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2025/02/17
「剣をとる者はみな、剣で滅びる」
(マタイ26章52節)
いま、防衛と外交を考える
国会で来年度予算案の審議が本格化しているが、国民生活が窮乏する中で、巨大な軍事費についての議論が抜け落ちている。与党が過半数割れをし、予算案も野党の賛成を得なければ成立しない状況下、軍事費と民生のための財源論議は棚上げされたまま。物価高騰に苦しむ人々のための財源確保の議論はほとんど行われていない。いま、求められているのは軍事力の増強ではなく、国民が安心して暮らせる物価高騰対策の強化、年金等社会保障の充実、教育費負担の軽減などである。
▼石破トランプ会談に成果はあるか
訪米した石破首相は2月7日、再任したトランプ大統領と会談し、「日米同盟の抑止力を強化していく」ことで意見が一致。共同声明には「米国は2027年度より後も抜本的に防衛力を強化していくことに対する日本のコミットメントを改めて歓迎する」と書き込まれた。これは、23年に岸田首相が訪米し、当時のバイデン大統領と、日米共同で敵基地攻撃能力の協力強化を進めることに合意したことを引き継いでいる。
岸田首相は、このことを国会より先に、米国に報告し、「一体、国民主権はどこに行ったのか」「日本は米国主権か」と、問題視された。軍事費を増額すれば、国民の生活の質の低下は必至で(財布は一つしかない)、軍事的緊張や不測の事態が起こる可能性は高まり、平和は遠ざかるばかり。現在、国会で審議されている政府予算案には、8兆7000億円という過去最大の軍事費が計上されている。政府は従来、軍事費は「GDP比1%以内」を目安にしていたが、岸田前政権はこれを一気に2%に引き上げ、石破首相も「安全保障環境が厳しければ、厳しいほど増やすということは、国家に責任を持つ者として判断としてあるべきものだ」と述べ、天井知らずの軍拡に道を開こうとしている。
石破・トランプ会談では、米国の日本防衛など「日米同盟」について様々に言及されたが、トランプ大統領の就任で不確実性を増した国際情勢については、「踏み込んだ議論がなされた様子はうかがえない」(毎日新聞)。しかも、世界保健機関(WHO)やパリ協定からの離脱、パレスチナ自治区の領有、住民の域外移住など、トランプ大統領が示した方針は、国際法に違反するものである。読売新聞ですら「こうした独善的な言動まで手放しで支持するわけはいかない」として、「法の支配や国際協調の重要性を粘り強く米側に呼び掛けていかねばならない」と書いている。北海道新聞は「トランプ流に物申したか」と指摘している。
▼遠のく「平和への権利」
国会閉会中に、岸田内閣が「安保関連3文書」を閣議決定したのは、2年前の2022年12月だった。安保3文書は、米国の世界戦略に沿って、九州から南西諸島に至るミサイル網の配備など、台湾有事を前提に自衛隊の軍備増強と日米共同軍事行動の一体化を図ろうとする。「反撃能力の保有」や「軍事費を5年間で計43兆円にまで増額する」と明記されている。戦後一貫して主張されてきた「他国を攻撃できる兵器の保有は、憲法の趣旨とするところではない」との政府見解は、見事に覆された。この重大な政策決定が、国会での議論や承認も経ないままに行われたことを、私は忘れることはできない。2014年、安倍内閣による強行採決で、安全保障関連法案(戦争法)が成立し、日本は集団的自衛権行使が可能になった。さらに日本は、ここに至って「先制攻撃ができる国」、「自ら戦争をする国」へと変貌した。何を隠そう、日本は戦後、米国による占領、サンフランシスコ条約とセットになった日米安保体制の下、ずっと米国依存の外交を続けてきた。米中対立の中で、単純に「米側」に立つことは、日本の利益にはならない。
▼中国とASEANと
今回の日米会談でも、重要なテーマになったのは、中国問題だった。米国は世界を仕切る超大国として中国との対立の度を深めている。しかし、日本はまた米国とは違うスタンスを持たなければならない。中国は、日本最大の貿易相手国であり、日系企業進出先の第1位でもある。台湾最大の貿易相手国も中国である。日中共同声明(1972年)第6項にうたわれる「日中両政府は、国際連合憲章の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する」を礎にして、友好的な関係を築くべきである。もう一つ、アジアで生きる日本に重要なことは、アジア各国、ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国との関係である。これまでASEANは、この地域の平和と安定促進のための重層的な枠組みづくりの中心的役割を果たしてきた。日本では必ずしも知られていないが、76年に生まれた東南アジア友好協力条約は、武力による威嚇または行使の放棄、紛争の平和的手段による解決を明記し、ASEANプラスアルファの形で、周辺各国の協力関係を維持し、東南アジアを「平和と協力」の地域に変えてきた。とくに、2005年からは東アジア首脳会議(東アジアサミット)を毎年開催し、首脳間での率直な対話が続けられている。日本もこのASEANを軸としての外交を展開していかなければならない。
▼とにかく「戦争はしない」決意を
戦時下で暮らしてきた筆者の母は、終生「戦争だけはどんな理由があっても絶対ダメ」と言い続けた。「戦争の記憶」を知る者が少なくなった今、大事なことは「剣をとる者はみな、剣で以て滅びる」という真理である。軍備をいくら増やしても、一旦戦争が起これば、命と平和な暮らしを守ることは不可能である。武力によらず外交の力での戦争回避こそ、求められている。(W)
2025/01/23
産経がいま一番おそれているのは
新聞の元日号トップは各紙がスクープを放ったり、その年に特に力をいれる課題を打ちだしたりしてしばしば話題になる。今年の産経がそうだろう。「別姓 小中生の半数反対 『自分はしない』6割」。そのために初の2000人調査をした、という。昨年の総選挙での「自公過半数割れ」「改憲勢力3分の2に達せず」について、自民応援新聞がいま何に最もおびえているかを浮き彫りにしているといえる。
24日から通常国会が始まったが、閉会後に都議選・参院選だ。産経は参院でも自公過半数割れしないか心配ではあるだろう。でも率直に言って「日米安保破棄」の政府ができるわけではない。天皇制だってまだ当分は続くだろう。では何が心配か、選択的とはいえ夫婦別姓が法的に認められることなのだ。それが産経の新年からのキャンペーンにあらわれているのではないか。
現に自民・産経の旗色は悪い。ざっくり言って「選択的夫婦別姓賛成」派明らかに固執派より多数である。(昨年7月の朝日世論調査では7割が選択的夫婦別姓に賛成だ。1月の毎日世論調査では「賛成46%、「反対」23%)
これを何としても阻止したい自民のコア部分(右派といってもいい)の不安を、産経がすくいあげたといえるだろう。「ごまかしの選択的夫婦別姓議論」と銘打った企画が続く。3日付「別姓 年内成立に現実味」、6日付「出生時の姓 裁判が決めるのか」。
8日付は右派のシンボル的存在と言える高市早苗氏が登場した。ただしいまは彼女とて「そもそも日本民族伝統の家庭という…」などとは言わない。見出しは「子の氏巡り親族争い懸念」といういわば小さなところにスポットを当てている。選択的夫婦別姓になって何が心配か。「夫婦双方の実家が子の氏を決める協議に介入する可能性」というのだ。それは夫婦の相談・協議にゆだねればいいだけのことではないか。天下の高市氏がそんな心配をしなくていい。
さらに高市氏は「通称(旧姓)使用求める声」というところに着地点を求めようとしている。それが広まっていることはみんな知っている。だからさらに「選択的夫婦別姓に」進もうという流れが多数になっているのだ。
改めて日本国憲法を引こう。9条とともに多くの人が好きだ、愛するという13条だ。「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」。そして24条「⓵婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」
23日のNHKテレビ7時のニュースは「今国会の焦点の一つ」として「選択的夫婦別姓」を取り上げていた。世論の関心も高い。憲法の精神を大きな武器・後ろ盾として、自民党右派、産経などの応援メディアの論と攻撃を打ち破っていこう。
(寺)
2025/01/03
国会前で無言の意志表示
作家の澤地久枝さんら250人
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「NO!WAR」のプラカード を手にする澤地久枝さん =東京都千代田区で1月3日 |
東京・永田町の国会議事堂正門前で年明けの3日、作家の澤地久枝さん(94)ら約250人が「無言のスタンディング」を行った。軍事費の大幅な増額を打ち出すなど、「戦争への道」を進もうとする現政権への抗議の意志表示。澤地さんは「NO!WAR」のプラカードを手にしながら、鋭いまなざしを国会議事堂に向けていた。
◇ ◇
「アベ政治を許さない」。こんなスローガンを掲げた澤地さんが、国会前の歩道に立ったのは2015年7月18日。安倍政権が強行しようとしていた安全保障関連法案に異議を唱えて立ち上がった。成立すれば、集団的自衛権の行使が可能になるなど、戦後日本の安全保障政策の根本を揺るがす重大な局面。ジャーナリストの鳥越俊太郎さん、作家の落合恵子さんが賛同し、5000人(主催者発表)以上が国会前に駆けつけた。
澤地さんの呼びかけは、全国一斉の行動だった。このスローガンを俳人、金子兜太さん(18年2月、98歳で他界)が揮毫(きごう)してインターネットのサイトに掲載。参加者がそれぞれ印刷すれば、どこへでも持ち歩くことができる。当日はメイン会場の国会前をはじめ、各会場で有志が「アベ政治を許さない」と記された大判の紙を掲げた。当初は一回だけの予定だったが、その反響は大きく、4カ月後の11月3日の「文化の日」に再開され、以後、毎月3日、国会前での行動が続いている。
◇ ◇
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「アンポをつぶせ!ちょうちんデモ」 に参加するメンバーら =東京都武蔵野市で1月1日 |
デモはベトナム戦争中の67年7月15日、数学者でもある社会運動家、もののべながおき(物部長興)さんの提唱でスタート。当初は「ベトナム反戦」を訴えて月2回実施していたが、戦争終結(75年4月)後は、毎月15日と元日に行っている。もののべさんは96年に亡くなり、現在は元私立高教師の川手晴雄さんらが継続している。
◇ ◇
昨秋の総選挙で、自公は大きく過半数割れをした。石破茂政権は少数与党政権であるとはいえ、それに対抗する野党が「平和憲法」に軸足を据えて力量を付けなければ、政治は変わらない。日本に大きな影響を与える米国はトランプ政権の再来で、このまま対米過剰依存が続けば沖縄の米軍基地の縮小は遠のき、自衛隊の南西諸島への配備が拡張され、日本は「戦争をする国」へと近づいていく。
そして忘れてはならないのは、自然災害や原発事故の問題だ。能登半島地震に関していえば、発生から1年を経過してもなお被災した人々は過酷な状況に置かれている。
◇ ◇
「2025年。戦後80年の年始めはどんな思いで国会前に立ちましたか」。国会前でのスタンディングを終えた澤地さんは、記者の問いかけに「戦争をしてはいけない。この一念です」と答えた。その後のミニ集会では、「(新春は)私たちが自分たちの手でお酒をつぎたい。日本の政治というものは混迷を極めていてこのままではろくな方向に行きません。せめて自分の意思というものをどこかにはっきりさせたい」と話した。
困難な課題が山積しているなかで迎えた正月。私たち市民こそ、この国の行方を真剣に考え、行動しなければならない。
(M・M)