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2024/08/14
改憲の「大音響」とのたたかいだ
(岸田退陣表明にもふれて)
「通奏低音」という音楽用語がある。バロック音楽に端を発し…などと説明されるが、比ゆ的に使われると「物事の根底にあって知らない間に全体に影響を与えるような雰囲気」(日本国語大辞典)となる。この秋の自民総裁選、誰にせよ新総裁の下で今年中にある可能性がある総選挙(そこで自公を少数に追い込みたいのだが)への通奏低音になっているのが「改憲」だと、少し前までは思っていた。今年の通常酷寒中に改憲派は発議できなかった。われわれはひとまず「岸田総裁任期中(24年9月まで)に改憲」を阻止した。まずは勝利した、と私も書いた。
もちろん岸田も改憲派も自民党全体も黙っていない。最重要ラインは岸田と3年前はそれを後押しした麻生の関係だ。情報誌『選択』8月号が興味深い話を紹介している。国会終盤直前、「岸田は6月18日の麻生との会食で『私の手で憲法改正をやりたい』と伝え、麻生も「いいんじゃねぇか」と賛意を示した」というのだ。改憲は麻生をつなぎとめる重要な環なのだ。
これを裏付けるような記事があった。「岸田氏再選へ改憲利用?」(毎日新聞7月13日付)。7月11日に改憲に向けた自民党ワーキングチームの第2回会合を開いた。「保守層のつなぎ留めができる政策はいま、憲法ぐらいしかない」という閣僚経験者の発言も紹介している。
8月に入り事態は急激に動き出す。広島・長崎原爆の日に挟まれた8月7日、岸田は自民党改憲実現本部(古屋圭司本部長)の会合に乗り込み、「9条への自衛隊明記」をより前面に出し、災害時などの議員任期延長とともに大号砲を放った。もちろん総裁選、その後の解散・総選挙時の一大争点化も意図している。改憲と言えば、もちろん岸田だけではない。石破も小泉進次郎も高市早苗も負けてはいない。一斉に改憲の太鼓を打ち鳴らす。
ここで冒頭の通奏低音に戻る。もはや「低音」ではなくなった。われわれは改憲勢力の流す「大音響音」とたたかっていかねばならぬ。
われわれの依拠するものはあるか。ある。何よりも「改憲必要なし」の世論だ。さまざまなデータがあるが、「戦争する国づくりストップ!憲法を守り・いかす共同センター」が出した声明からいくつか引く。*JNN8月の世論調査で「次の総理に最も重点的に取り組んでほしい課題」に「憲法改正」は最小の1.7%*今年5月の朝日世論調査では、憲法9条があるから「日本は戦争をしないですんできた」8割。あとはこの世論を基盤にそれを決定的に大きくしていく運動だ。
とここまで書いてアップしようと思ったら14日午前11時半の岸田総裁選不出馬会見だ。ただこの原稿を変える必要はないと思う。今後の何人かの立候補表明の中でいやがおうにも高まる「改憲大合唱・大音響」に立ち向かい、押しつぶしていこう。その先の総選挙は遠くはない。
(寺)
2024/07/22
都心の選挙難民
いまさら気づいたわけではないが、日本国憲法は「日本国民は、正当に選挙された国会の代表者を通じて行動し」で始まる。「選挙」がこんなにすぐ出てくる。ことほど左様に大事なのだ。なぜこんなことをいうか。都知事選から半月以上もたつのに、ある新聞投書がいまだに頭のすみにこびりついている。投票日前日6日の朝日くらし欄「ひととき」だ。
タイトルは「投票に行きたい」。港区の86歳女性で内容は以下。投票所は近くの小学校だが、行き帰りの坂道が急で、腰の悪い私と膝を痛めている91歳の夫は非常に負担。区役所に相談したら期日前投票はといわれた。しかしそこは小学校よりなお遠く、タクシーを頼まざるをえない。こうして5年ほど投票に行けてない。なんとか郵便投票を。
痛切。哀切。憲法の冒頭にある「選挙」の権利が極めて行使しにくくなっている一つの例だ。
いろんなことを考えた。①この夫婦は政党やその機関紙に縁はないのだろう②選挙に熱心な宗教団体とも無縁③老人会、趣味のサークルなどに不参加④車出そうかと言ってくれる親族や知人がいない。区在住の4人の知人にこの投書を知らせたが、町名までは書いてなので、それ以上は…ということだ。
ただ気になる点もある。この夫婦は日常の買い物はどうしてるのだろう。スーパーは小学校より近い、生協・宅配など利用、というあたりだろうか。
では朝日新聞暮らし部に思いを転じる。「どこの人かわかれば今後は私が車をだすなりするが」という申し出が手紙やメールでそれなりにあったとは思う。なにか動いたかな。「希望者に郵便投票を」(これは高齢者・障害者だけでなく施設入所者にとっても重大課題だ)というキャンペーンに進まないかな。
冒頭の参政権に戻る。憲法15条は「公務員を選定し及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」とある。学生時代に憲法の授業をとらなかったので、今回初めて知ったことがいくつかあった。、「参政権は『国家への自由』」であること、選挙権は「個人の人権であるとともに、公務員の選定に参加することを意味する」。結局、思いはまた冒頭の高齢夫婦に戻る。なんとかしたい。なんとかしよう。
(寺)
追記=朝日新聞には「住所を教えてくれれば車を出す」などの申し出がかなり寄せられたと思う。一読者としてそうした声がどのくらいあったかを知りたいと思ったが、朝日についていえば「〇〇部に」という電話はつながず、お客様窓口にいく。意見・質問は「伝えるが、返事があるかはわからない」。これでいいのか。
2024/06/17
一つの「決着」
6月、日本政治の焦点は、今国会閉幕までの「政治資金」問題の着地のありよう、それと東京都知事選だろう。当欄でS.M氏、M.M氏が取り上げた通りである。私はさらに当欄の主要テーマともいえる憲法について「9月の岸田任期までの改憲」の各種の猛攻を押しとどめたことを、この6月の重要な足跡としてあげたい。6月13日の衆院憲法審査会で自民党の中谷元・与党筆頭幹事は今国会中の改憲案審議は無理と見て「個人メモ」を出した。災害や感染症などを持ち出して「選挙困難時の任期延長」を提案した。改憲案であるかどうかも定かでない。国民民主の玉木代表はや維新議員はあからさまに不満を表明した。衆院審査会は6月20日が今国会最後の定例日だが、党首討論があり内閣不信任案提出も予想され、審査会は開かれないだろう。
「9月岸田首相(自民総裁)任期までの改憲」をわれわれはいったんは打ち破った。「9月まで」攻防に一つの決着をつけたのだ。自民は今年の大会決定でいう「今年中」となお言うだろうが、われわれも「今年中の改憲などとんでもない」とまた押し返せばいい。そういう闘いが続く。さらに岸田が9月までの解散という「奇手」を使うかの可能性はゼロではない。また誰であれ自民の9月以降の総裁が解散に打って出ることは考えられる。つまりわれわれの改憲阻止行動は「次の総選挙」と密接にからんでくる、いまはそういう時期なのだ。
4月の衆院補選は自民3議席がなくなり、いずれも野党第1党の立民党がとった。改憲自民が減り、国会憲法審査会で自民改憲案にノーといっている党が増えたのだ。次の解散が誰の手で行われるにせよ、巣選挙は改憲をめぐる一大激突の場でもある。改憲勢力を減らそう。その意味では今回の都知事選は小池支持の改憲勢力を打ち破るたたかいでもあるのだ。
最後に、岸田政治はいま「難破船」「断崖」などいろいろいわれているが、この時を狙って右派マグマが急膨張・爆発しないとも限らない。4月の自民憲法改憲実現本部(古屋圭司本部長)のあと、党や政府の要職を歴任した重鎮が、改憲作業が進まないことに業を煮やし「もうこんな自民党には愛想をつかした」と岸田首相おろしととれる発言をした(4月27日付産経)。今の自民の右バネの底流として警戒を怠ってはならない。
(寺)