言に伴う措置の実施状況について適時に国会に報告する仕組みを定めるとともに、緊急事態宣言の発出の根拠および宣言に基づく措置について国民に対して迅速に情報を公開し、広く検証ができる体制を整えること。第六に、科学と政治の役割分担と両者の関係のあり方について、諸外国の経験に学んで現状を検証すること。第七に、国民に対して透明性の高い迅速で定期的な情報提供のシステムをつくること。

 7 おわりに
 
 2021年1月14日、日本医学会連合や、日本疫学会と日本公衆衛生学会が声明を出した。これらの声明で指摘されているように、刑事罰や行政罰により感染症に対応しようとする政策は甚大な人権侵害を伴う一方、感染症阻止には成功せず、かえって感染症へのコントロールを困難にさせてきたことは多くの国が経験してきたことであり、日本も例外ではない。そうした人権侵害に対する反省を踏まえて、感染症法前文では「感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し」と明記されている。
ところが菅政権は上記学会等による学問的知見、ハンセン病患者などへの人権侵害という歴史的教訓を無視・軽視して強行的な政策を進める一方、感染防止のためにとったのは人々への注意喚起に止まった。そもそも、今やるべきことは特別な法整備をしなくても可能なこと、こうした改正案を審議すること自体が貴重な審議時間の無駄遣いになること、第3次補正予算の見直しこそすべきという点も指摘せざるを得ない。そして刑事罰や行政罰、公表を創設しようとした発想は、政府の注意に従わなかった個人や医療機関等に感染責任があるとの発想であり、政府の無策を責任転嫁するものにほかならない。刑事罰が削除されたとしてもこうした批判は当てはまる。また改正案は、生命、自由、幸福追求への権利を保障すべき国の責任を否定するものであり、生存権、勤労の権利、営業の自由、財産権を侵害する。「立憲主義」「法治国家」理念を貫徹する観点からも、菅政権は行政罰、公表などの強制手段を伴う改正案を根本的に見直し、検査体制の確立、医療の確保、無症状者の療養施設の確保など感染防止治療体制、休業補償や生活保障などの施策を明記するべきである。こうした修正がなされない限り、改正案は成立させるべきではない。

【賛同者】 2021年1月30日15時半段階75名

浅野宜之(関西大学教授)麻生多聞(鳴門教育大学教授)足立英郎(大阪電気通信大学名誉教授)
飯島滋明(名古屋学院大学教授)井口秀作(愛媛大学教授)石川多加子(金沢大学准教授)
石塚迅(山梨大学准教授)石村 修(専修大学名誉教授)井田洋子(長崎大学教授)
稲 正樹(元国際基督教大学教授)井端正幸(沖縄国際大学)植野妙実子(中央大学名誉教授)
右崎正博(獨協大学名誉教授)浦田一郎(一橋大学名誉教授) 浦田賢治(早稲田大学名誉教授)
榎 透(専修大学教授)榎澤幸広(名古屋学院大学准教授)大内憲昭(関東学院大学教授)
大野友也(鹿児島大学准教授)岡田健一郎(高知大学准教授)奥野恒久(龍谷大学教授)
大久保史郎 (立命館大学名誉教授)小栗 実(鹿児島大学特任教授)片山 等(国士館大学教授)
金澤 孝(早稲田大学)上脇博之(神戸学院大学教授)河上暁弘(広島市立大学准教授)
菊地 洋(岩手大学准教授)北川善英(横浜国立大学名誉教授・愛知淑徳大学講師)
木下智史(関西大学教授)君島東彦(立命館大学教授)清末愛砂(室蘭工業大学大学院准教授)
倉田原志(立命館大学教授)倉持孝司(南山大学教授)小竹 聡(拓殖大学教授)
小林 武(沖縄大学客員教授)小林直樹(姫路獨協大学教授)小松 浩(立命館大学教授)
近藤 真(元岐阜大学教授)斉藤小百合(恵泉女学園大学教授)笹沼弘志(静岡大学教授)
澤野義一(大阪経済法科大学教授)清水雅彦(日本体育大学教授)鈴木眞澄(龍谷大学名誉教授)
髙佐智美(青山学院大学教授)高橋利安(広島修道大学名誉教授)高橋 洋(愛知学院大学教授)
髙良沙哉(沖縄大学教授)竹内俊子(広島修道大学名誉教授)田島泰彦(元上智大学教授)
建石真公子(法政大学教授)塚田哲之(神戸学院大学教授)
常岡(乗本)せつ子(フェリス女学院大学名誉教授)中川 律(埼玉大学准教授)
中島茂樹(立命館大学名誉教授)長峯信彦(愛知大学教授)永山茂樹(東海大学教授)
成澤孝人(信州大学教授)成嶋 隆(新潟大学名誉教授)丹羽 徹(龍谷大学教授)
根森 健(新潟大学・埼玉大学名誉教授)藤野美都子(福島県立医科大学教授)
古川純(専修大学名誉教授)前原清隆(元日本福祉大学教員)松原幸恵(山口大学准教授)
宮井清暢(富山大学教授)宮地 基(明治学院大学教授)三宅裕一郎(日本福祉大学教授)
村田尚紀(関西大学教授)本 秀紀(名古屋大学教授)結城洋一郎(小樽商科大学名誉教授)
横尾日出雄(中京大学教授)若尾典子(元佛教大学教員)脇田吉隆(神戸学院大学准教授)
和田 進(神戸大学名誉教授)

                                   以上

 ▼特措法等改正案の罰則規定の削除を求める法律家団体の緊急声明
                               2021年2月1日

                   改憲問題対策法律家6団体連絡会            
                      社会文化法律センター   共同代表理事 宮里 邦雄
                      自由法曹団            団長 吉田 健一
                      青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野  格
                      日本国際法律家協会        会長 大熊 政一
                      日本反核法律家協会        会長 大久保賢一
                      日本民主法律家協会       理事長 新倉  修

1 はじめに
 「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」という。)及び「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という。)の改正案(以下単に「改正案」という。)につき、前者については過料の金額を引き下げる、後者については刑事罰を行政罰とする等の修正を行ったうえ、2月3日にも成立の見通しと、報道されている。  
 しかし、これらの修正では、今回の改正案のもつ本質的な問題は解決しておらず、罰則規定を設けることについては、強く反対する。

2 感染症法改正案の本質的問題-患者に罰則を科すことは、たとえ行政罰であっても許されない
(1)感染症法の理念に反する
 感染症法は、ハンセン病や後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め(前文)、国及び地方自治体の講じる施策は「感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進される」(2条)ことを基本理念としている。このため現行法上、入院等の措置は「感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要な最小限度のものでなければならない」(22条の2)とされており、罰則による強制は予定されていない。
 入院を拒否したり、積極的疫学調査に応じない患者に罰則を科す措置は、上記感染症法の理念に反する。そのことは、刑事罰から行政罰になっても同様である。過料は、裁判所が本人と検察官の意見を聞いて現金の納付を命じる手続き(非訟事件手続法120条2項)によって科され、その本質は、罰則の威嚇による入院等の強制にほかならない。

(2)罰則の必要性(立法事実)が存在しない
 そもそも、入院拒否や入院先から逃げた患者が一定程度存在し、そのことによって感染が拡大した事実は存在しない。つまり罰則が必要とされるだけの立法事実は存在しない。

(3)感染症対策にとっての弊害
 また、罰則を科すことによって、検査を受け控えることを誘発し、その結果、かえって感染状況の把握自体が困難になり、感染を拡大することになりかねない。さらに罰則を伴う強制は国民に恐怖や不安、差別を惹起することに繋がり、感染症対策として不可欠な国民の主体的で積極的な参加と協力を得ることを著しく妨げる恐れがあるなど、感染症対策としても弊害をもたらすものといわざるを得ない。
 今回の改正案については、日本医学連合会をはじめ関係学会・団体等多くの医療関係者から罰則そのもののについて反対の意見が表明され、厚生科学審議会感染症部会においても多数の専門家から罰則に対する反対や懸念が表明されていたものである。全国保健所長会が、罰則を振りかざした脅しで住民の私権を制限することになり、住民目線の支援に支障を来すおそれがあるとして、罰則導入について慎重な検討を求めている。このような医療関係者や現場の声、専門家の意見を無視することは到底許されるものではない。

(4)小括  
 以上のとおり、患者に行政罰を科すことは、その必要性がなく、患者の人権制限の必要最小限度の原則にも反し、かえって感染症対策にとって弊害が大きいことから、罰則規定はすべて削除すべきである。

3 「特措法」改正案の本質的問題-事業者に罰則を科すことは金額の多寡にかかわらず許されない。
(1)営業の自由(憲法22条1項)、財産権の保障(憲法29条)等に違反
 「特措法」改正案は、緊急事態宣言下、あるいは「まん延防止等重点措置をとった場合に、都道府県知事の営業時間の短縮や休業の命令に違反した事業者に対し、罰則(過料)を科し、このことにより時短や休業を強制するものである。しかし、現在の時短要請に応じられていない事業者は、倒産や廃業の危機に直面しており、要請に従いたくても従えないというのが大半である。この中で求められるのは、時短あるいは休業に伴う減収分を行政が適切に支援、補償し、安心して要請に従うことのできる環境を整備することである。   
 これらの必要な対応を抜きに、罰則で有無をいわさず強制することは憲法13条、22条1項、25条、29条に反するものといわなければならない。
 また罰則を設けることにより、市民相互の密告や監視を招き、差別や偏見分断を助長しかねず、自由な市民生活に対する重大な阻害要因となる恐れがある。  
 問題の本質は、政府等が十分な補償等を行わないまま、罰則で時短や休業を強制することそのものであり、過料の金額の多寡では全くない。

(2)行政権力の市民生活への広範かつ過度の介入と濫用の危険
 さらに重大な問題は、違反者に罰則を科すことによって不可避的に生じる違反者の摘発、取り締まりの問題である。
 ア 特措法改正によって新設される罰則は、緊急事態宣言の下、あるいはまん延防止等重点措置下で発せられる都道府県知事の発する時短、休業等の措置命令に違反した事業者等が対象となっている(79条、80条)。この対象となる事業者の範囲は、学校、社会福祉施設、興行場、その他政令で定められており(特
措法45条2項)、特措法施行令11条は、飲食店、喫茶店その他設備を設けて客に飲食をさせる営業が行われる施設のほか、劇場、観覧場、映画館又は演芸場、集会場又は公会堂、展示場、百貨店、マーケットその他食品等を除く物品販売業を営む店舗、ホテル又は旅館、体育館、水泳場、ボーリング場その他の運動施設又は遊技場、博物館、美術館又は図書館、キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他遊興施設、理髪店、質屋、貸衣装屋その他これらに類するサービス業を営む店舗、自動車教習所、学習塾その他これらに類する学習支援業を営む施設と極めて広範囲に及んでおり、小規模店舗・施設であっても必要
であれば対象とされる。このように、法令上都道府県知事の措置命令の対象、したがって罰則の対象は、きわめて広範囲の事業者等に及ぶことになる。
 イ また、改正案では、都道府県知事は、その職員に、当該営業所、事業所等に 立ち入り、業務の状況や帳簿、書類等の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができるとされている(特措法改定案72条1項、2項)。さらに、「都道府県知事は、当該都道府県警察に対し、新型インフルエンザ等対策を実施するため必要な限度において、必要な措置を講ずるよう求めることができる」(同案24条7項)のであるから、立ち入り検査等に際し、トラブル防止等の名目で警察の同行を求めることなどの運用の危険がある。
 実際にも、「立入り等の行使は、法の施行に必要な限度で行いうるものであり、行政上の指導、監督のために必要な場合に、法の目的や他の行政目的のために使うことはできない。
 例えば、経営状況の把握のために会計帳簿や経理書類等の提出を求めたり、保健衛生上の見地から調理場等の検査を行うこと等は、認められない」(警視庁生活安全局長「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」2019年12月22日付88頁)とされているにもかかわらず、昨年7月9日、菅内閣官房長官(当時)は、テレビで「風営法(風俗営業法)で立入検査ができる。そういうことを思い切ってやっていく必要がある」と発言、その後7月16日、警視庁は風営法に基づいて新宿歌舞伎町や池袋のキャバクラやホストクラブに都職員と立入調査をした。
 菅内閣官房長官、西村経済再生担当大臣、小池百合子東京都知事は、行政調査に於ける「他目的利用の禁止原則」や「比例原則」に反し、コロナ感染対策ためとして風営法を根拠に警察に立ち入り調査をさせ、さらには「行政指導」までさせた。警察にこうした違法・越権行為、威嚇をさせたことに飲食業界等からは抗議の声が上がっている。
 とりわけ「まん延防止等重点措置」発動の要件は、「政令」で定めることとされており、対象となる事業者等は前述のとおり、極めて広範囲に及んでいることから、警察を含む公権力による市民生活への過度で広範な介入を許す危険があり、上記の例にみるとおり濫用の危険が極めて高い。これは罰則を導入することによって不可避的に生じる問題であり、過料の金額の多寡とは全く関係がない。

(3)小括
 以上のとおり、補償もなく事業者に対して罰則を科して休業、時間短縮等を強制することは、憲法22条1項、29条等に違反し、また市民生活への行政権力の過度の介入や濫用による人権侵害の怖れもあることから、罰則規定はすべて削除すべきである。

4 結語
 以上のとおり、罰則による強権的な手段を用いて私権を制限することは、そもそも立法事実を欠き違憲の疑いがあるうえ、行政権力の市民生活への過度の介入をもたらすなど、憲法上重大な問題をはらむ。行政罰(過料)にしても、過料の金額を修正しても、問題の本質は変わらない。
 以上より、罰則規定はすべて削除することを強く求める。
 なお、改正法案は、罰則規定の問題のほかにも、「まん延防止等重点措置」の発動要件を政令で定めるとしていること、国会による統制が規定されていないことなど問題が多く、十分な審議と修正が必要であって、附帯決議等で拙速に法案を成立させることは絶対にあってはならないことを付言する。       
                                         以上


▼感染症法等の改正に関する緊急声明
                                2021年1月14日

                         一般社団法人日本医学会連合 会長 門田 守人

 現在、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)等の改正が検討されています。報道や政府与野党連絡協議会資料によれば、「新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否したりした場合などには刑事罰や罰則を科す」とされています。

 日本医学会連合は、感染症法等の改正に際して、感染者とその関係者の人権と個人情報が守られ、感染者が最適な医療を受けられることを保証するため、次のことが反映されるよう、ここに声明を発します。

 1) 感染症の制御は国民の理解と協力によるべきであり、法のもとで患者・感染者の入院強制や検査・情報提供の義務に、刑事罰や罰則を伴わせる条項を設けないこと。
 2) 患者・感染者を受け入れる医療施設や宿泊施設が十分に確保された上で、入院入所の要否に関する基準を統一し、入院入所の受け入れに施設間格差や地域間格差が無いようにすること。
 3) 感染拡大の阻止のために入院勧告、もしくは宿泊療養・自宅療養の要請の措置を行う際には、措置に伴って発生する社会的不利益に対して、本人の就労機会の保障、所得保障や医療介護サービス、その家族への育児介護サービスの無償提供などの十分な補償を行うこと。
 4) 患者・感染者とその関係者に対する偏見・差別行為を防止するために、適切かつ有効な法的規制を行うこと。

 以下にこの声明を発出するにいたった理由を記します。

 現行の感染症法における諸施策は、「新感染症その他の感染症に迅速かつ適確に対応することができるよう、感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進される」ことを基本理念(第2条)としています。
 この基本理念は、「(前略)我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている(同法・前文)」との認識に基づいています。

 かつて結核・ハンセン病では患者・感染者の強制収容が法的になされ、蔓延防止の名目のもと、科学的根拠が乏しいにもかかわらず、著しい人権侵害が行われてきました。上記のように現行の感染症法は、この歴史的反省のうえに成立した経緯があることを深く認識する必要があります。また、性感染症対策や後天性免疫不全症候群(AIDS)対策において強制的な措置を実施した多くの国が既に経験したことであり、公衆衛生の実践上もデメリットが大きいことが確認済みです。

 入院措置を拒否する感染者には、措置により阻害される社会的役割(たとえば就労や家庭役割の喪失)、周囲からの偏見・差別などの理由があるかもしれません。現に新型コロナウイルス感染症の患者・感染者、あるいは治療にあたる医療従事者への偏見・差別があることが報道されています。これらの状況を抑止する対策を伴わずに、感染者個人に責任を負わせることは、倫理的に受け入れがたいと言わざるをえません。

 罰則を伴う強制は国民に恐怖や不安・差別を惹起することにもつながり、感染症対策をはじめとするすべての公衆衛生施策において不可欠な、国民の主体的で積極的な参加と協力を得ることを著しく妨げる恐れがあります。刑事罰・罰則が科されることになると、それを恐れるあまり、検査を受けない、あるいは検査結果を隠蔽する可能性があります。結果、感染の抑止が困難になることが想定されます。
 以上から、感染症法等の改正に際しては、感染者とその関係者の人権に最大限の配慮を行うように求めます。
                                       (了)



2020/10/11
日本学術会議会員の任命拒否問題(3団体のアピールと声明)
 誕生した菅義偉内閣は、「安倍内閣の継承をしっかりやりたい」「自助、共助、公助による国作り」と、新自由主義を一層進める政治姿勢を明らかにしたが、その初仕事になったのが、日本学術会議会員の任命に当たって、政府に都合の悪い発言をしてきた6人の学者の任命を拒否したことだった。学術会議は説明を求める要請をしたが、多くの民主団体が、抗議のアピールを発表した。
日本学術会議会員の任命拒否問題に対する3団体からのアピールと表明を紹介
  1. 世界平和アピール七人委員会
  2. 日本民主法律家協会
  3. 日本ジャーナリスト会議

日本学術会議会員の任命拒否は許容できない


             世界平和アピール七人委員会
         武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進
                                    2020 年10 月7日

 日本学術会議(以下学術会議と略)は、2020年10月1日から3年間の新しい期(第25期)を開始した。10月2日の総会第2日に菅義偉内閣総理大臣に「推薦した会員候補者が任命されない理由」の説明を求め、「推薦した会員候補者のうち、任命されていない方について、速やかな任命」を求めることを決定して要望書を提出した。
 これは、学術会議が日本学術会議法に基づいて手順を重ねて105人の新会員候補を8月末に推薦したのに対し、内閣総理大臣が6人を外して任命し、除外の理由の問い合わせに答えないことが判明し、科学者の間だけでなく社会的に大きな批判の波紋が広がっているのに、「判断を変えることはない」と強弁し続けていることに対するものである。
 私たちはこの要望書を支持する。

 学術会議は、日本学術会議法によって規定された、わが国の科学者を内外に対して代表する機関であり、科学の発展を図り、我が国の行政や産業、社会に科学を反映浸透させ、政府や社会に対して助言や提言を行なう役割を担っている。首相の所轄ではあるが「独立した機関」として職務を行なうものとされ、自律性を担保するため、会員はあくまで学術会議の「推薦に基づいて」内閣総理大臣が任命することが定められている。

 今回の首相による恣意的な会員任命拒否は、日本学術会議法と明白に矛盾し、選挙制度から推薦任命制度に法律改定された際の「人事に介入しない」旨の国会答弁とも合致しない。
 首相は、「(会議の)総合的、俯瞰(ふかん)的活動を確保する観点から」人事を判断したと述べたが、これは説明になっていない。学術会議による会員の選考推薦は、規則に従ってさまざまな学術分野、地域、ジェンダー、経歴、能力特性等を考慮し、まさに総合的・俯瞰的な観点から責任をもって行われており、この人選は政治家や官僚によってなしうるものではない。

 学術会議は、「科学者の代表機関」の重みと社会に対する責任を一層自覚し、外部の声にも耳を傾け、自ら改革を重ねていかなければならず、それは必ず可能であると考える。
 今回の人事介入のようなことがまかり通れば、学問の自由だけではなく、思想・良心の自由や表現の自由も脅かされる。どんな命令でも、理由は聞かず黙って従えというのであれば、社会は委縮し、多様性は失われ、全体主義国家に向かいかねないので、けっして容認できるものではない。

菅内閣総理大臣による日本学術会議推薦の会員候補者の任命拒否に強く抗議し
            日本学術会議の「要望書」を支持する声

                               2020年10月9日
                  日本民主法律家協会
                  理事長 

 2020年10月1日、菅義偉首相は、日本学術会議(以下「学術会議」という)が第25期・第26期の会員として推薦した候補者105名のうち6名の任命を、理由も明らかにしないまま拒否した。
 推薦された会員候補者が任命されなかった前例はなく、前代未聞の暴挙である。
 日本民主法律家協会は、菅首相による学術会議会員候補者の任命拒否に強く抗議する。

1 任命拒否は違法である―内閣総理大臣の任命は形式的

 学術会議は、科学者が戦争に協力したことの反省から1949年に設立された「特別の機関」であり、所轄4内閣府に移された現在でもその性格に変わりはない(内閣府設置法40条3項)。日本学術会議法は「わが国の科学者の内外に対する代表機関」として「科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的」とし(法2条)、科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ることなどの職務を「独立して」行うと定めている(法3条)。「独立」とは、特に政府、政治権力から干渉やコントロールを受けないことを意味し、国民に直接成果を提供し、ひいては全人類の幸福に寄与するという国際的に認められた科学者の自由を尊重する立場から、政府に対し、種々の勧告をする権限も有している(法5条)。
 学術会議は「内閣総理大臣の所轄とする」とされている(法1条2項)。「所轄」という用語は「統括」と明確に区別され、一般の省庁が「内閣の統括の下」(国家行政組織法1条・2条)に置かれ、内閣の指揮監督を受けるのに対し、人事院や公正取引委員会など独立性を保障された組織の場合には「所轄」の用語が使われ、内閣の直接の指揮監督を受けないことを意味する。こうした規定の仕方からも、学術会議が独立性を保障された機関であることは明らかと言える。この点、1983年、会員の選任方式を選挙制から推薦制に改正する際の国会審議に際し、総理府(当時)が作成した「日本学術会議関係想定問答」(1983年5月2日付)は、「問17」「内閣総理大臣は所轄機関である日本学術会議に対し、いかなる権限を有するのか。」との問を想定し、「答」として、「特に法律に想定するものを除き、内閣総理大臣は、日本学術会議の職務に対し指揮監督権を持っていないと考える。」と明確に述べている。そして、例外として法律が想定する事項として、「指揮監督権の具体的内容としては、予算、事務局職員の人事及び庁舎管理、会員・委員の海外派遣命令等である。」と具体的に挙げている。
 このように、学術会議が政府からの独立を基本とする自律的組織であるため、内閣総理大臣が学術会議の会員を任命するに際しては、学術会議が「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を…推薦」し(17条)、「17条の推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」(法7条2項)とされている。会員候補者の選考基準が「優れた研究又は業績」という学術の専門家でなければ判断できない学術会議の会員に共通する基準であることから、これを尊重することから当然に内閣総理大臣の「任命」は形式的なものと解せざるを得ず、任命の適否について内閣総理大臣に実質的審査権はなく、内閣総理大臣は学術会議の推薦のとおりに会員を任命しなければならないと解される。
 上記の解釈は、1983年改正の国会審議で、中曽根康弘総理大臣や当時の政府委員から、「総理大臣の任命は形式的なものであって、会員の任命を左右するものではない」旨が繰り返し答弁され、以後、学術会議の推薦する候補者がすべて任命されてきたことからも明らかである。
 また、法は、内閣総理大臣は、会員から病気等の理由により退職の申出があった場合にも、「学術会議の同意」がなければ辞職を承認することができないと定め(法25条)、さらに会員に不適当な行為があった場合ですら、「学術会議の申出」に基づかなければ会員を退職させることができないと定めている(法26条)。これらの定めも、法が内閣総理大臣に実質的な任免権限を認めていないことの表れである。
 したがって、このたびの菅首相による新会員候補者6名の任命拒否は、日本学術会議法の解釈を誤ったものであり、違法と断ぜざるを得ない。

2 学問の自由(憲法23条)を侵害するものである

 今回の任命拒否が、仮にも拒否された会員候補者の学問研究内容ないし学問的知見の表明を理由とするものであるならば、それは各会員候補者の学問の自由(憲法23条)を侵害するものであることは言うまでもない。のみならず、民主主義国家の根本をなす基本的人権である思想・良心の自由(憲法19条)、表現の自由(憲法21条)を侵し、一定の信条を持つことを理由とする差別である点で法の下の平等(憲法14条)をも侵害する。
 また、学術会議は、全ての学術分野の科学者を擁し、政府から独立して、幅広い学術分野の知見を動員して課題に関する審議を行い、政府や社会に対してその成果を提示し、研究のための予算等について政府の諮問に答え、科学の振興発達を図るための方策、科学研究者の養成に関する方策等について、政府に勧告する権限を有する(法3条ないし5条)。
 このような学術会議の職務に鑑みるならば、学術会議の独立性は、全ての学術分野の科学者が政治権力からの圧力や干渉を受けることなく、とりわけ学問研究の基盤に関わる課題についての総意を政府に正しく反映させることによって、科学者や学術機関および教育機関が闊達に社会的に有用な活動を実施する上で基盤となる制度であって、それ自体、憲法23条が保障する学問の自由を制度的に保障するものであり、この点において大学の自治の保障と同質の意義を有すると言わなければならない。
 したがって、政府が人事に介入して学術会議の独立性を害することは、学問の自由を侵害し、かつ、研究者を含む市民が一律に享受すべき精神的自由や平等権に対する重大な侵害と言うべきである。

3 理由を明らかにすべきである

 菅首相が、内閣総理大臣には会員を選考する権限がないにもかかわらず6名の任命を拒否したことは、いかなる理由があっても許されない違法行為であるが、105名のうち特定の6名の任命を拒否したことには何らかの具体的な理由があったはずである。ところが菅首相は、「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から」などと発言するのみで、その理由を明らかにしない。
 菅首相は、特定の6名を排除した具体的な理由を学術会議及び国民の前に明らかにし、検証と批判の機会を与えるべきである。

4 安倍政権を継承した菅政権による違法不当な人事政策を許さない

 2012年12月から7年8か月に及んだ安倍政権は、内閣人事局を設立して官邸に忠実な官僚のみを優遇し、集団的自衛権行使を容認するため内閣法制局長官を交代させ、日銀総裁やNHK会長も政権に都合のよい人物に交代させ、さらには最高裁判事についても、日弁連推薦の候補者を拒絶し、4名の弁護士枠を実質3名にするなど、国家の枢要な人事に露骨に介入してきた。さらに、圧倒的多数の市民の反対により挫折したが、政権の意に沿う検察人事を可能とする検察庁法の改正をも企画した。
 このたびの学術会議会員候補者に対する違法な任命拒否は、安倍政権の継承を謳う菅政権が、人事政策をも継承し、科学や学問を政権に従属させようとする企みに他ならず、絶対に許すことができない。
 学術会議が科学者の戦争協力への反省から生まれたことを顧みるならば、学術会議の独立性を守ることは、国民の人権を守り、戦争への道を阻むことである。

5 日本学術会議の要望書を支持し、6名の任命拒否が撤回されるまで断固として闘う

 10月2日、学術会議は、菅首相に対し、
①任命されない理由を説明していただきたい
②任命されていない方について速やかに任命していただきたい
の2点を要望する「要望書」を提出した。

 日本民主法律家協会は、学術会議の毅然とした対応に心からの敬意を表し、上記「要望書」を支持し、全国の学者・研究者・法律家・多数の国民と連帯し、憲法を侵害し、違法不当な6名の任命拒否が撤回されるまで、断固として闘うことを宣言する。
                                以上

菅首相に任命拒否撤回と理由、根拠の説明を求める


                    2020年10月5日
                             日本ジャーナリスト会議

 菅義偉首相が、日本の各分野を代表する学者が集い、政府から独立した立場で提言などを行う「日本学術会議(会員210人)」の3年ごとの半数改選にあたり、同会議が推薦した105人の新会員のうち6人の任命を拒否した。同会議は菅首相に対し、6人の速やかな任命と任命拒否理由の説明を求めている。日本ジャーナリスト会議は同会議の要請を支持し、菅政権に「任命拒否を撤回し、6人をただちに任命すること」、「拒否の理由と根拠を、国民の前で速やかに説明すること」を求める。

 「学者の国会」とも言われる同会議が1949年、独立機関として設立されたのは、滝川事件や天皇機関説事件など、戦前の権力による学術研究や論説への侵害、統制の反省によっている。それゆえに「日本学術会議法」で独立性が保証されている。
 今回の問題の「推薦制」は中曽根政権下の1983年に導入されたが、首相による任命は、天皇の首相任命と同様の「形式的任命行為」にほかならない。そのことは当時の国会議事録でも、「法解釈上も政府側が『拒否、干渉しない』仕組み」と明言され、与野党合同で提出した付帯決議も可決されている。
 だが今回、加藤官房長官は「法律上、推薦の中から選ぶことになっている」「義務的に任命しなければならないというわけではない」と、すり替えた。

 10月2日の野党合同ヒアリングでは内閣府と内閣法制局が、「2019年に合議し、解釈を『確定』させた」と回答したが、解釈変更の有無は答えず、「義務的に任命しなければならないわけではない」と加藤発言をなぞった。
 だとすれば、第二次安倍政権7年8カ月の負のレガシー、「その時々の政府の都合で法解釈を変えてしまう」手法が繰り返されている疑いはぬぐえない。今回の任命拒否は、「人事問題ではなく、政治と学術の関係に対する菅政権の政治的介入」に他ならない。菅首相には責任ある説明が求められる。
 さらにその後、今年9月にも内閣府が法制局に照会していたことや、2016年にも日本学術会議の会員補充人事に、政府が推薦候補の差替えを要求するなど、介入を図ったことなども明らかになってきた。

 菅政権による日本学術会議への介入は明らかに不当であり「違法」だ。日本ジャーナリスト会議は、「#日本学術会議への人事介入に抗議する」多くの人たちとともに、菅政権の暴挙に抗議する。
2020/09/12
【JCJアピール】圧力・忖度・屈従の悪循環を断ち切ろう 安倍首相退陣・新内閣発足に当たっての見解

(21KB)

日本ジャーナリスト会議(JCJ)が声明を出しました。
上のワードファイルのアイコンをクリックするとダウンロードできます。

報道資料:新内閣発足にあたりJCJの見解

報道各社殿

 安倍首相退陣と新内閣発足にあたり、日本ジャーナリスト会議(JCJ)は9月11日、下記のような「見解」をまとめましたので発表します。
 見解は、7年8カ月にわたる長期政権が生んだ数々の負の遺産、メディアを操作・懐柔する動きに触れながら、発足する新内閣のもとで、報道に期待される役割と責任をアピールしています。
 読者・視聴者に広く信頼される報道をめざし、JCJも側面から応援し、心ある取材者とともに歩みたいと考えています。別紙の「見解」を世に伝え、生かしていただければ、ありがたいです。どうぞよろしくお願いいたします。

  日本ジャーナリスト会議(JCJ)

     〒101-0061 東京都千代田区神田三崎町3-10-15富士ビル501号
     電話03・6272・9781(月水金の午後対応)
     メール office@jcj.sakura.ne.jp
     お問い合わせ 090-2538-0208(事務局長・須貝道雄)
2020/07/05
《コロナ禍の下で安倍政治の不正をただす》(2)
■■憲法審査会の開催に断固反対する法律家団体の緊急声明■■
<丸山重威>
 改憲問題対策法律家6団体連絡会は4月12日、「憲法審査会の開催に断固反対する法律家団体の緊急声明」を発表しました。

▼憲法審査会の開催に断固反対する法律家団体の緊急声明  2019/4/12

 自由民主党及び公明党などは、「日本国憲法の改正手続きに関する法律」(以下「改憲手続法」という。)の改正案を審議するためとして、衆議院憲法審査会の開催を目指している。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会(以下、「6団体連絡会」という。)は、2018年6月4日に、上記改憲手続法改正案の国会提出に反対する緊急声明を発表した。
 6団体連絡会は、改めて上記改憲手続法改正案に対して反対するとともに、以下の理由から、現時点での衆参両院の憲法審査会開催に強く反対するものである。

1 憲法改正の前提となる世論が存在しない
 後述するように、原則として首相や国会議員には「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)が課されている以上、首相や国会議員には憲法を遵守する法的義務がある。憲法改正は、政府や政党、政治家の中から改正すべきとの声が上がった際に行なうものではなく、国民の中から憲法改正を求める意見が大きく発せられ、世論が成熟した場合に限り、行われるべきものである。自民党政権も、昭和55年11月17日政府統一見解(衆議院議運委理事会において宮澤内閣官房長官が読み上げたもの)において、「憲法の改正については、慎重のうえにも慎重な配慮を要するものであり、国民のなかから憲法を改正すべしという世論が大きく高まってきて、国民的なコンセンサスがそういう方向で形成されることが必要である。」と、同趣旨のことを述べている。
 公権力を制約することによって国民の権利・利益を保障することが憲法の役割である以上、政府や国会といった公権力には常に憲法による制約を緩めようと目論む危険性がある。したがって、公権力の側からではなく、国民の側から憲法改正を求める世論が高まった後に、初めて憲法審査会での議論を行なうという謙抑的な姿勢が国会には求められているというべきである。
 近時の世論調査において、政権に期待する政策として「憲法改正」を挙げた割合は1割程度に過ぎず(日経新聞・テレビ東京合同世論調査など)、現在、国民の中で憲法改正を求める世論が高まっているとは到底言えない状況にある。
 このような状況下で憲法審査会を開き、手続法を含む憲法改正に向けた議論を進めることは、結果的に公権力が国民に対して憲法改正を「押し付ける」ことになりかねない。
 憲法改正を求める国民世論という大前提を欠いた現在の状況において、憲法審査会を開催すべきではない。

2 事実に基づく議論が期待できない
 安倍首相(自民党総裁)は今年の自民党大会において、自衛隊員募集に関して「都道府県の6割以上が協力を拒否している」と述べ、9条改憲(自衛隊明記)の必要を訴えた。しかし、この発言は事実に反しており、後に訂正を余儀なくされているものの、事実に反することを改憲の理由に挙げたことについて安倍首相は未だに撤回していない。さらに、森友疑惑をめぐる公文書改ざんと公文書毀棄、証拠隠滅、加計疑惑での事実を隠す数々の答弁、自衛隊の「日報」隠し、裁量労働制をめぐる不適切データの使用、財務省事務次官のセクハラ問題等々、安倍政権下の政府与党には、事実を軽視し、あるいは事実を歪めて議論を強引に進める姿勢が顕著である。直近でも、塚田一郎前国土交通副大臣が下関北九州道路に関する「忖度発言」で辞任に追い込まれたばかりであるが、政府与党は発言内容の真実性を認めようとしない。
 このような安倍首相や政府与党の姿勢・性質に鑑みれば、現時点で憲法審査会を開催した場合、事実に基づく慎重な議論が行われることは期待できず、強引な議論で多数派の要望のみが実現される危険性が極めて高い。
 憲法審査会の伝統たる「熟議による合意形成」を尊重するのであれば、事実に基づく議論が期待できない現在の政治状況において、憲法審査会を開催すべきではない。

3 憲法尊重擁護義務に違反し、憲法を蹂躙し続ける安倍政権に改憲をリードする資格はない。
 安倍首相は、国会で国会議員に対して憲法改正の議論を進めるように呼びかけるのみならず、防衛大学校の卒業式で改憲を示唆する演説を行なうなど、内閣総理大臣の資格に基づいて憲法改正を推進する主張を繰り返している。
 しかし、首相には「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)が課されている以上、そもそも改憲を口にすることは許されない。また、憲法96条を前提とする改憲手続法や国会法では、憲法改正の発案権は国会には認められているものの、内閣や首相には、その権限は与えられていない。内閣や国務大臣には発案権がないにもかかわらず、内閣総理大臣という資格に基づいて具体的な憲法改正を呼びかける安倍首相の行為は、憲法尊重擁護義務(憲法99条)、憲法改正手続き(憲法96条)に違反するというべきである。
 安倍政権は、これまでも、秘密保護法、集団的自衛権の一部行使容認の閣議決定、安保法制、刑訴法改悪・盗聴法拡大、共謀罪など、国民の多くが反対し、法曹関係者より憲法違反と指摘される数々の立法を、十分な審議もせずに強引に数の力で成立させてきた。憲法に定められた野党議員による臨時国会の召集要求権を無視し、他方で(首相は)解散権を濫用して衆議院を解散する暴挙も繰り返してきた。
 このように、憲法を無視し蹂躙し続ける安倍政権のもとで、憲法改正の議論を進めることは、自らの憲法違反は棚上げして公権力に都合のよい形で、強引に憲法改正を審議するという悪しき前例を作りかねないものであるから、憲法審査会を開催すべきではない。

4 与党が提出した改憲手続法改正案は議論に値しない。
 与党が提出したいわゆる「公選法並び」の改憲手続法改正案は、2007年5月の同法成立時や2014年6月の同法改正時の附帯決議で挙げられた問題点等の検討を完全に怠ったものであり、抜本的な見直しが不可欠な欠陥改正案と言うべきものである。
 改憲手続法の成立時や前回改正時の与党の対応や前述のような現在の政府与党の姿勢・性質に鑑みれば、もし憲法審査会を開催して改憲手続法改正案の議論に応じた場合、附帯決議で挙げられたり野党が求めたりするような問題点を与党が真摯に受け止める保障は全く無い。欠陥法である与党提出の改正案が強行採決で可決され、与党がその後具体的な改憲案の議論に突き進むことは明らかである。
 なお、与党などには「提出済みの法案審議に応じないのは野党の怠慢だ」などといった批判をする者もいるが、いわゆる「原発ゼロ基本法案」や「共謀罪廃止法案」といった野党提出法案の審議に与党が全く応じていない以上、ご都合主義と言うほかない批判である。
 与党が提出した改憲手続法改正案は、内容的には議論に値せず、また安倍首相の求める改憲の呼び水としての危険性を持つものであるから、その議論のために憲法審査会を開催すべきではない。

5 終わりに
 6団体連絡会はこれまで、秘密保護法・安保法制・共謀罪といった立憲主義を破壊する安倍政権の一連の施策に反対し、自民党改憲4項目の本質と危険性についても警鐘を鳴らし続けてきた。
 現時点での憲法審査会の開催は、安倍首相が目指す改憲実現へと道を開くことに他ならず、これに断固として反対するものである。

2019年4月12日

改憲問題対策法律家6団体連絡会
         社会文化法律センター       共同代表理事 宮里 邦雄
         自 由 法 曹 団        団 長    船尾  徹
         青年法律家協会弁護士学者合同部会 議 長    北村  栄
         日本国際法律家協会        会 長    大熊 政一
         日本反核法律家協会        会 長    佐々木猛也
         日本民主法律家協会        理事長    右崎 正博
2020/07/05
「安倍改憲発言」「自民党改憲案」へ反対の動き(4)
■■憲法審査会の開催、発議に反対する緊急声明■■
<丸山重威>
 自民党は「国会議員には憲法問題の発議をする責任がある」などと言う詭弁を弄し、審査会開催に反対する野党議員を「職務怠慢だ」などと誹謗・中傷して、憲法審査会を開かせようとしました。しかし、憲法審査会は、全会一致でことをすすめるという合意があり、野党の反対で実質的な審議はできないできています。こうした情勢について法律家団体が声明を出しています。
この中で「改憲手続き法」と言っているのは、いわゆる「国民投票法」ですが、問題は広告規制をどうするか、で与野党の意見が真っ二つです。与党は、このうち、投票場所を増やすとか、公選法並みの手続きだけは決めたい、といっていますが、それを突破口にして、広告規制は野放し、公務員や教員は厳しく運動を制限するといった、規制を押しつけようとしているのが実態です。法律家6団体はこうした問題について分析し、議論してこの緊急声明を出しています。

▼安倍政権が進めようとしている改憲案(4項目改憲案)の発議を許さず、安倍改憲のための憲法審査会の開催に強く反対する法律家団体の緊急声明

2019年11月12日

 はじめに
 安倍首相は、自民党人事刷新にあたり、「必ずや憲法改正を成し遂げる」「新しい時代にふさわしい憲法改正原案の策定に向け、衆参両院で第一党の自民党が憲法審査会で強いリーダーシップを発揮すべきだ」と述べ、臨時国会の所信表明演説では、「令和の時代に、日本がどのような国を目指すのか。その理想を議論すべき場こそ、憲法審査会ではないでしょうか」と訴えて、自らの任期中に改憲を成し遂げることに強い執念を燃やしている。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、自民党4項目改憲案に強く反対し、現時点における憲法審査会の始動は、以下のとおり、国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に違反し、かつ、安倍自民党政権が進めようとしている改憲の動きを加速させるだけのものになりかねないことから、衆参憲法審査会の開催に断固反対するものである。

1 自民党の4項目改憲案の危険性・・・その狙いは憲法9条の改憲にある。
 自民党の改憲4項目は、①憲法9条に自衛隊を明記する、②緊急事態条項の新設、③合区解消、④教育充実、であるが、安倍首相自身が語るように、最大の目的は憲法に自衛隊を明記する9条の改憲である。
 安倍首相は、この改憲によっても「自衛隊の任務・権限は変わらない」などと述べているが、現状と変わらないのであれば改憲など不要なはずである。上記改憲案は、戦力の不保持、交戦権の否認を定めた9条2項を空文化し、「必要な自衛の措置」の名目で、憲法違反の安保法制をも超える権限を持つ、無制限の集団的自衛権の行使を憲法上可能にし、自衛隊を通常の「軍隊」・「国防軍」にしようとするものに他ならず、「戦争をしない国」という我が国のあり方を根底から変える危険な改憲案であって、絶対に許してはならない。
 緊急事態条項は、9条改憲とあいまって、軍事的な緊急事態において、国権の最高機関である国会の立法権を奪い、内閣が独裁的に国民の人権制限を行うことを可能にすることものである。大地震などの自然災害の対応についてはすでに充分な法律が整備されており、憲法に緊急事態条項を置く必要性はない。
 合区解消は、投票価値の平等を侵害するおそれがあり、仮に合区に関わる問題の解決が必要であるならば、議員定数や選挙制度の改革など法律改正で解決すれば足りるのであり、改憲の必要性はない。
 教育の充実も、法律や予算措置によって実現できるものであり、改憲の必要性はない。教育格差を是正すべき文科大臣が「身の丈」発言をするような安倍政権の退陣こそが教育の充実につながるものである。
 以上のとおり、自民党改憲案は、我が国を「戦争のできる国」に作り変えようとするところに本質があり、日本国憲法の基本原理である平和主義、国民主権、基本的人権の尊重を破壊するものであって、断じて許してはならない。これが参院選で示された国民の意思であり、このような危険な改憲に踏み出す憲法審査会の開催に応じるべきではない。

2 国民は憲法改正を望んでいない
 今、国民が、憲法改正を必要とは考えていないことは、この間のいずれの各種世論調査からも明らかである。例えば、7月22~23日の朝日新聞の世論調査では、首相に一番力を入れて欲しい政策は「年金などの社会保障」が38%で最も高く、「憲法改正」は3%であった。9月6~8日のNHKの世論調査でも、「新内閣が最も力を入れて取り組むべきだと思うこと」は「社会保障」が28%、「景気対策」が20%に対し、「憲法改正」は5%であった。
 国民は、10月1日からの消費税率10%への増税、相次ぐ台風による大規模災害などに苦悩と不安を抱き、こうした問題の解決にこそ政治の力を求めている。そうした中で、2週連続で経済産業大臣と法務大臣が辞任し、萩生田文部科学大臣の大学入試における民間試験導入による経済的・地域的格差を是認する「身の丈」発言をきっかけに世論の激しい批判を受けて、英語民間試験の導入を延期せざるを得なくなるなど、安倍政権そのものが根底から揺らいでいる。
 このような情勢下にある臨時国会において、国民は憲法改正論議を進めることなど全く望んでいないことは明白である。
 憲法改正は、「国民のなかから憲法を改正すべしという世論が大きく高まってきて、国民的なコンセンサスがそういう方向で形成されることが必要である」(1980年11月17日政府統一見解)。
 国民の支持がないままに、「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)を負う首相や国会議員が改憲議論を主導することは、明らかな越権行為であり、憲法尊重擁護義務に違反する。

3 与党提出の改憲手続法改正案の審議について
 自民党の森山国会対策委員長は、11月9日鹿児島市で開かれた会合であいさつし、与党提出の改憲手続法改正案について、「公職選挙法に基づいて国民投票法を改正しようということなので、ほとんどの与野党は議論がないと思う。」「何としても審議し、結論を出してもらいたいと強く思う」と述べ、今臨時国会で成立を目指す考えを重ねて強調した。
 与党提出の改憲手続法改正案は、2016年成立の改正公職選挙法の内容にそろえて国民投票環境の改善を目指すと説明されている(いわゆる「公選法並びの」改正案)ものであるが、投票環境の後退面も含まれるほか、何よりも、テレビ、ラジオ、SNS等による国民投票運動の有料広告の規制について検討がなく、現行法の持つ「国民投票をカネで買う」危険が全く考慮されていないという本質的な欠陥がある改正法案である。そのほかにも、公務員・教育者の国民投票運動をめぐる不当な規制の問題や最低投票率の問題など、極めて多数の問題が解決されていない。これらの問題点の抜本的な議論と見直しのないまま改憲手続法改正案を成立させることは許されない。
 さらに、我々法律家6団体は、憲法審査会を開き改憲手続法改正案を審議・採決すること自体にも反対する。なぜならば、自民党公明党は、これまで数の力を恃んで憲法違反が指摘される多くの問題法案の強行採決を繰り返してきた。憲法審査会において改憲手続法改正案の審議に進めば、重大な欠陥法案である与党案の採決が強行される可能性も否定できない。野党が、与党提出の改正案の議論に応じても、自民党が抜本的な手続法改正の議論に真摯に応じる保障はなく、任期中の改憲を目指す安倍自民党は欠陥改正法案を多少の手直しで強行採決し、自民党改憲案の実質議論に突き進もうとすることは目に見えている。欠陥改正改憲手続法を成立させることは、自民党改憲案が憲法審査会に提示される道を開き、改憲発議、国民投票への道を開くものというべきである。
 自民党改憲案は、我が国を「戦争する国」に作り変えようとするものである。その発議と国民投票に向けての最初の一歩を踏み出すことは、改憲を望まない国民の意思に反すると確信する。
 以上のとおり、私たち改憲問題対策法律家6団体連絡会は、自民党改憲案に強く反対する立場から、憲法審査会の開催に断固反対し、改憲手続法改正案の審議・採決にも反対するものである。
以上

   2019年11月12日                      
        改憲問題対策法律家6団体連絡会
           社会文化法律センター        共同代表理事 宮里 邦雄
           自 由 法 曹 団         団 長    吉田 健一
           青年法律家協会弁護士学者合同部会  議 長    北村  栄
           日本国際法律家協会         会 長    大熊 政一
           日本反核法律家協会         会 長    佐々木猛也
           日本民主法律家協会         理事長    右崎 正博

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