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2021/05/28
ごめんなさい、ずっと 嘘をついてきました。
 日本テレビ『NNNドキュメント』のディレクター・加藤就一が表題の本を出した。人気番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』の総合演出で知られていたが、その後ドキュメント番組に移り、福島第一原発事故報道でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)などを受賞して別の顔を見せることになる。この本は「福島第一原発 ほか原発一同」が告発するという手法をとっている。
 帯の推薦コメントがいい。原発問題を話し始めると止まらなくなる漫才師のおしどりマコちゃんは 「壮大なコント? いえ現実の悲劇。とざい、とーざい!ここにおわすは原発の、嘘かマコトかこの懺悔!? 事実は小説より悲劇、知らずに生きるのは災難」と。
 アメリカ横断ウルトラクイズ13代クイズ王の長戸勇人さんは「知らなかったよー。ウルトラクイズ優勝の僕の肩書はいったい何だったんだろう。本当に世界は知らないコトにあふれてる!」と。

 5月28日付・日刊ゲンダイが「注目の人 直撃インタビュー」(聞き手=生田修平記者)で大きくとりあげています。中身の一部を(ちょっと手抜きですが)紹介しましょう。
―― 著書を読むと、政府があの手この手で原発関連の情報を長年コントロ―ルしてきているのがよくわかります。
 僕は鉄腕アトム世代です。超小型原子炉で100万馬力、などと原子力は素晴らしいと刷り込まれた国民でした。福島原発事故が発生し、調べ始めたら、今まで信じていたことが全部嘘だということが分かった。この嘘っぱちをきちんと伝えないといけないと思いました。
―― 安倍首相(当時)は東京五輪を招致した2013年のIOC(国際オリンピック委員会)総会の演説で、福島第1原発について、日本語では「港湾内の0.3平方キロの範囲内で完全にブロック」と表現する一方、英語では「アンダーコントロール」と使い分けました。
 『お笑い芸人VS原発事故』という番組を制作している時、演説の英語版を使おうとしたら、英語版はオンエアできないようになっていた。見比べてみたら、驚くことに肝心な部分がごっそり変えられていた。英語版では安倍首相は「私は完全に保証します。状況はアンダーコントロールです。これまでも、これからも(放射能は)どんなダメージも東京に与えません」とスピーチしているのです。
―― 菅首相は今年4月、「もうこれ以上は避けて通れない」として、放射性トリチウムを含んだ「汚染水」の海洋放出を決定。2023年にも開始されるとみられています。
 安易な決定です。トリチウムを取り除く技術があるのかないのかが吟味されていない。例えば、近畿大学で低コストで除去する技術を開発しています。また、120年経つと、トリチウムの濃度は1000分の1になるのですが、石油の備蓄タンクが12個あれば保管できる量です。原発施設の外側の地下にダムを造って、地下水を出さない方式もある。コストはそれほどかからない。海洋放出を回避する方法はいくらでもあるのです。
―― メディアが電力会社を批判できないから、原発政策が推し進められるのですね。
 政権とメディアの関係も同じ構図です。総務省が東北新社に勤める菅首相の長男と会食を繰り返していた問題がありました。あってはならない接待ですが、安倍政権時代にすごくはやったのが、テレビ各局の社長や報道局長と首相との会食です。総務省の接待問題と何ら構図は変わりない。メディアは本来、権力を監視しなければならない立場なのに、社長と報道局長が首相とニコニコ食事をして仲良くなる。ひと昔前だったら、首相から誘いを受けても、「お気持ちだけいただきます」と丁重に断るのが報道機関だった。それがなんとなくグジュグジュになってしまった。それではメディアは噛みつけませんよね。隠ぺい、改ざん、言い換え、ごまかしなど、情報を都合よくコントロールする政権が続き、政府にも電力会社にも切り込めないメディアという環境ですから、国民はなにも知らされないまま、原発推進が再び加速していくのです。根はとても深い。

 「ごめんなさい」は14個つづきます。
出版社:書肆侃侃房
定価:本体1600円+税
出版元「書肆侃侃房」の紹介ページ
一度お読みになることをお薦めします。

2021/05/24
問われる「首相の決断」
  
 緊急事態宣言を解除できるかどうか、一方で新しい変異株の感染が広がる新型コロナの状況を背景に、東京オリンピック・パラリンピック実施か中止かの決定を決めなければならない期限が迫っている。

 21日開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の調整委員会後の記者会見で、J・コーツ副会長は「感染対策を講じることで、緊急事態宣言下であってもなくても、安心安全な大会が実施できる」と表明した。一方、政府の基本的対処方針分科会の舘田一博東邦大教授は「東京に緊急事態宣言が出されている状況で五輪ができるとは思わないし、やってはいけないというのがみんなのコンセンサス」と述べた。(毎日22日)。

 菅義偉首相は10日の衆院予算委では何を聞かれても、「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、安心のうえ参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく」と繰り返した。朝日新聞によると、同じ答弁は17回。ちょっと度が過ぎている。
バッハ会長に「日本人のユニークな粘り強さという精神。逆境に耐え抜く能力をもっている」(1月27日)などとおだてられて、いい気になっている場合ではない。

 世論調査では各社とも「中止」論がトップで、読売(調査7-9日)では、「中止」59%に、「観客を制限して開催」16%、「無観客で開催」23%。朝日(同15-16日)は「中止」43%、「再延期」40%、「実施」論は14%、共同(同)でも59.7%が「中止」、「無観客」25.2%、「観客を制限して開催」は12.6%、毎日(22日調査)は「中止」40%、「再延期」23%、「無観客で開催」は13%だった。

 こうした状況の中、菅内閣の支持率は急落。不支持率は、朝日47%(支持33%)、共同47・3%(同41・1%)、ANN45・9%(同35・6%)、フジ産経52・8%(同43%)、読売46%(同43%)、毎日も59%(同31%)。軒並み不支持が支持を上回った。理由はいろいろあるが、コロナ対策で毎日調査が「評価する」13%、「評価しない」69%だったこともあり、軒並み「不支持」が「支持」を上回った。

 支持、不支持以前に、菅内閣が抱える問題には、「1億5000万円の出所」や「ウィッシュウマ・サンダマリさんの死の真相」「赤木手記」、「学術会議問題の記録」と公開を求められた課題が山積している。ひとつひとつ解きほぐして行かなければ、信頼は回復できそうにない。すべて「首相の決断」にかかっている。
2021/05/15
個人情報保護、国の「監視」を
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プライバシーの保護についての懸念などを伝える各紙

 官民が保持する個人情報の一元化などを含むデジタル改革関連法が5月12日、参院本会議で可決、成立した。マイナンバーカードの普及、行政手続きのオンライン化などを加速させる内容で、政府は、情報一元化・標準化の司令塔となるデジタル庁を9月に発足させる方針。国が住民の個人情報を管理することに「監視社会への扉を開きかねない」「個人情報は守られるのか」と反対や懸念の声が上がっている。

 デジタル化に関わる60本を超える新法案や法改正案があったにもかかわらず、短時間での審議に終わり、「国会議員は法案をきちんと読んだのか」と疑問を持たざるを得ない。
 その一つが、個人情報保護制度の改定だ。従来の個人情報保護法は、民間、国、独立行政法人の三つに分かれていたが、それぞれの条例やルールを国が作成するガイドラインに合わせて一本化する。民間や自治体が集約した情報を国の管理下に置くことになる。こうした一元化、標準化により、政府の情報監視が強まる恐れがある。個人のプライバシーを守ることよりも、行政や民間企業によるデータの利活用を優先するという姿勢は看過できない。また、主に民間の個人情報を監督してきた「個人情報保護委員会」が、地方自治体など行政機関の監督も行うことになる。膨大な個人情報を、分散管理ではなく集中管理に切り替えれば、情報ろうえいのリスクはより高まることになる。
 今国会の審議で、個人情報を民間が利活用する動きとして、全国30の国立大学が授業料免除者名簿を外部に提供しようとしていたことなどが判明した。プライバシーに関わる重大な問題が、いまだに安易に取り扱われているのが現状だ。
 専修大学の山田健太教授(言論法)は、法律の運用にあたって「個人が自分の情報を管理する『自己情報コントロール権』の明記などが必要だ」と指摘する。
 監視社会への移行を阻止するには、市民や自治体が国を「監視」することが重要だ。
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