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ミャンマー軍の日本人記者拘束に抗議し、断固たる対応を日本政府に求める
ミャンマーで取材中の北角裕樹氏が4月18日夜、軍・治安当局によって逮捕・拘束された。国軍による残虐な弾圧とそれに対する民衆の不屈の抵抗を報道してきた北角氏に対し、当局は「偽情報を流布した」という根拠のない罪名をかぶせて氏をインセイン刑務所に監禁した。この行為は、武力クーデターを起こしたミャンマー軍が真実の報道をどれほど恐れているかを示したものである。氏は日本経済新聞社を退社後フリー・ジャーナリストとしてミャンマーの取材を行なってきた。2月末にも一時拘束されたがその後もSNSを通じて「国軍側の悪辣さ」を発信し続けてきた。
ユネスコによれば2月1日のクーデター後、71人のジャーナリストが不法に逮捕され、半数以上がいまだに拘束されたままとなっている。ドイツの通信社記者は3月に13日間拘留の後、国外退去となった。だが訴追・有罪となれば禁錮3年となる可能性もある。
国内のメディアに対する免許取り消しや記者拘束は今も続く。主要な新聞は3月17日までに発行が止まった。ネットによる情報も遮断されたが、軍による過酷な弾圧を記録した動画はすでに世界中に流出した。国民が職場を放棄する不服従運動のなか、殺された市民は18日までに737人にのぼっている。
ミャンマー軍は2007年9月にも取材中の映像ジャーナリスト長井健司氏(50)を至近距離から銃撃して殺害している。
こうした不法行為はミャンマーの内部問題ではなく、人権と民主主義、報道の自由が蹂躙されるという点で明白な国際問題となっている。日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、ミャンマーの国軍・治安当局が行った北角氏逮捕に強く抗議するとともに、氏を直ちに釈放するよう求めるものである。
菅義偉首相は19日、北角さん拘束問題に対して「現地大使館で全力で事実関係を確認中だ。邦人保護には万全を尽くす」と、通り一遍の発言を行なった。ミャンマー国軍とは政治的にも経済的にもつながりの深い日本がいつまでも傍観者でいてよいはずはない。ミャンマーの民主化を逆行させないためにも、北角氏の生命の安全のためにも、日本政府がただちに国軍に対する断固とした行動を開始するよう要求する。
2021年4月21日
日本ジャーナリスト会議
デジタル監視法案の参議院本会議の可決・成立に強く抗議する
法律家・法律家団体の抗議声明
2021年5月12日
デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク
共謀罪対策弁護団 共同代表 海渡雄一
秘密保護法対策弁護団 共同代表 海渡雄一・中谷雄二・南 典男
社会文化法律センター 共同代表理事 宮里邦雄
自由法曹団 団長 吉田健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野 格
日本国際法律家協会 会長 大熊政一
日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
日本民主法律家協会 理事長 新倉 修
三宅 弘 元総務省行政機関等個人情報保護法制研究会委員 弁護士
平岡秀夫 元法務大臣・元内閣官房国家戦略室室長 弁護士
青井未帆 学習院大学教授
池本誠司 元消費者庁参与 弁護士
右崎正博 獨協大学名誉教授
白藤博行 専修大学教授
晴山一穂 専修大学名誉教授
1 デジタル改革関連法(デジタル監視法)の成立に強く抗議する
本日、参議院本会議において、デジタル改革関連6法案(デジタル監視法案)が、自民党、公明党、維新の会、国民民主党の 賛成多数により可決・成立した。
デジタル監視法案は、そもそも1000頁を超える64本の膨大な束ね法案であり、しかも、その法案の内容が、本年2月9日に国会 に提出されるまで、政府内部で秘匿されて一切不明であった。法案提出後も資料の誤りが多数発覚するなど不備が続いたが、衆・参両院の審議時間は、あわせて50数時間に過ぎず、新型コロナ感染症拡大による緊急事態宣言のもとで苦しむ市民が、国会審議により、法案の全体像や問題点を十分に理解しその採否を判断する暇さえ与えなかった。
かかる法案提出の仕方や審議経過は、国権の最高機関で唯一の立法機関とされる国会(憲法41条)のはなはだしい軽視であり、民主主義の原理に悖るものであって、強く批判されなければならない。
さらに、デジタル監視法案の内容自体も、個人情報の保護を後退させ、憲法の保障するプライバシー権(憲法13条)を侵害し、三権分立や法律による行政の原理に違反して官邸によるデジタル独裁にも繋がりかねない危険があることから、我々法律家は、当初よりこれに反対してきた。
アジャイル型組織としてデジタル庁を通じての内閣総理大臣によるデジタル情報の国家独占管理体制となる危険や、自己情報コントロール権の確立には程遠い不十分な内容であることは、以下のとおり、この間の国会審議でも明らかとなっており、我々は、デジタル監視法の成立に、強く抗議する。
2 情報コントロール権が明記されず、個人情報保護を後退させる危険があること
人は監視されていると感じると、自らの価値観や信念に基づいて自律的に判断し、自由に行動して情報を収集し、表現することが困難になる。すなわち、プライバシー権(憲法13条)は、個人の尊重にとって不可欠な私的領域における人格的自律を実現するとともに、表現の自由の不可欠な前提条件となっており、立憲民主主義の維持・発展にも寄与する極めて重要な人権である。高度な情報化社会でデジタル化を推進するためには、プライバシー権の保障を徹底し、自己情報コントロール権を確立し、個人情報の取得、保有、利用、提供、廃棄のすべてに情報主体である個人の同意原則を徹底することが不可欠である。
今回成立したデジタル監視法は、情報コントロール権を明記せず、個人情報保護を後退させて、市民のプライバシー権を侵害し、国家による監視を強化し、表現の自由を萎縮させて民主主義を危機に陥れる危険のある欠陥法である。
共通仕様により、国の諸機関や地方自治体からデジタル庁に集積された膨大な個人情報が、権利主体の同意なく、企業や外国政府を含む第三者に提供され、目的外使用に供される危険がある。我々が特に危惧するのは、警察がデジタル庁・内閣情報調査室を経由して、内閣総理大臣としての権限でアクセスすることができ、パソコン操作によるわずかな手続のみで、自由に個人情報を取り出せる仕組みができるのではないかということだ。
改正個人情報保護法69条(利用及び提供の制限)の規定によれば、必要性、相当性があれば、個人の同意なく情報の利用・提供が可能である。この条文は改正前と同じであるから、我々の危惧は杞憂であると政府は答弁する。しかし、政府は、相当の理由や特別の理由ありとする個人データ共同利用について、個人情報保護法の要件を限定する野党修正案にすら応じなかった。個人情報の利用・提供が、厳格に制限される保証は全くない。また、すべての情報が共通仕様化されて一元管理が可能となる前と後では、同じ条項の意味合いは大きく変わるであろう。
参議院審議の中で、与党側が推薦した参考人宍戸常寿東大教授は、「データの利活用によって監視に使われやすい仕組みには危惧がある。公共の場所での顔認証などは全面的に禁止するなどの措置が望ましい」との意見を述べている。しかし、センシティブ情報の保有を禁止するなどの措置は取られておらず、個人の同意なく政府や警察が取得できる個人情報の種類や範囲を限定する規定も存在せず、むしろ、保護の対象となる個人情報を、「容易に」特定の個人を識別できるとする定義に統一改訂することにより後退させている。
政府・警察による違法な個人情報の収集・保有、プロファイリングや利用などの怖れはないと、政府は答弁しているが、これまでも、内閣情報調査室が文科事務次官であった前川喜平さんや望月衣塑子記者らの行動を監視していたことが明らかになっている。今後、市民や法律家がプライバシー権の侵害が本当にないか不断に監視し、後述する独立の監視機関の設置を求めていくことが必要である。
3 地方自治体による個人情報保護の為の取り組みを後退させてはならない
デジタル監視法は、これまでの分権的な個人情報保護システムの在り方を根本から転換し、国による統一的な規制を行おうとするものである。このような制度は、各公共団体において、住民との合意のもとで構築してきた独自の個人情報保護の在り方を破壊し、公共団体による先進的な個人情報保護制度の構築を後退させるものになりかねない。
デジタル担当大臣によって、「リセットする」と曖昧に答弁された個人情報保護条例の共通ルール化について、政府は、「法令委任事務以外は、別途アドオンして、必要に応じて標準準拠システムと情報連携が可能となる標準仕様とする。それでも独自サービスが提供できない場合、標準準拠システムの必要最小限度のカスタマイズはやむを得ないが、できるだけそのようなカスタマイズがなくても独自サービス提供可能となる対応をしたい。」と答弁された。しかし、自治体の独自の規制を維持するための財政的な裏付けも示されていない。
今後、個人情報保護委員会を通じて、自治体を指導監督するとされたが、自治体において収集した個人情報をどのように管理するかは、自治事務の一環であり、国がこれを一方的に支配・統合することは、地方自治の本旨(憲法92条)、条例制定権(憲法94条)に違反するものである。委員会による指導監督が自治体の優れた個人情報保護政策を抑制することになれば、条例制定権を侵害するものとして、厳しく弾劾されなければならない。
4 強大な権限を持つデジタル庁は独裁機関の危険がある
デジタル庁設置法によれば、デジタル庁は内閣直属の組織とされ、その長は内閣総理大臣である。このほかにデジタル大臣や特別職のデジタル監等を置くとされている。
しかし、最初からこのような組織が構想されていたわけではない。昨年10月1日の朝日新聞記事によれば、デジタル庁の位置づけは①復興庁のような内閣直轄②内閣官房③内閣府④内閣官房に司令塔部分、内閣府にシステム構築部分を並立、の4案を検討していたことが明らかになっている (2020年10月1日朝日新聞記事「首相の目玉「デジタル庁」の準備室発足 調整事項は山積」より)。トップを役人出身の長官にするか、大臣を置くかどうかすらもが議論されていたのである。
また、政府答弁によれば、デジタル庁は、発足時は500人程度で、非常勤職員が128人、その多くは民間企業からの出向だとされる。しかも、庁内には、局も課も置かれないアジャイル型組織とされる。必要に応じて活動内容を迅速に変えていくことができるとされるが、行政組織としてきわめて特殊で不透明な組織構成だ。構成員がトップと直接的につながるアジャイル型組織は、内閣総理大臣によるデジタル情報の国家独占管理体制につながる危険性については、国会審議によっても払拭されなかった。
また、このような体制で、本当に情報の漏洩が防げるのか、行政と巨大IT企業の癒着によって行政が歪められるおそれはないのか、国会審議によって多くの疑問が解消されたとは到底言えない。
デジタル庁は内閣府ではなく、内閣に置かれ、トップは総理大臣である。そして、デジタル大臣は、特に必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、勧告することができ、行政機関は、当該勧告を十分に尊重しなければならないとされている。これは時限組織である復興庁にしかなかった規定であり、全省庁の中で抜きんでた権限が与えられている。デジタル庁が独裁機関化する危険性は国会審議でも払しょくされなかった。
先にあげた準備段階の議論を見る限り、デジタル庁と内閣総理大臣に、かかる異質で強大な権限を与える必要性は存在せず、普通の組織にし、独裁機関化させないためには、金融庁や消費者庁などと同様に、内閣ではなく内閣府(の外局)に置き、デジタル庁の長は内閣総理大臣ではなく特命担当大臣であるデジタル大臣とし、デジタル大臣の勧告についての尊重義務の規定はなくすよう、改正を求めていくべきである。
5 個人情報保護委員会の権限と組織の強化が不可欠である
このような強大な権限を持つデジタル庁の創設によって、プライバシー侵害が現実のものとならないようにするために、民間だけではなく、行政機関や地方自治体も一元的に管理することとなった個人情報保護委員会の組織を、少なくとも公正取引委員会並みに、常時800名程度の職員と各地方事務所を有する組織に拡大強化することが必要である。
権限についても抜本的に強化されなければならない。まずは犯罪捜査と外交防衛分野について、どのような個人情報ファイルが作られているか、個人情報保護委員会に事前に通知する必要がないとする規定を改めることが必要である。
附帯決議によれば、相当の理由や特別の理由による個人データ共同利用ついては、個人情報保護委員会が行政機関を監督するとされているが、個人情報保護委員会の権限が勧告に留まるならば、適正な監督は不可能である。個人情報保護委員会による指導監督は、地方警察をも含む警察情報全般に及ぶことになる。それゆえ、特定有害活動(スパイ行為等)や共謀罪捜査の名の下に行われる個人情報の収集やプロファイリングに対しても、不正を糺す徹底した指導監督がなされるべきである。指導監督が勧告権限の行使を持ってしては不十分であることが明らかとなれば、個人情報保護法の更なる改正による個人情報保護委員会における行政機関に対する立入調査権や命令権限が認められるべきなのである。
個人情報保護委員会の国会に対する年次報告も、従来のものでは全く不十分である。すべての行政機関、警察、地方自治体を対象とする厳格適正な調査とその結果の詳細な報告が、国会に対してなされる必要がある。
6 情報機関の監督強化のための新たな機関の設立が必要である
アメリカには、特定秘密の指定を是正する複数のシステムが機能しており、いったん特定秘密に指定された情報の多くが、一般に公開されている。また、ドイツやオランダには、情報機関の集めた情報を見て、不適切な情報が秘密指定されていればこれを公開させ、あるいは、誤った個人情報が収集されていればこれを訂正させる権限を持ったさまざまな国家機関が活動している。
わが国においては、特定秘密保護法に関連して設立された政府・国会の機関は十分機能しているとはいえない。国家公安委員会と地方公安委員会の監督は、公安警察活動に対しては機能していない。内閣情報調査室、公安調査庁や自衛隊情報保全隊の活動についての監視システムは存在しない。日弁連などは、これまでも、情報機関(日本には CIA のような中央情報機関はまだないが、公安警察、自衛隊の情報保全隊、法務省の公安調査庁、内閣情報調査室などの情報機関がある。)の活動、特定秘密指定などについて、政府から独立した監視機関を設立する必要があることを提唱してきた。公安警察や自衛隊情報保全隊などの情報機関の活動については、法律により厳格な制限を定め、また個人情報保護委員会とは別個に、独立した第三者機関による監督が必要である。この機関が、職権で、特定秘密や情報機関の集めた情報、デジタル庁に集約された情報等の中身まで見て、是正の勧告や命令までできる機関であることが必要である。
最後に
今回成立してしまったデジタル監視法は、以上のとおり、日本の民主主義と人権保障の未来を大きく左右する法律である。デジタル独占監視体制となっていないか、個人情報保護委員会の活動が適切に行われているかなど、市民と法律家の監視を強め、必要な法改正を要求し、必要な改正がなされないときは、法律の廃止を求めていく粘り強い運動が重要である。法律家と市民の協力により、政府によるデータの恣意的濫用を許さず、引き続き自己情報コントロール権の確立を要求し、この法律をデジタル「監視法」にさせない運動を継続していく決意を述べて、抗議声明の結びとする。
以上
デジタル監視法案の衆議院本会議採決に強く抗議するとともに
参議院での慎重審議と抜本的修正を求める法律家・法律家団体の緊急声明
2021年4月6日
デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク
本日、衆議院本会議において、デジタル改革関連5法案(デジタル監視法案)が、自民党、公明党などの賛成多数で採決された。私たちは、個人情報の保護、プライバシー権の保障を徹底し、国家による市民監視を許さない立場から、デジタル監視法案に断固として反対するものである。今回の採決は、市民の反対や慎重審議を求める多くの声を完全に無視する暴挙であり、強く抗議する。
1 拙速な審議と採決に強く抗議する
デジタル関連5法案は63本の束ね法案からなるにもかかわらず、審議時間はわずか27時間であり、圧倒的に審議が足りていない。法案提出後に資料の誤りが多数発覚し、国会への報告も遅れるなど手続き的にも不備があった。憲法13条(個人の尊重、プライバシーの権利)、同92条、同94条(地方自治)、国家行政組織上の問題など、基本的人権と民主主義の基盤に関わる重要な問題が山積みであり、それが28項目にも及ぶ附帯決議に象徴されている。政府は、月内の成立を目指すとされているが言語道断である。参議院における審議は、衆議院で審議が尽くされていないデジタル監視法案の数多の問題点について、国民の疑問に答えるためにも、ひとつひとつ十分な審議を慎重に尽くし、特に以下に述べる重大事項について抜本的な修正を施すことを強く求める。与党らがこれらの抜本的修正に応じない限り法案は、廃案にすべきである。
2 個人情報の保護・プライバシー権(憲法13条)と知る権利(憲法21条)の保障が不可欠である
法案は、個人情報の利活用を優先し、個人情報の保護を後退させるものである。法案には、自己情報コントロール権を明記するともに、EU一般データ保護規則(GDPR)に準拠して個人情報の取得、保有、利用、提供のすべてに情報の主体である個人の同意原則を徹底保障することが必要である。目的外利用、第三者提供について同意を不要とする例外規定(整備法による改正後の個人情報保護法69条2項2号、3号及び4号)の見直しは必須である。インターネット、監視カメラ、顔認証システム、GPSシステム等により大量の個人情報が集積される現状において、公権力が個人情報を収集、検索、利用するには、その範囲を必要最小限にするとともに、個別に法的権限を明記し要件を厳格に定める法整備が不可欠である。
また、自己のいかなる情報が公権力により収集され利用されているのかについて市民の知る権利が保障されなければならない。行政機関個人情報保護法10条2項1号2号の改正をはじめとして情報公開制度の実効性を高めるとともに、公文書管理のさらなる徹底を図ることが、デジタル化推進の前提である。森友加計学園や南スーダンPKO日報問題等々の教訓から、公文書管理と情報公開制度の充実が、デジタル化推進の本来の目的の一つであったにも関わらず、法案はこの点について何も触れていない。
さらに、法案は、個人情報保護委員会に監督を一元的に委ねているが、政府から独立した機関ではなく、個人情報については特定個人情報に関して認められている省庁への命令権限が付与されておらず、組織の規模や人員の確保、予算措置等は不明であって、監督・監視機関としては決定的に不十分である。特に公安警察、公安調査庁、内閣情報調査室の活動に対する監視は、秘密保護法が制定された後も、現行制度では機能していない問題がある。その点も含めて政府から独立した強い権限を持つ個人情報保護のための監督・監視機関の設置が必須といえる。
3 国家・警察による市民監視を厳格に禁止し又は規制する立法措置が不可欠であること
デジタル監視法案のもとでは、各省庁と地方自治体の情報システムが、すべて共通仕様化され、デジタル庁に一元管理される。さらに、マイナンバーによって、健康情報、税金情報、金融情報、運転免許情報、前科前歴情報などが今後紐づけされて一覧性の高い形で利用が可能となる。これは、市民のセンシティブ情報を含むあらゆる情報を政府が「合法的に」一望監視できる国家、すなわち「監視国家」の体制整備を意味する。内閣総理大臣を長とするデジタル庁は、内閣情報調査室と密接な関係を持ち、デジタル庁が集約した情報は、官邸・内閣情報調査室を介して警察庁・各都道府県警察と共有されることが強く疑われる。これらの監視国家化を禁止又は厳格に規制するための法的措置が不可欠である。
4 デジタル庁は、内閣総理大臣に強大な権限を与え統治のシステムを歪め、IT等企業と行政の癒着、利権の温床となるおそれがあること
内閣総理大臣を長とする強力な総合調整機能(勧告権等)を有するデジタル庁は、内閣に設置され、ガバメントクラウドを統括管理し、予算配分を担うことになり、他方で、各省庁、地方自治体、教育機関、医療機関等は、デジタル庁の勧告に対して尊重する義務を負う。このような異質な統治システムがなぜ必要なのかについて、議論が尽くされていない。また、デジタル庁の職員は民間企業から多く採用されており、行政と企業の癒着によって行政が歪められるおそれがある。
5 地方自治の侵害
デジタル監視法案は、これまでの分権的な個人情報保護システムの在り方を根本から転換し、国による統一的な規制を行うとするものである。このような制度は、各公共団体において、住民との合意のもとで構築してきた独自の個人情報保護の在り方を破壊し、公共団体による先進的な個人情報保護制度の構築を後退させるものになりかねない。自治体において収集した個人情報をどのように管理するかは、自治事務の一環であり、国がこれを一方的に支配・統合することは、地方自治の本旨(憲法92条)、条例制定権(憲法94条)に違反する。6 結語
デジタル監視法案は、上記の点以外にも、そもそも誰のためのデジタル化推進かという立法事実の議論をはじめ、転職時における使用者間での労働者の特定個人情報の提供を可能とする、国家資格をマイナンバーに紐づけて管理するなど、極めて問題が多い法案である。慎重にも慎重な審議が必要である。特に、個人情報保護の徹底とプライバシー権侵害の危険の払しょく及び警察権力の規制をはじめ監視国家化防止策が徹底されない限り、デジタル監視法案は、廃案にすべきである。
以上
以下は、全漁連の抗議声明全文。
アルプス処理水海洋放出の方針決定に強く抗議する
本日、国はアルプス処理水海洋放出の方針決定を行った。
4月7日、我々は菅義偉内閣総理大臣に対し、「漁業者・国民の理解を得られないアルプス処理水の海洋放出には、JFグループとして断固反対」であることをあらためて申し入れ、慎重な判断を強く求めたところである。それにもかかわらず、本方針が決定されたことは極めて遺憾であり、到底容認できるものではない。ここに強く抗議するものである。今後とも、海洋放出反対の立場はいささかも変わるものではない。
国は、汚染水対策の過程における福島県漁連の要望に対し、アルプス処理水について関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないことを明確に回答しており、なぜ関係する漁業者の理解を得ることなくこの回答を覆したのか、福島県のみならず全国の漁業者の思いを踏みにじる行為である。
全国の漁業者、国民の不安を払拭するため、次の事項について、国としての対応をあらためて強く求めるものである。
- 1.漁業者・国民への説明
- 全国の漁業者をはじめ多くの国民から海洋放出反対の意見が出されてきた中で、国として、なぜ海洋放出の方針決定を行ったのか、漁業者・国民に責任をもって説明することを求める。
- 2.風評被害への対応
- 海洋放出の方針決定により当面生じる風評被害と、将来、実際に海洋放出が行われた場合に生じる風評被害に、国の責任においてどのように対処するのか、明確に示すことを求める。
- 3.アルプス処理水の安全性の担保
- 海洋放出されるアルプス処理水の安全性を、どのように国内外に説明し、担保していくのか、国の責任において具体的かつ明確に示すことを求める。
- 4.漁業者の経営継続
- 福島県ならびに近隣被災県の漁業者、そして全国の漁業者が安心して子々孫々まで漁業が継続できるための方策を、国の責任として明確に示すことを求める。
- 5.継続保管等の継続的検討
- 半減期効果を念頭に置いた敷地内における更なるタンク増設による保管継続や新たな処理・保管方法等の検討など、あらゆる可能性について国の責任で継続的に検討・実施していくことを求める。
2021年4月13日
以下全文を紹介する。
海洋放出問題についての緊急声明
福島第一原発のALPS(多核種除去設備)処理汚染水について、政府は4月13日にも、海洋放出による処分を決定すると報道されている。
原子力市民委員会は、以前より汚染水は海洋放出すべきではなく、堅牢な大型タンクによる陸上保管の継続か、モルタル固化による処分を選択すべきであると提言してきた。その後、政府および東京電力は、私たちが指摘してきた問題点を考慮することもなく、また、私たちが提案してきた有効な代替案を具体的に検討することもなく、海洋放出を決定しようとしている。このことについて、原子力市民委員会は強く抗議する。
今回、汚染水海洋放出を決定しようとしていることには、さしあたって次の5つの問題を指摘する。
1.社会的な合意形成の手続きが踏まれていない
ALPS小委員会の「海洋放出が現実的」とする報告書が公開されて以降、一般市民が意見を言えるような公聴会は開催されておらず、政府が「関係団体」として指定した団体の代表42人の意見が聴取されたのみである(しかも42人中、41人が男性である)。パブリック・コメントは集められたものの、きわめて形式的な手続きにとどまり、一般から提起された懸念や提案された代替案については、何ら議論されていない。
2.トリチウムは放射性物質であり、環境への放出は厳に避けるべきである
政府は、トリチウムの環境や生体への影響を軽視しているが、トリチウムの有害性を指摘する研究報告は少なからずある。各国でのトリチウムの規制値にも幅があるが、その規制値は、原子力施設の稼働を前提としたものであり、それ以下であれば安全性が確認された値と理解するべきではない。
政府は、トリチウムの年間放出量を22兆ベクレル以下にするとしている。しかし、これは、福島第一原発における事故前の放出管理目標値(上限)であり、実際の放出実績は、年間約2兆ベクレルであった。つまり、福島原発事故前に、発電にともなって放出していたトリチウムの10倍の量を、放出し続けようとしているのである。
政府および東京電力には、福島原発事故によって、大量の放射能を環境に放出した責任がある。その上で、現状はタンクで保管されている放射性物質を環境中に意図的に追加放出し、再汚染をもたらすこと自体、断じて許されない。
なお、東京電力は、処理水を海水で薄めて、トリチウムの濃度を1,500ベクレル/L以下にするとしている。これは、地下水バイパスからの排水の運用基準と同様である。これをあたかも、トリチウムの排出基準である6万ベクレル/Lの40分の1であるというような言説が流布されている。しかし、これは完全にミスリーディングである。
1,500ベクレル/Lとするのは、規制基準の40分の1にするのではなく、規制上満たさなければならない要求である。地下水バイパス・サブドレンからの排水の運用を決める際、福島第一原発の敷地内には、排水以外に考慮すべき放射線源があり、敷地境界線上1mSv/年という法令を遵守するためには、排水に割り当てられるのはその約2割とされた。その上、排水中に含まれるストロンチウム90などの放射性物質の存在を考慮すると、トリチウムに割り当てられるのは1,500Bq/Lとされた。これが1,500ベクレル/Lとする経緯である。こうした経緯について、経産省、原子力規制庁、東京電力は国民に正しく説明すべきである。
3.海洋放出を決定しても、数十年におよぶ長期間のタンク保管は避けられない
大量の汚染水タンクの存在が風評被害の要因であるとの指摘や、タンク保管の長期化にともなう老朽化や災害時の漏洩リスクなどが、早期の海洋放出決定への口実とされている。しかし、政府の計画に基づいて海洋放出をするとしても、汚染水(現時点でのトリチウム総量856兆ベクレル)の全量を放出するまでに40年の期間を要する。その間、タンクによる長期保管は不可避であり、汚染水タンクの耐久性、耐震設計、維持管理等の問題が、海洋放出によっては解消されない。
4.汚染水対策を含む「廃炉」方針および工程の技術的な見直しが不可欠である
汚染水が増え続け、タンクを増設する敷地が足りないことが海洋放出の理由とされている。しかしそれは事実ではない。私たちは次のように、現実に実行可能な技術的代替策について、これまで繰り返し提言してきた。
- 汚染水については、堅牢な大型タンクによる保管継続か、モルタル固化処分が現実的かつ合理的である。政府は大型タンクからの漏洩リスクについて指摘しているものの、石油備蓄タンクなどの設置・運用実績から、十分な信頼性がある。
- デブリの取出しを前提として、そのための敷地を確保することが、タンクを増設できない理由とされている。しかし、デブリの取出しは技術的にも費用的にまったく見通しが立っておらず、無理にすすめるべきではない。
- 汚染水の増加を防ぐためには、デブリの空冷化を早期に実現すべきである。
- デブリを含む事故炉を「外構シールド」で覆い、放射能の拡散を防ぐ「長期遮蔽管理」に移行すべきである。
一方、2月13日に発生した福島県沖を震源とする地震により、汚染水タンクが横ずれし、配管が損傷した事故から、そもそも汚染水タンクを基礎に固定していなかったことが発覚した。これは、この規模のタンクの施工事例からは考えられない設計・施工ミスであり、これを正当化している東京電力や、問題視していない政府、原子力規制委員会の基本的な技術力を疑わざるを得ない。
福島第一原発の後始末が長期にわたることは間違いない。現存する汚染水を、堅牢かつ十分な耐震設計の施された大型タンクに移送するような対策は、当面の応急措置としても不可欠である。
5.復興を妨げている最大の要因は、政府および東京電力への不信である
本来は別の問題である「復興」と「廃炉」の「両立」を強調する政府の主張は、廃炉の困難さを指摘する主張を、「復興を妨害する」ものとして切り捨て、自らの責任を他者に転嫁している。
関係者との意見交換、パブリック・コメントでの多数の反対・慎重意見を無視して、海洋放出を正当化する根拠として「復興」を掲げることは、現場で日々復興のために従事してきた漁業関係者、関連事業者を含む市民の地道な営みに対する暴挙であると言わざるを得ない。
政府・東京電力は、問題を「風評」に矮小化し、魚介類や農産物の安全PRや、販路拡大の支援などで対処しようとしている。根本的な問題は、これまでの政府や東京電力の情報公開や説明が不正確かつ不誠実であったことにある。
信頼の回復には、現実的かつ技術的な裏付けのある政策を、十分な情報とともに示し、理解を得る努力が不可欠である。しかしながら、政府および東京電力のこの間の対応には、その全てが欠けている。
このような状況での海洋放出決定は誤りである。誤った政策であっても、いったん決定されれば変更しない/できないのが日本の原子力政策の特徴である。ALPS処理汚染水海洋放出は行うべきではないし、国民からも到底受け入れられないであろう。
全文を紹介する。
2021年2月25日
「デジタル監視法案」(デジタル化関連法案)について、プライバシー保護の観点から慎重審議と問題個所の撤回・修正を求める意見書
デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク
共謀罪対策弁護団 共同代表 海渡雄一
秘密保護法対策弁護団 共同代表 海渡雄一・中谷雄二・南 典男
社会文化法律センター 共同代表理事 宮里邦雄
自由法曹団 団長 吉田健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野 格
日本国際法律家協会 会長 大熊政一
日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
日本民主法律家協会 理事長 新倉 修
三宅 弘 弁護士(元総務省行政機関等個人情報保護法制研究会委員)
平岡秀夫 弁護士(元法務大臣・元内閣官房国家戦略室室長)
右崎正博 獨協大学名誉教授
晴山一穂 専修大学名誉教授
意見の趣旨
- 情報システムの共通仕様化が図られる中で、データ主体(=本人)の同意を要せず、省庁間の情報共有を容易化する法の仕組みを撤回すること。
- 整備法において、マイナンバー法を改正し、従業員の転職時等に使用者間での特定個人情報の提供を認める制度は、本人の同意を要件としても認められないこと。
- 整備法において、マイナンバー法を改正し、医師、看護師、税理士など32の国家資格者についてマイナンバーの登録を義務付ける制度は、認められないこと。
- 特定商取引法の訪問販売等の取引類型(通信販売を除く)全部と特定商品預託法の預託等取引契約について、オンライン契約と対面契約とを区別することなく、契約書面や概要書面の交付義務に関して、「消費者が承諾した場合」を要件として電子化を認めることは、認められないこと。
- 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案において、標準化の名のもとに、地方自治体において積み重ねられてきた個人情報保護の仕組みを無効化する法制度は、撤回すること。
- デジタル庁の創設と同時に、個人のプライバシーを保護するための基本的な制度として以下の仕組みが含まれた制度の整備が同時に行われる必要があること。
- (1) 公権力が、自ら又は民間企業を利用して、あらゆる人々のインターネット上のデータを網羅的に収集・検索する情報監視を禁止する法制度。
- (2) 監視カメラ映像やGPS位置情報などを取得し、それを捜査等に利用するに際して、これを適正化するための新たな法規制。
- (3) 通信傍受の適正な実施についての独立した第三者機関による監督制度。
- 個人情報保護委員会の組織を拡大・強化し、その独立性を高めることによって、その監督権限を強め、体制を強化することが必要不可欠であること。
- 特定秘密の指定と情報機関の諸活動について、特別の監視機関が必要であること。
意見の理由
内容- 第1 はじめに
- 第2 デジタル監視法案の概要
- 第3 法案の問題点と法案に欠けている制度
- 1 プライバシー保護・個人情報保護の重要性
- 2 「データ共同利用権」は個人情報提供に関する同意原則を否定するものである
- 3 マイナンバー法を改正し、従業員の転職時等に使用者間で特定個人情報の提供を認める制度は、本人の同意を要件としても認められない
- 4 国家資格のマイナンバー登録義務付け
- 5 特定商取引法等の改正にも問題
- 6 警察による共有情報へのアクセスをフリーパスとしない制度的保障が必要であること
- 7 地方自治体による分権的個人情報保護システムが無に帰す可能性がある
- 8 日本に欠けているプライバシー保護のための監督制度
- 9 個人情報保護委員会による監督権限を強めることが必要である
- 10 特定秘密の指定と情報機関の活動に対する特別の監視機関が必要である
- 11 実効性ある監視システムの創設のために
第1 はじめに
政府は、流通するデータの多様化・大容量化が進展し、データの活用が不可欠であることなどを理由として、デジタル改革関連6法案を2月9日閣議決定し、国会に提出した。6法案及びその他のデジタル化関連法案の内容について、①個人のプライバシー・個人情報保護が十分に図られているか、②監視社会化によって、市民の表現の自由が抑圧される恐れがないか、という観点から意見を述べることとする。
政府からは、デジタル化によって「便利になる」との宣伝文句が流布されて、デジタル化関連法案が売り込まれようとしている。しかし、騙されてはいけない。 まさに、この法案は、ひとにぎりの便利さと引き換えに市民のプライバシーを政府に売り渡そうとするものである。まさに、「デジタル監視法」と言ってよい内容である。本意見書では、一連のデジタル化関連法案を、以下、「デジタル監視法案」と呼称することとする。
第2 デジタル監視法案の概要
- 第1に、「デジタル社会形成基本法案」を制定し、IT基本法は廃止する。この基本法案は、「デジタル社会の形成による我が国経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現等」を目的とするもので、デジタル社会の形成に関し、基本理念及び施策の策定に係る基本方針、国、地方公共団体及び事業者の責務、デジタル庁の設置並びに重点計画の策定について規定し、デジタル社会の形成の基本的砕組みを明らかにしている。
- 第2に、「デジタル庁設置法案」では、強力な総合調整機能(勧告権等)を有する組織としてデジタル庁を設置し、基本方針策定などの企画立案、国等の情報システムの統括・監理、重要なシステムは自ら整備するとしている。また、国の情報システム、地方共通のデジタル基盤、マイナンバー、データ利活用等の業務を強力に推進するため、内閣直属の組織とし、その長は内閣総理大臣とする。デジタル大臣のほか、特別職のデジタル監等を置くとされている。そして、デジタル庁がデジタル行政の司令塔として、これまでの行政の縦割りを打破し、行政サービスを抜本的に向上するとしている。
- 第3に、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」(以下「整備法案」という。)では、関連する数多くの法律を改正し、整備を一括して行う仕組みとなっている。
とりわけ、次の内容の関係法律の整備案が注目される。 - ① 個人情報関係3法を1本の法律に統合する整備案では、地方公共団体の制度についても全国的な共通ルールを設定し、所管が分かれていたものを個人情報保護委員会に一元化し、さらに医療・学術分野における現行法制の不均衡を是正することとしている。
- ② 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(いわゆるマイナンバー法)等を改正する整備案では、マイナンバーカードの発行・運営体制を抜本的に強化するとしている。
- ③「電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律」の整備案では、電子証明書のスマートフォンへの搭載、本人同意に基づくJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)による署名検証者への基本4情報(氏名、生年月日、性別及び住所)等の提供ができるようにするとされるが、「地方公共団体情報システム機構法」を改正しJ-LISに対する国のガバナンスを強化するとしている。
- ④ 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」の整備案では、転職時等の使用者間での特定個人情報の提供、国家資格に関する事務等における個人番号の利用及び情報連携の実施、J=LISの個人番号カードの発行・運営体制の抜本的強化を図るとしている。
- ⑤ この他、民法、戸籍法、宅地建物取引業法、建築士法、社会保険労務士法等を改正し、国民の負担の軽減及び利便性の向上に資する押印及び書面の交付等を求める手続の見直しが提案されている。
第4に、上記三法以外に 今回の6法案の中には、「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案」、「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案」及び「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案」の3つの新法の提案が含まれている。
第3 法案の問題点と法案に欠けている制度
1 プライバシー保護・個人情報保護の重要性
大量の情報が集積される超監視社会とも呼ぶべき現代にあって、個人が尊重されるためには、公権力により監視対象とされる個人の私的情報は必要最小限度とし、公権力が私的情報を収集、検索、分析、利用するための法的権限と行使方法等を厳格に定めた法制度を構築すべきである。
しかし、デジタル監視法案においては、菅首相の説くように「省庁間の壁を壊」し、個人情報保護のために設けられてきた国と自治体間の壁をも解体しようとしている。EU一般データ保護規則(GDPR)では、データ主体である個人の権利を基本的な権利として位置づけ、個人データ保護の権利尊重を宣言した上で、アクセス権、訂正の権利、消去の権利等、データ主体の権利を定めている。高度な情報社会に至った現代社会において、情報の流通は不可欠のものとなり、情報自体が高い価値を有することになっている以上、その利活用の前提として、個人情報はデータ主体のものであることの再確認が必要である。しかし、本法案においては、これらデータ主体の権利を明確に謳うものはなく、行政の効率化、データ利活用を重視したものであり、データ主体の権利保護に欠けるものと言える。このことは、デジタル社会形成基本法案第1条の目的に「我が国の国際競争力の強化及び国民の利便性の向上」とあるように、第一義的な目的として、国民の生活よりも、国としての国際競争力の向上を掲げていることからも読み取れる。
国際社会においては、上記GDPRに代表されるように、データ主体の権利保護を大前提とし、データ主体の同意を原則として、その権利を侵害することのないよう適切な規制を施した上で、データ利活用を認めるものとすることが趨勢である。本法案は、このような世界の趨勢に逆行するものと評価せざるを得ない。
2 「データ共同利用権」は個人情報提供に関する同意原則を否定するものである
整備法案では、個人情報保護法の69条として、既存の行政機関個人情報保護法8条と同様に、次の規定を置くこととしている。しかし、この規定において例外を認めるケースが厳格に制限されるかどうかの保証はない。「所掌事務の遂行に必要」(69条2項2号)、「業務の遂行に必要」(同項3号)が、今後拡大解釈されることにより、個人の同意が必要との原則が骨抜きにされる恐れは否定できない。
- 一 本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき。
- 二 行政機関が法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
- 三 他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
- 三 他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
- 四 前三号に掲げる場合のほか、専ら統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を提供するとき、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき。
このことは、監視社会化のリスクを生み、政府の監視対象者とされる人物のセンシティブ情報を含むあらゆる情報を一望監視できるようになることを意味する。法律で、利用範囲の大幅な限定、同意原則の遵守、民間利用の禁止等の対応を徹底しなければ、この監視社会化のリスクは回避できない。しかし、今回の法案は、これと正反対の方向に踏み出そうとしている。
そもそも2003年の行政機関個人情報保護法制定時には、法制定を提言した総務大臣政務官主宰「行政機関等個人情報保護法制研究会」(座長:茂串俊元内閣法制局長官。以下本項にて「研究会」という。)は、2001年10月19日「行政機関等の保有する個人情報の保護に関する法制の充実強化について―電子政府の個人情報保護」と題する報告書」(以下本項において「報告書」という。)をとりまとめ、センシティブ情報については、「引き続き、国民等の意見及び要望を踏まえつつ、個別分野ごとの専門的な検討を行うことを期待する」、「行政機関法制においても、個人情報の性質及び、利用方法に応じた適切な保護が図られるよう、個人情報の取扱いについて厳格な運用がなされる必要がある」とされていた(報告書9頁)。加えて、この行政機関個人情報保護法の制定にあたり衆議院個人情報の保護に関する委員会は、「思想、信条、宗教、病気及び健康状態、犯罪の容疑、判決及び刑の執行並びに社会的差別の原因となる社会的身分に関する個人情報の取得又は保有に当たっては、利用目的を厳格に特定するとともに、可能な限り法律その他の法令等によって取得根拠を明確にし、その利用、提供及び安全確保に特段の配慮を加えること」を附帯決議とし、参議院個人情報の保護に関する委員会も同じ付帯決議をしていたのである。
ところが、このデジタル監視法案は、政府の府省庁を横断し地方自治体からも吸い上げてセンシティブ情報を含む個人情報をデジタル庁が一元管理し、マイナンバーと紐づけることで、もっぱら政府における利便性を高めるものである。その改正の方向は、上記研究会報告書及び衆参両議院の両委員会における附帯決議とは正反対の方向で、もっぱら政府及び民間部門における個人情報収集に当たっての行政効率を高めるものであるにとどまり、個別分野ごとの個人情報保護の専門的な検討などされたものとはいえず、個人情報保護については不十分であり、広く国民が保有するデジタル情報を政府が一元管理することによる監視社会化のリスクを回避することのできないものである。
3 マイナンバー法を改正し、従業員の転職時等に使用者間で特定個人情報の提供を認める制度は、本人の同意を要件としても認められない
特定個人情報とは、「個人番号を内容に含む個人情報」のことである。この使用者というのは民間事業者である。民間事業者が保有している特定個人情報は、従業員等の個人番号を含む給与情報等を指す。マイナンバー法では、すでに、特定個人情報の取扱いの全部若しくは一部の委託又は合併その他の事由による事業の承継が行われたときは、特定個人情報を提供することが認められている。たとえば、事業者が、源泉徴収票作成事務を含む給与事務を子会社に委託する場合などである。これを、整備法案は、従業員の転職等の場合にも拡大しようとしている。
このような改正は、2020年3月17日付の日本経済団体連合会の「Society5.0の実現に向けた規制・制度改革に関する提言-2019年度経団連規制改革要望-」を踏まえたものと考えられる。そこでは、「再度マイナンバーの提供を受けなければならず、国民・事業者の負担は極めて大きい」「過度に厳格な取り扱いを規定する特定個人情報の存在は、国民・事業者の間でマイナンバーの取り扱いに関する不安や誤解を招いており、デジタル社会の基盤である番号制度の潜在能力の発揮を阻害している」などと、このような制度の必要性を訴えている。
しかし、給与情報というのは重要な情報であり、例えば、欠勤、懲戒による減給、解雇なども、給与情報から推知できる。それが、やむを得ない欠勤であったとか、不当な懲戒や解雇であった、ということは分からない。個人情報保護法23条で、個人情報は本人の同意なくして開示してはならないとされていたため、これまで、個人情報をデータベースで管理する個人情報取扱事業者は、前職調査には原則として応じていなかった。法案は本人の同意を要件としているが、新たな就職先に就職が決まった、あるいは決まりそうな労働者が、個人情報の提供についての同意を求められて、自由に拒否できるはずがない。この制度は、たとえ本人の同意を要件とするとしても、個人情報保護法の潜脱、従業員のプライバシーの侵害になるものであり、認めることができない。
4 国家資格のマイナンバー登録義務付け
整備法案要綱の第58項に次の法改正が提案されている。「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部改正(整備法案第五十六条関係)医師、看護師等の免許に関する事務、保育士等の登録に関する事務等において、個人番号を利用できるようにするとともに、情報提供ネットワークシステムを利用した情報連携を可能とするものとすること。その他所要の改正を行うものとすること。」
この国家資格には、税理士なども含まれ、全部で32の資格が、マイナンバーと紐づけられることになる。なぜこの32の国家資格が対象になっているのか、国会議員が内閣府の担当者に尋ねたところ、「税・社会保障・災害等に係る」職業だという説明だったということであるが、資格数が将来拡大していく可能性は政府も否定していない。有資格者がどの自治体に何人いるかを把握するということが目的とされていると説明されているが、額面通りには受け止められない。どんな時にマイナンバーを使うのか、税や社会保障、災害というけれど、そこに見え隠れするのは、有事すなわち戦争の時にマイナンバーが活用され、これらの職業の人々を動員しようとする国の意図である。
5 特定商取引法等の改正にも問題
消費者庁は、特定商取引法の訪問販売等の取引類型(通信販売を除く)全部と特定商品預託法の預託等取引契約について、オンライン契約と対面契約とを区別することなく、契約書面や概要書面の交付義務に関して、「消費者が承諾した場合」を要件として電子化を認める法案を準備している。この方針は、デジタル社会の推進の名の下に、特定商取引法等の書面交付義務の消費者保護機能を低下させることとなる書面の電子化を、十分な補完措置の検討もないまま、しかもオンライン取引とは関係がない対面型の取引類型にまで広げようとするものである。契約のスピードを抑制し、慎重な判断を促すことこそが特定商取引法の消費者保護の趣旨であった。セールストークを信じている消費者が、パソコンなどで不利な項目を探し出せるか疑問である。デジタル書面を認めるにしても、オンライン完結型の取引に絞ったうえで、画面上の表示方法など具体的な消費者保護策を講じてからにすべきである。
準備されている法案では、訪問販売等の不意打ち勧誘や連鎖販売取引等の利益収受型勧誘の取引類型全体に書面の電子化を認めようとするものであり、到底容認できないものである。
6 警察による共有情報へのアクセスをフリーパスとしない制度的保障が必要であること
警察は、運転免許システムという最大の個人情報システムを管理運用してきたが、厚労省が所管していた保険証システムとともに、マイナンバーシステムの下に統合化されようとしている。デジタル庁は、「首相直轄の組織」として内閣府に置かれるが、内閣官房に置かれた内閣情報調査室という情報機関と緊密な関係を持つことが予想される。
内閣情報官を長く務め、現在国家安全保障局長の任にある北村滋氏は、「内閣総理大臣と警察組織一警察制度改革の諸相」(安藤忠夫、國松孝次、佐藤英彦編 『警察の進路~21世紀の警察を考える~』 所収 平成20年 東京法令出版)と題した長大な論文において、戦後の警察制度改革の歴史的な経過を跡付けたうえで、次のように述べている。
「以上述べてきたとおり、内閣総理大臣の国の警察行政機関に対する関与の在り方は、両者の関係を規律する法律により区区であり、特に、緊急事態における警察行政機関に対する内閣総理大臣の直接的な統制等の有り様を見るとき、従前の通説のように、両者の関係を表す「所轄」を「指揮命令権のない監督というべく、指揮監督よりは更に弱いつながりを示すものである。」と一概に断じ得るかについては、一考を要するのではないか。」
これは、内閣総理大臣を介して政府と警察組織の直接の指揮命令関係がありうるものと論じようとしているようにみえる。
さらに、同論文は次のようにまとめられている。
「戦後の新たな警察制度構築に向けた総司令部と内務省当局との聞の交渉は、戦前・戦中と統治機構に君臨した内務省自体の解体と大日本帝国憲法下における国体護持の支柱と考えられた国家警察の徹底した分権化を目指す総司令部、そして、この内務省自体を換骨奪胎し、現行憲法に適合する形で存続させ、さらに、警察機構についても引き続きその影響下に置こうとする内務省当局との蟻烈な折衝の過程ということができる。(中略)マッカーサー書簡により裁定され、また、旧警察法により具現化された新たな警察の有り様は、当時の内務省警保局の予想をはるかに上回る徹底した分権化、民主化を図るものであった。しかしながら、現実を無視した理念先行の改革は、結局、我が国の風土、そして、治安の現場に根づくことはなかった。(中略)現行警察法下における警察の中央機構に対する改革提言は、第一次臨調を最後として、地方行政をいわば切り口とし、内務省類似の組織として、国の警察組織と地方行政の管理部門とを統合するという考えはむしろ少数となり、その意味で、「内務省の復活」は、過去のものとなりつつあると言えるのではないか。
むしろ、近年においては、内閣の危機管理機能を強化するという観点から、警察、海上保安、麻薬取締り、そして入国管理といった治安保安機構を統合するという考え方が大きな趨勢であり、こうした傾向は、行政改革会議における議論においても明らかになっている。また、中央省庁等改革において、国家公安委員会が内閣府の外局として位置付けられることとなった経緯においても、その論拠として緊急事態における内閣総理大臣と国の警察組織との関係が挙げられたことにも注目すべきであろう。
一方、内閣の危機管理機能が強調されればされる程、また、行政改革会議の中間報告のように、仮に国家公安委員会の下に治安保安機構が統合されるような方向となれば、合議制である行政委員会一般に内在する問題としての国家公安委員会の意思決定における迅速性の限界や国家公安委員会と内閣の首長たる内閣総理大臣との意思疎通の在り方等が問題とされる局面も生じてこよう。」
2019年7月15日、札幌で参院選の演説をしていた安倍首相にヤジを飛ばした市民が強制排除されるという事件が発生した。総理に不快な思いをさせないために、総理の演説に対するヤジは取り締まるように、全国の警察組織に対する指令が出ていたとすれば、このような警察権の行使は警察組織の政治的中立性を定めた警察法2条に明らかに違反する。
総理の目となり、耳となって官邸を支える内閣情報調査室は、実質的には警察機構のトップに君臨しながら、警察組織ではないという理由で、警察法の軛を免れ、官邸の私兵(官邸ポリス)化してきた。そして、安倍政権で長く内閣情報官を務めてきた北村滋氏が、国家安全保障局の局長に就任した。初代の内閣情報官を務めた杉田和博氏が官房副長官として内政を、国家安全保障局長の北村氏が外政を担当することで、菅政権の下で両名とも留任している。内閣の危機管理機能強化を唱え、官邸・内調と並んで内閣総理大臣を長とし、デジタル情報を集約するデジタル庁が内閣府を構成する官庁としてすべての省庁に君臨するような形になれば、「内務省」をもしのぐ怪物的な機関が誕生してしまう恐れがある。
今回の法案においては、デジタル庁が集約した情報は、 官邸・内閣情報調査室を介して警察庁・各都道府県警察と共有される可能性が否定できない。すくなくとも、このことを確実に抑止するシステムとなっていることが確認できることが必要である。個人情報保護委員会が、このような危惧に対してどのような権限を持ち、歯止めとして機能することができるのかも十分説明されていない。
7 地方自治体による分権的個人情報保護システムが無に帰す可能性がある
これまでも、複数の公共団体にまたがって転院した場合の医療記録の共有が困難である等、分権的な個人情報保護システムの問題は指摘されているところではあるが、そのような問題点は個別法の制定によって解消してきた。しかし、法案は、このような個別的対処ではなく、行政が有する個人情報すべてについて、我が国の分権的な個人情報保護システムの在り方を根本から転換し、国による統一的な規制を行うこととした。このような制度は、各公共団体において、住民との合意のもとで構築してきた独自の個人情報保護の在り方を破壊し、公共団体による先進的な個人情報保護制度の構築を後退させるものになりかねない。自治体において収集した個人情報をどのように管理するかは、自治事務の一環であり、国がこれを一方的に支配・統合することは、地方自治の本旨に反する可能性がある。特に、近時においては行政事務の外部委託が急激に進められており、行政が取り扱う個人情報の管理を民間企業が担う場面が今後さらに増えていくと考えられる。そうすれば、当然、統合・集約された個人情報に民間企業がアクセスしたり、意図しない流出が生じたりする危険性が高まる。また、自治体の情報管理システムの統一化・平準化を行い、現在は国からは独立して運営されている地方公共団体情報システム機構(J-LIS)及び情報処理推進機構(IPA)も国が管理することとされている。かかる統一管理は、分散型管理よりもサイバー攻撃に対して脆弱であり、情報漏洩が起きた際の被害も甚大なものとなる恐れがある。
情報科学技術の発達により、行政のデジタル化自体は進められるものとしても、これによって市民の個人情報保護がおざなりとなることはあってはならず、上記のような我が国の個人情報保護制度の構築経過からすれば、公共団体による独自の個人情報保護制度をないがしろにすることは許されない。法案は、行政の効率化を名目に、国による統一管理を推し進めるものであり、人員体制の充実など、本来是正が求められる課題から目を背けるものと言わざるを得ない。
8 日本に欠けているプライバシー保護のための監督制度
社会のデジタル化は趨勢であるとしても、日本の法制度には、デジタル化に対応して、個人のプライバシーを保護するための基本的な制度が欠けている。デジタル庁を創設し、これほど大規模な法改正を行うのであれば、次のような問題を解決することを含め、個人のプライバシーを保護するための基本的な制度の整備が同時に行われる必要がある。- (1) 公権力が、自ら又は民間企業を利用して、あらゆる人々のインターネット上のデータを網羅的に収集・検索する情報監視を禁止する法制度がないこと。
- (2) 監視カメラ映像やGPS位置情報などを取得し、それを捜査等に利用するに際して、これを適正化するための法規制がないこと。
- (3) 捜査機関による通信傍受の対象犯罪が著しく拡大し、また会話傍受を可能とする立法も準備されている。にもかかわらず、通信傍受の適正な実施について、独立した第三者機関による監督が制度化されていないこと。
9 個人情報保護委員会による監督権限を強めることが必要である
この法案では、個人情報の保護については、統合された個人情報保護委員会に民間企業、公的機関、行政機関の全体の監督を委ねている。まず、この個人情報保護委員会に、十分な政府からの独立性、権限、専門のスタッフ、財源を保障し、その機能を強化することが必要不可欠である。すくなくとも、個人情報の不適切な収集と共有を未然に防止するとともに、情報が適切に利用されていることを監視することができるためのシステムが必要である。
そして、公表されている資料だけでは、個人情報保護委員会は、公的機関に対しては、不服申し立てに対応し、不適切な個人情報の扱いについて「勧告」できるとされているのみで、民間企業に対しては認められている「命令」を発することはできないようである。
10 特定秘密の指定と情報機関の活動に対する特別の監視機関が必要である
- (1) 情報機関に対する監視システムが必要
- アメリカには、特定秘密の指定を是正する複数のシステムが機能しており、いったん特定秘密に指定された情報の多くが、一般に公開されている。
また、ドイツやオランダには、情報機関の集めた情報を見て、不適切な情報が秘密指定されていればこれを公開させ、あるいは、誤った個人情報が収集されていればこれを訂正させる権限を持ったさまざまな国家機関が活動している。 - (2) 特定秘密の指定に対する監督は不十分
- 特定秘密保護法に関連して設立された政府・国会の機関は十分機能しているとはいえない。独立公文書監理監は、秘密を指定する機関からの出向者の集まりで、この機関の活動によって政府の不適切な秘密指定が改善された例はほとんど見られない。全く独立性が欠けているのである。
これに対して、衆院・参院に設けられた情報監視審査会は一定の独立性があるし、委員は熱心に活動していると評価することができる。しかし、この審査会で多数を占める与党委員が反対すれば、秘密の提示を求めることもできない仕組みとなっており、限界がある。
国の国家秘密に関する活動を適切に監視し、市民に対する違法なプライバシー侵害を未然に防ぐためには、政府から独立し、情報公開と個人情報保護のための強い熱意と専門性を備えた委員から構成される独立監視機関が必要である。 - (3) 情報機関の活動に対する監視監督は全く行われていない
- 国家公安委員会と地方公安委員会の監督は、公安警察活動に対しては機能していない。内閣情報調査室、公 安調査庁や自衛隊情報保全隊の活動についての監視システムは存在しない。
日弁連などは、これまでも、情報機関(日本には CIA のような中央情報機関はまだないが、公安警察、自衛隊の情報保全隊、法務省の公安調査庁、内閣情報調査室などの情報機関がある。)の活動、特定秘密指定などについて、政府から独立した監視機関を設立する必要があることを提唱してきた。公安警察や自衛隊情報保全隊などの情報機関の活動については、法律により厳格な制限を定め、また個人情報保護委員会とは別個に、独立した第三者機関による監督が必要である。そして、この機関が、職権で、特定秘密や情報機関の集めた情報、デジタル庁に集約された情報等の中身まで見て、是正の勧告や命令までできる機関であることが必要である。
11 実効性ある監視システムの創設のために
これらの機関の核をなす、個人情報保護委員会については、権限や組織の充実だけでなく、政府からの独立性の確保のための思い切った政策判断が必要である。
また、これらのシステムを構成する委員には、人権NGOのメンバー、弁護士、秘密と情報に関する研究者など、政府からは独立した人材が任命されることが必要である。
日弁連は、2017年10月6日 に「個人が尊重される民主主義社会の実現のため、 プライバシー権及び知る権利の保障の充実と情報公開の促進を求める決議」を採択している。日弁連のこの決議には、デジタル庁の創設にあたって、日本の法制度の中で足りない法制度が、手際よくまとめられている。野党は、日弁連の提案や本意見書をもとに、法案に対する抜本的な修正案を準備し、政府・与党が、このような法案の修正に応じない限り原案には反対するべきである。