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2021/06/05
「ゆがめられた行政」責任は誰に
総務省への接待問題の調査結果を報じる各紙
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 東北新社やNTTによる総務省への接待問題で、情報通信担当部局の職員32人が、2015年~20年11月の間、延べ78件の国家公務員倫理規程に違反する接待を受けていたことが6月4日、同省の調査結果で分かった。新型コロナウイルス禍の下、菅内閣の信用失墜を加速させる出来事がまた一つ、増えた。
 総務省の調査は、情報通信担当部局の職員約170人を対象に実施された。約1500件の会食の申告があり、このうち企業側が全額負担するなどの倫理規程違反は78件に上った。接待側は、NTTグループ5社、「匿名」で発表した事業会社6社、東北新社の計12社。件数は、NTTドコモが最多の39件で、東北新社は19件。接待の1件あたりの最高額は井幡晃三・放送政策課長が受けた、飲食代と野球観戦チケット代を含めた約6万円だった。
 事の起こりは、放送事業者である東北新社が16年10月、BS4K放送の認定を総務省に申請。「外資規制違反はない」との報告を受けて同省が17年1月に認定したが、同社のその後の社内調査で違反が判明(同8月)した。同社の役員らと面会した井幡氏(当時は衛星・地域放送課長)は、認定を取り消せば4K推進に影響を及ぼしかねないことから、「子会社への事業継承を」との考えを示したといわれている。
 東北新社が総務省への接待を重ね、その中に、同社勤務の菅首相の長男が加わっていたことを週刊文春が2月に報道。翌3月にはNTT幹部による同省への接待問題を報じた。
 この問題では、第三者による検証委員会の報告書の内容も発表された。東北新社の外資規制違反について「総務省は認識した可能性が高いにもかかわらず、対応を行わなかった点で行政をゆがめたとの指摘は免れない」との見解をまとめた。けれども「行政をゆがめた」ことと、菅首相の長男の接待参加による「特別扱い」の可能性には一切、触れていない。首相への「忖度(そんたく)」なのか。肝心なことをあいまいにしたまま、事態を収めようとする意図が透けて見える。
 総務省の「ナンバー2」だった谷脇康彦・元総務審議官はすでに3月に辞職。谷脇氏は、菅首相が看板政策に掲げた携帯電話料金の引き下げを主導していた人物だ。
 小手先の人気取りのようなことをしている間に、ウイルス対策はもとより、生活危機に直面する市民の支援、保護は遅れに遅れた。東京五輪、パラリンピックについても同様。「命」を優先した判断をすべきだ。
2021/05/28
ごめんなさい、ずっと 嘘をついてきました。
 日本テレビ『NNNドキュメント』のディレクター・加藤就一が表題の本を出した。人気番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』の総合演出で知られていたが、その後ドキュメント番組に移り、福島第一原発事故報道でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)などを受賞して別の顔を見せることになる。この本は「福島第一原発 ほか原発一同」が告発するという手法をとっている。
 帯の推薦コメントがいい。原発問題を話し始めると止まらなくなる漫才師のおしどりマコちゃんは 「壮大なコント? いえ現実の悲劇。とざい、とーざい!ここにおわすは原発の、嘘かマコトかこの懺悔!? 事実は小説より悲劇、知らずに生きるのは災難」と。
 アメリカ横断ウルトラクイズ13代クイズ王の長戸勇人さんは「知らなかったよー。ウルトラクイズ優勝の僕の肩書はいったい何だったんだろう。本当に世界は知らないコトにあふれてる!」と。

 5月28日付・日刊ゲンダイが「注目の人 直撃インタビュー」(聞き手=生田修平記者)で大きくとりあげています。中身の一部を(ちょっと手抜きですが)紹介しましょう。
―― 著書を読むと、政府があの手この手で原発関連の情報を長年コントロ―ルしてきているのがよくわかります。
 僕は鉄腕アトム世代です。超小型原子炉で100万馬力、などと原子力は素晴らしいと刷り込まれた国民でした。福島原発事故が発生し、調べ始めたら、今まで信じていたことが全部嘘だということが分かった。この嘘っぱちをきちんと伝えないといけないと思いました。
―― 安倍首相(当時)は東京五輪を招致した2013年のIOC(国際オリンピック委員会)総会の演説で、福島第1原発について、日本語では「港湾内の0.3平方キロの範囲内で完全にブロック」と表現する一方、英語では「アンダーコントロール」と使い分けました。
 『お笑い芸人VS原発事故』という番組を制作している時、演説の英語版を使おうとしたら、英語版はオンエアできないようになっていた。見比べてみたら、驚くことに肝心な部分がごっそり変えられていた。英語版では安倍首相は「私は完全に保証します。状況はアンダーコントロールです。これまでも、これからも(放射能は)どんなダメージも東京に与えません」とスピーチしているのです。
―― 菅首相は今年4月、「もうこれ以上は避けて通れない」として、放射性トリチウムを含んだ「汚染水」の海洋放出を決定。2023年にも開始されるとみられています。
 安易な決定です。トリチウムを取り除く技術があるのかないのかが吟味されていない。例えば、近畿大学で低コストで除去する技術を開発しています。また、120年経つと、トリチウムの濃度は1000分の1になるのですが、石油の備蓄タンクが12個あれば保管できる量です。原発施設の外側の地下にダムを造って、地下水を出さない方式もある。コストはそれほどかからない。海洋放出を回避する方法はいくらでもあるのです。
―― メディアが電力会社を批判できないから、原発政策が推し進められるのですね。
 政権とメディアの関係も同じ構図です。総務省が東北新社に勤める菅首相の長男と会食を繰り返していた問題がありました。あってはならない接待ですが、安倍政権時代にすごくはやったのが、テレビ各局の社長や報道局長と首相との会食です。総務省の接待問題と何ら構図は変わりない。メディアは本来、権力を監視しなければならない立場なのに、社長と報道局長が首相とニコニコ食事をして仲良くなる。ひと昔前だったら、首相から誘いを受けても、「お気持ちだけいただきます」と丁重に断るのが報道機関だった。それがなんとなくグジュグジュになってしまった。それではメディアは噛みつけませんよね。隠ぺい、改ざん、言い換え、ごまかしなど、情報を都合よくコントロールする政権が続き、政府にも電力会社にも切り込めないメディアという環境ですから、国民はなにも知らされないまま、原発推進が再び加速していくのです。根はとても深い。

 「ごめんなさい」は14個つづきます。
出版社:書肆侃侃房
定価:本体1600円+税
出版元「書肆侃侃房」の紹介ページ
一度お読みになることをお薦めします。

2021/05/24
問われる「首相の決断」
  
 緊急事態宣言を解除できるかどうか、一方で新しい変異株の感染が広がる新型コロナの状況を背景に、東京オリンピック・パラリンピック実施か中止かの決定を決めなければならない期限が迫っている。

 21日開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の調整委員会後の記者会見で、J・コーツ副会長は「感染対策を講じることで、緊急事態宣言下であってもなくても、安心安全な大会が実施できる」と表明した。一方、政府の基本的対処方針分科会の舘田一博東邦大教授は「東京に緊急事態宣言が出されている状況で五輪ができるとは思わないし、やってはいけないというのがみんなのコンセンサス」と述べた。(毎日22日)。

 菅義偉首相は10日の衆院予算委では何を聞かれても、「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、安心のうえ参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく」と繰り返した。朝日新聞によると、同じ答弁は17回。ちょっと度が過ぎている。
バッハ会長に「日本人のユニークな粘り強さという精神。逆境に耐え抜く能力をもっている」(1月27日)などとおだてられて、いい気になっている場合ではない。

 世論調査では各社とも「中止」論がトップで、読売(調査7-9日)では、「中止」59%に、「観客を制限して開催」16%、「無観客で開催」23%。朝日(同15-16日)は「中止」43%、「再延期」40%、「実施」論は14%、共同(同)でも59.7%が「中止」、「無観客」25.2%、「観客を制限して開催」は12.6%、毎日(22日調査)は「中止」40%、「再延期」23%、「無観客で開催」は13%だった。

 こうした状況の中、菅内閣の支持率は急落。不支持率は、朝日47%(支持33%)、共同47・3%(同41・1%)、ANN45・9%(同35・6%)、フジ産経52・8%(同43%)、読売46%(同43%)、毎日も59%(同31%)。軒並み不支持が支持を上回った。理由はいろいろあるが、コロナ対策で毎日調査が「評価する」13%、「評価しない」69%だったこともあり、軒並み「不支持」が「支持」を上回った。

 支持、不支持以前に、菅内閣が抱える問題には、「1億5000万円の出所」や「ウィッシュウマ・サンダマリさんの死の真相」「赤木手記」、「学術会議問題の記録」と公開を求められた課題が山積している。ひとつひとつ解きほぐして行かなければ、信頼は回復できそうにない。すべて「首相の決断」にかかっている。
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