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2022/10/22
統一協会の反共思想
「政策掲げ 教団側『署名を』 議員側『踏み込んだ関係求められた』」―10月20日付朝日新聞の1面トップの見出し。朝日新聞については、統一協会問題は「全体として消極的ではないか」との批判もあったが、21日付では、他紙も揃ってこれを追いかけ、朝日新聞はこの特ダネで、間違いなく「統一協会報道」レースのトップに躍り出た。統一協会問題とは何か。それは、単にマインドコントロールで『信者』を獲得し、多くの家庭を崩壊させ、被害者を創り出す、という問題にとどまらず、「反共」「右翼」「復古主義」「国家主義」思想で、日本の政治・社会を支配しようとする「宗教団体」と称する組織の実に巧妙で複雑な思想運動である。メディアは、その実態を一層明確にしていかなければならない。
報道によると、統一協会が自民党と交わしていた「政策協定」は「世界平和連合」の名前で出された推薦確認書である。
推薦確認書
- 憲法を改正し、安全保障体制を強化する。
- 家庭教育支援法及び青少年健全育成基本法の国会での制定に取り組む。
- 「LGBT」問題、同性婚合法化に関しては慎重に扱う。
- アジアと日本の平和と繁栄を目指す「日韓トンネル」の実現を推進する。
- 国内外の共産主義勢力、文化共産主義勢力の構成を阻止する。
統一協会問題がわかり難い理由の一つは、この団体、「友好団体」とする多くの団体を周辺に置き、実はすべて一体の「ヤマタノオロチ」組織であることだ。ここに登場した「世界平和連合」とか「平和大使協議会」「世界平和議員連合」もその一部だ。
統一協会は「世界基督教統一神霊協会」として、1954年5月、みずからを救世主だとする文鮮明によって設立されたが、世界は「東西冷戦」の時代。ソ連勢力圏・第3勢力諸国の拡大に対する米国を中心にした、国際的な「反共運動」は、汎米会議のカラカス宣言、米国のSEATO提案など、さまざまな形で現れつつあった。
日本でも日米安保条約の改定が提案され、大きな反対にも拘わらず、強行され、現在に至る米億従属の枠組みが作られてしまったが、安保反対運動の高まりを経験した若者達の「心の空白」に、統一協会の「原理運動」がしのび込んでいった。その一方、「反共思想」の枠組みの中で、1968年1月、「国際勝共連合」が誕生した。
「本連合の目的は、勝共理論により国民を啓蒙し、当面日本を革命から守り、共産主義を日本から一掃することにある」(76年「勝共救国大会」の「提言」=茶本繁正著「原理運動の研究」から)
勝共連合はその後、「スパイ防止法制定」の地方議会決議運動を全国で展開したり、選挙では、街頭演説に動員したりする行動で目立っていたが、「勝共」の名前をいつの間にか消して、「世界平和議員連合」「平和大使協議会」などと名乗って、自民党などに浸透しているのが、現在の状況だ。
いま、この組織が中心的に取り上げ、動いているテーマが、この「確認書」にある「家庭教育支援法」「青少年健全育成基本法」や「LGBT」、「同性婚合法化」の問題。統一地方選では、こっそり、この課題を「形」「成果」にしようとするだろう。
安倍政権時代、「日本会議」が問題になった。この母体になった組織に「日本を守る国民会議」と「日本を守る会」があったが、「勝共連合」は「スパイ防止制定法運動」などで、これらの組織とも友好関係があり、現在に至っている。
表面上の名前に惑わされず、この「反共・復古主義」について、きちんと拾って、広く伝え、どこででも問題にしていく。そんな姿勢が求められている。
2022/10/10
岸田首相の改憲フレーズ「議論」から「発議」に
首相の改憲フレーズが変わった…9月27日の安倍元首相「国葬強行」から、10月3日からの臨時国会へ-憲法を念頭に振り返ってみる。
国葬強行でまず踏みにじられたのは憲法だったといっていい。思想信条の自由(19条)、法の下の平等(14条)。元首相を送る防衛省音楽隊が奏でたのは、1942年大日本帝国の軍楽曲「国の鎮め」だった。
「戦争放棄」「軍備不保持」の憲法の精神は冒頭から吹き飛んだ。
▼逆風の中で「強気」
「国葬」の6日後に参院選後の国会(臨時国会)がようやく開かれた。「国葬の高揚」を国会へつなげたかったのかもしれないが、そうはいかない。「国葬強行」「統一協会問題」「物価高騰」などなど、首相を迎える逆風は並みではない。
しかし首相の言動は部分的には極めて強気だ。3日、所信表明の最後の項目で岸田首相は改憲問題で「踏み込み」をした。「発議に向け、国会の場においてこれまで以上に積極的な議論が行われることを期待します」と冒頭に「発議」をもってきた。
21年秋の総選挙で首相率いる自民党など改憲志向勢力は3分の2を超えた。ただ直後の臨時国会所信表明では、「憲法審査会で、各政党が考え方を示した上で、与野党の枠を超え、建設的な議論を積極的に深めてもらうことを期待する」だった。
ことし1月の通常国会施政方針演説でも「憲法改正に関する国民的議論を喚起していくには、国会議員が国会の内外で議論を積み重ねていくことが必要だ」。まだ「発議」は口にしていない。
しかし今年の参院選での「勝利」が改憲への弾みとなったことは疑いない。投票日翌日7月11日の記者会見。首相は冒頭の総論では憲法について「国会の議論をリードしていきたい」だった。
ところが改めて質問が出ると「3分の2の賛成を結集し、できる限り早く発議に至る取り組みをすすめていく」に変わった。ことばを継ぐと強さが増す。
ほぼ3カ月たってようやく始まった臨時国会。首相の所信表明演説では「発議」が定着した感がある。
「発議に向け、国会の場において、これまで以上に積極的な議論を」
▼だんだん強くする手法
代表質問は一問一答式だが、相手に応じて「だんだん強くしていく」手法をとる。自民の別働突撃隊ともいえる維新の会・馬場書記長は、軍拡をあおったあげく「いつまでの国会発議をするのか」とねじを巻いた。
振り返れば首相は21年秋の自民総裁選の討論などで、改憲について何度か「総裁任期中(24年9月まで)にめどをつけたい」と発言している。馬場質問に対しては、それを踏まえて「思いは変わらない」と応じた。
図式的にいえば、あと2年の勝負だ。
しかし現実の政治と国民のダイナミズムはどうだ。冒頭の3課題だけではない。「ウクライナ問題でどんな役割を果たすのか」「まだアベノミクスを続けるのか」「コロナ対策はあまりにも成り行き任せ」などなど。内閣支持率はメディアによっては3割を切る危険水域だ。
来年の日本・広島での「サミットの成果」で解散、などの観測さえある。国民の意思と行動があれば「2年勝負」はいくらでも押し返せるし、狂う。勝負そのものもつぶせる。
2022/10/02
福島の現実と「国葬」
■柳美里さん、米国の「バークレー日本賞」受賞。 「この作品は、福島の沿岸部から東京に出稼ぎに行き、帰る場所がなくなった一人の登場人物を追った物語」「日本の中に福島という場所があることを知るきっかけになれば」――。在日韓国人の作家で、東日本大震災後、福島県南相馬市に移住した柳美里(ユウ・ミリ)さん(54)が、米国の「バークレー日本賞」に選ばれ、授賞式が9月30日午後(日本時間10月1日午前)、同大で行われた。米国からオンラインでの会見に臨んだ柳さんは、受賞に結びついた作品の一つ、「JR上野駅公園口」(2014年刊、英語版は20年の全米図書賞)に触れながら、津波や原発事故で被災し、その後も台風、豪雨などの災害やコロナ禍で困難が続く福島の現状を語った=写真。
カリフォルニア大学バークレー校日本研究センターが主催するバークレー賞は、「生涯を通して世界における日本の理解に重要な貢献を行った人」に対して贈られ、柳さんは、村上春樹、宮崎駿、坂本龍一、梶田隆章の各氏に続く5人目の受賞者だ。会見で柳さんは「地元では2011年3月11日のことは語り合わない。(福島のことを)ノンフィクションでは書けない。沈黙の層が自分のなかで厚くなっている」と述べ、「3月11日の災害だけではない。事業者はたくさんの借金をし、立ち直ろうとした矢先、(16年に)福島県沖地震があり19年の台風19号、その翌年からはコロナ禍。今年3月16日にも(震度6強の)地震があった。絶望に近い状況の方もいると思います」。
そして、ロシア軍によるウクライナ侵攻など、「いま、あちこちで内戦や戦争が起き、居場所をなくす人が生み出されている」と海外に目を向けた。
「天皇制という一定の権力がありつづけるこの国のありようを米国の学生たちはどうとらえたと思うか」との質問には、同日本研究センター長を務める羽生淳子教授が代わりに「そのことを、普遍性とどう結びつけるかが大事。アメリカの大学ではダイバーシティ、インクルージョンという言葉が切実に浮かび上がっている」と答え、アフリカ系米国人の学生から「(柳さんが在日韓国人として)苦しんできたことを、黒人と言い換えてもまったく同じでは、という質問があった」と報告した。
柳さんは、「窓は家の中にあり、扉がふさがれた場合に出入りができ、風を招きいれることもできる」と言い、自身を「窓のような存在」として、これからも作品を書き続けると話した。
■困難の中で生きる市民から目を背けて「国葬」強行
安倍晋三元首相の「国葬」を伝える各紙
相次ぐ災害で生活や事業の再建に追われ、コロナ禍がその苦難に追い打ちをかける。おそらく海外の人には思いもよらない事態に追い込まれているこの国で、9月27日、安倍晋三元首相の「国葬」が強行された。戦前にあった日本の国葬令は、戦後の1947年に失効され、法的根拠はなくなった。だが、首相経験者の吉田茂氏は国葬(67年)となり、このときは自民党が野党に合意を取り付けた。今回は、森友・加計問題など疑惑の渦中にあり、首相時の評価が分かれる人物について、「人の意見をよく聞く」はずの岸田文雄首相が、国会に諮らず、人々が納得する説明もせず、「国葬」を決めた。多額の費用が使われ、原資はもちろん市民の血税だ。「民主主義の崩壊」と人々が声を上げるのは当然と言える。
今月の臨時国会で、野党は国葬問題を厳しく追及し、検証作業をしなければならない。私たち市民も、政権の横暴、暴走をこれ以上、許してはならない。