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2023/07/14
これでいいのか―問われる法曹界
 あまり報道されていないが、法曹界が揺れている。雑誌「経済」5月号掲載された、フリー・ジャーナリスト後藤英則氏の論文が、波紋を呼んでいるためだ。

「最高裁の政治性」についての議論は今に始まったことではない。しかし、その人事と国の責任を問う裁判が、こんなにはっきりと見える形で明らかにされると、これはもう一種の「スキャンダル」。最高裁と大手事務所は、これでいいのか?
 もはや「裁判官は弁明せず」などといっている段階ではない。最高裁は事実を調査し、きちんと釈明し、問題がある裁判のやり直しを命じなければいけないのではないだろうか。

▼原発事故に国の責任はないのか?

 後藤氏の論文は、「『国に責任はない』原発国賠訴訟・最高裁判決は誰がつくったか 裁判所、国、東京電力、巨大法律事務所の系譜」というもので、昨年6月、最高裁が原発の被害を訴えた「福島生業」「群馬」「千葉」「愛媛」の訴訟の上告審で「想定を超える津波が来たので、たとえ事故前の予測に基づき防潮堤を作るなど対策を取っていても、事故の発生は防げなかった。だから国に責任はない」という判決について批判したものだ。

 国がするいろいろな事業には、「危険」が伴う場合がある。原発はその最たるものだが、そんなとき、その事業を進めるには、当然「対策」が求められている。原発への津波到来は、予測されていたが、今回の判決では、高裁で認定した「水密化」による事故防止対策は無視し、防潮堤だけに触れて、津波が予測より高かったので「想定外だった」から仕方がなかった、として責任を否定した。この言い分が通るなら、全国さまざまな公共事業の事故について、「想定外」が繰り返され、国は責任回避を広げかねない。

 「経済」では11ページにわたって、この判決を批判した。
 そこでは、法律審であるはずの最高裁が、高裁での事実認定を無視して独自に事実認定し、事実に基づかないまま判断するという間違いを犯していることや、多数意見より反対意見が量も内容も充実しており、多数意見が極めて杜撰なもであることを明らかにした。

 そしてさらに、判決を出した第2小法廷の4人の裁判官のうち、多数意見の3人が、みんな、企業法務などを国際的にも展開しているいわゆる大手法律事務所と関わっている事実を論証、実際に裁判に絡んでいることを明らかにした。

▼出たり入ったり面倒見たり…最高裁と大手事務所「回転ドア」

 具体的には、次のような事実だ。
  1. 裁判長の菅野博之判事は、この判決の翌月退官して、5大法律事務所の一つで、株主代表訴訟で東京電力の代理人の弁護士が所属する「長島・大野・常松法津事務所」の顧問に就任した。

  2. 多数意見を支持した草野晃一判事は、最高裁判事になる前、やはり大手の「西村・ときわ法律事務所」(現西村・あさひ法律事務所)の代表経営者だった。

  3. 生業訴訟などでは、元最高裁判事の千葉勝美弁護士の意見書が出されているが、この人は、最高裁事務総局当時、菅野裁判長の上司だった。千葉弁護士は、最高裁を退官したあと、草野氏がいた、この「西村・あさひ法律事務所」の「顧問」となっている。

  4. 多数意見に同調した岡村和美弁護士は、とされているが、弁護士登録した最初に所属した事務所が、この「長島・大野・常松」の前身、「長島・大野法律事務所」だった。
▼法律問題は関係がない…でいいのか

 後藤氏はこれらについて、最高裁や大手事務所に質問したが、いずれも「個別の事件については答えられない」「全て法律論」などと回答は得られなかったという。

 問題になっている5大法律事務所とは、「西村・あさひ」「長島・大野・常松」「アンダーソン・毛利・松本」「森・浜田松本」「TMI」の各法律事務所。いずれも500人から700人の弁護士を抱え、国内や海外にも拠点を持つ。

 原発事故では、「政界・財界・官界」に加えて「学界・報道界」を入れて「原発利益共同体」「原発ペンタゴン」などと言われているが、「最高裁と大手弁護士事務所」の癒着は、「法曹界」も「原子力村」の利益共同体の一角を占めていることを示している。

 「司法」だけは何とかまともでいてほしい、「最高裁」だけは何とかまとめでいてほしい、と「憲法の番人」を期待する国民の声に、法律家はどう考えるのだろうか?
(S.M.)
2023/06/28
政治の「劣化」を食い止めよう
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 旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と自民党との癒着、マイナンバーカード普及のための健康保険証の廃止、入管法の「改悪」や「LGBT理解増進法」の強行可決――。民意とかけ離れたことを次々と押し進める現政権。一体、どこを向いて政治をつかさどっているのか。
 当事者らがいち早く反対の声を上げたLGBT理解増進法(6月16日成立)は、性的少数者に対する理解を広げることが目的なのに、法案の度重なる修正で「差別を助長しかねない」と懸念が残る内容になった。
 理由の一つは、「全ての国民が安心して生活できるよう留意する。政府はその運用に必要な指針を策定する」と定めた12条だ。日本維新の会、国民民主党の賛同を得ようとして自民党が両党案を受け入れて新設された。法律が施行されれば、「男性の体を持って生まれたが心は女性」という人も「女湯に入れるようになる」など、誤った言説が流布されたことが背景にある。この条文は、使い方によっては多数派に配慮する規定として機能し、「自治体や教育現場での先進的な取り組みが規制されてしまう」とのおそれがある。同法の成立後、LGBT法連合会のメンバーや弁護士、支援者らが東京・霞ケ関の厚生労働省で記者会見し、「求めてきた法案とは逆の内容。さらなる生きづらさを強いられる」などと訴えた=写真。
 首相自身、息子が外遊の際に公用車で観光した疑惑の渦中にあり、さらに新型コロナウイルス禍の下、家族や親族らを集めて首相公邸でパーティーを行うなど「ありえない」ことを次々とやってのけている。
 日本の市民社会の成熟度が問われて久しい。だが、政治の「劣化」があまりにも激しい。スマートフォンではなく現実を見よう。そして声を上げて行動しよう。「まずは自分から」と気を引き締めている。
(M)
2023/06/11
解散風のリアリズム
 月1回、原則日曜に書いている。
 今日11日の読売1面見出し。「首相、解散時期探る。月内か今秋か」と事実上2者択一を打ち出している。
 「G7サミットで支持率があがってる今だ」VS「いま解散する大義がない(自民内の必ずしも岸田全面賛成ではない諸勢力)」という構図のようだ。
 なお月刊誌『選択』6月号の見出しで目立つのは「6・18大隈講堂解散か」。1週間ない。21日会期末直前の18日、岸田首相は母校の早稲田訪れ講演する。「『大隈講堂解散』があってもおかしくない」というのだが。これは飛ばし記事だろうとは思う。次の日曜には答えがでているが。

 さて筆者は月いちこのサイトで「改憲勢力と改憲反対勢力の対抗構図」を中心にみてきた。
 この間、興味を引いたのは、岸田首相のものの言い方だ。少なくとも昨秋までは国会で「任期中に改憲という思いはいささかもかわりがない」と繰り返していた。昨年10月5日の本会議などがそうだ。

 ところが今年になっては微妙に変化している。「総裁選に当たって任期中に憲法改正を実現したいと申し上げた。改憲に対する思いはいささかも変化していない」(4月25日、自民党憲法改正実現本部の会合)。つまり「いささかも変わりない」は、「任期中改憲」とは切り離している。

 じつはこの手法は今年の憲法記念日に産経新聞に登場した際も同じなのだ。「改憲への思いは。スケジュールは?」の質問にこう答えた。
 「総裁選で任期中に改憲実現と訴え、選出された」。その後の衆院選、参院選は「改憲を公約の大きな柱として戦い、勝利した。「改憲に向けた強い思いはいささかも変わりありません」。
 ただし、「首相の立場で今後のスケジュールなどを具体的に述べることは控え」るという。(しかしそこは産経のこと、「首相 任期中の実現意欲」と見出しはとっている)

 岸田首相は5月26日、改憲派国会議員らでつくる新憲法制定議員連盟で自民総裁としてあいさつしたが、「改憲に強い思いをもって挑戦」と言ったが、おもな報道を見る限り「いささかも変わりはない」と言わなかったようだ。
 率直に言って、「6,7月解散」は来年9月の「総裁任期」まで間がありすぎる。自民が勝ったとしても1年3か月「岸田政権」を1あと1年3カ月維持するのは大変だろう。
 さらに憲法については、改憲反対の前面部隊でも、改憲勢力の執念は警戒はしつつも「強気のリアリズム」という流れがでているのではないか。9条の会事務局、総がかり行動実行委員会共同代表の高田健氏の見解に注目している。5月28日、九条の会東京連絡会の講演を聞いた。
 「国民投票、やるならやってみろとたんかを切る」のでなく「国民投票に持ち込ませないためにどう戦うかが今一番大事」。さらにずばり言う。「(自民総裁任期はあと1年3カ月)この間に改憲派政党の合意が本当にできるか。私はできないと思う」。その理由として「自民 4項目」のひどさ、でたらめさをあげている。

 立場は違うが、放送などのキャスター・辛坊治郎氏は3日のラジオ番組で、公明は「9条堅持」なので合意しないとして「来年9月までの改憲は絶対ムリ」「違えばこの番組降りる」とまで言った。ただ「来年9月までは」の限定付きで、しかも公明がどこまで9条堅持かを見つめなければならぬ。

 ここでもリアリズムの目が求められる。
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