2025/04/12
劇団黒テントの新作「軍服の似合うバートルビー」
東京・下北沢の小劇場楽園で
4月13日まで

「軍服の似合うバートルビー」に兵士役で出演する服部吉次さん(右)とバートルビー役の岡薫さん=東京都世田谷区で
今夏、戦後80年を迎えるのを前に、舞台俳優の服部吉次さん(80)が東京・下北沢の小劇場楽園で上演中の舞台「軍服の似合うバートルビー」に出演している。服部さんが所属する劇団黒テントの新作で、戦場の兵士に手紙を届ける郵便配達の女性と兵士らによる物語。服部さんは兵士役の一人を演じている。
舞台では、郵便局に勤めるバートルビーが戦地の郵便配達人になるところから、ストーリーが展開する。銃弾が飛び交うなか、はいつくばって手紙を配るバートルビーに、兵士たちは「僕の親しい人たちは、僕が今、こんなことをしでかしているとは夢にも思っていない」「僕が撃つと、必ず向こうで誰かが一人死ぬ」などと言い、口紅を投げてよこした女性兵士は「銃弾に塗られるより、よっぽど幸福でしょう」と乾いた笑みを浮かべた――。
劇団黒テントは演出家の佐藤信(まこと)さん(81)ら有志が1970年、黒い大型のテント劇場で公演したのが始まりで、故唐十郎さんが率いた状況劇場などとともに日本のアングラ演劇を支えてきた。 創設メンバーの服部さんは、作曲家の服部良一さんの次男で、小学生のときに故ジャニー喜多川氏の性被害に遭い、そのトラウマに苦しんだ。演劇界に身を置くようになったのは、「これまでの芸能界とは異なる世界をつくろうとの思いがあった」という。その服部さんが、自らの性被害を証言したのは2023年7月だった。カウアン・オカモトさんをはじめ元ジャニーズ・ジュニアの男性たちが次々に声を上げたことが背中を押した。
いまは、元ジュニアらと世代を超えて交流する服部さんは、今作で渾身の演技を見せる。その胸の内に秘める願いは「平和」であり、「だれもが人権を尊重される社会」だ。「体験者が減っていくなかで、戦争の記憶を風化させないためには、我々、演劇人も新たな視点で戦争演劇をつくり続けることが必要」と語る。
今作の作者で演出を手がけた坂口瑞穂さん(51)は「国も時代も特定せず、戦争というものを寓話(ぐうわ)的に描いた。自分たちの日常の延長線上に戦争があるのではないか」と話していた。
4月13日まで。詳細は
黒テントのホームページ。
(M・M)